第157話 ハムネア脱出1
俺たちがおっさんと遊んでいたら、階段を駆け下りる音がした。
やっと、ギルマスが現れると思ったら、先ほどの若い男の職員さんが一人だった。ギルドマスターがいない?
窓口の前に戻ってみると、息を切らせている職員さんが、
「ショウタさんにアスカさん。申し訳ありません。ただいま、ギルドマスターは不在のようです」
ギルドマスターはいつもギルドの中にいるものだと勝手に思っていたので不在とは想定外だった。夜が明ける前に何とかしないと面倒だ。まだだいぶ時間があるが探してみるか。
「アスカ、どうする?」
「マスター、クエストマーカーの示している方向に行けばいいんじゃないでしょうか」
「そうだった。そうだった。いまクエストマーカーはギルドの向こうを指してるぞ!
職員さん、あっちの方向には何が有ります?」
俺が指さしたのは、カウンターの奥の方だ。
「あちらにあるのは、物置です。外へ出れば、解体場や倉庫、馬車への荷物の積み込み場があります」
「ちょっとそっちに行ってもいいですか?」
「はい。そちらから、カウンターの中にお入りください」
冒険者ギルドのカウンターの中に入って進んで行くと、クエストマーカーが少しずつ左の方に振れていく。不審に思いながらもその指し示す方向に進んで行くと壁にぶつかった。
ミニマップを見ると、この先に3人ほど人がいるのが分かる。
「職員さん。この壁の向こうには何が有るんですか?」
「この壁の先には何もなかったと思いますが」
「そうですか」
何か隠し扉でもないものかと詳しく壁際を調べてみたが何も見つからない。この壁を壊すことができればいいのだがそこまでするわけにもいかないので、悩んでいると。
「マスター。壁などは壊してしまいましょう。問題があれば、あとで王都の冒険者ギルドに対応してもらえばいいんじゃないでしょうか。それでも文句が出るようなら」
そう言って、アスカが腰の2本の刀の柄を握った。
「それもそうだな。ためらっててもしょうがない。それじゃあ一気に行くぞ」
「はい、マスター」
「職員さん、この壁を壊してもいいですよね?」
「いえ、それは私の一存では何とも」
「誰に聞けばいいですか」
「それは、ギルドマスターだと思います」
これは、だめだ。仕方ないのでアスカに目配せする。
シュー!
そんな音がして、目の前の壁からホコリが舞い上がった。髪の毛で壁を切り刻んで人が通れるくらいの孔を作ったのだろう。
俺もアスカも白いホコリにまみれてしまったが、いきなりホコリを浴びた職員さんはむせ始めた。
ホコリが収まると、壁の向こうに上の方から地下に続いた螺旋階段があった。なるほど、ギルドマスターの部屋のどこかに隠し扉かなんかがあって、そこからこの階段を使って地下にある施設か何かに出入りしてるんだと当たりをつけた。
「職員さん。職員さんはここで誰も中に入れないよう見張っていてください。俺たちはこの階段を下りて様子を見てきますから」
ホコリを掃いながら職員さんにことわって壁の中に入っていった。
螺旋階段にはところどころに照明が付いていたがかなり暗い。アスカを先頭にして下りていくと、頑丈そうな扉に突き当たった。クエストマーカーはその先を指している。扉に手を掛けると鍵がかかっているようで開かない。
ミニマップを見ると、扉の向こう、すぐ近くに一人。離れたところに二人いるようだ。
「おーい、誰かこの扉を開けてくれ。われわれはアデレード王国の冒険者ギルドから来た者だ」
一応、呼びかけたのだが返事がない。扉の近くにいるのはおそらくギルドマスターだと思うがいったいどうしたんだ?
「マスター、壁を壊した以上、扉の一枚や二枚壊しても同じです」
「アスカの言う通りだ。おそらく皇女さまたちはこの中に匿われているんだろうから、早いとこ連れ出して王都に戻ろう」
「それでは、開けます」
アスカが右手を扉の取っ手に手を掛けたら、扉は何の抵抗もなく開いてしまった。いやよく見ると扉は蝶番から外れてしまっている。これも修理が大変だ。それでもさっきの壁のように粉みじんになるよりは安く済むだろう。アスカもそこらへんを少し考えたのかもしれない。いや、何も考えてはいないな。
アスカが外れた扉を横によけたので、中をのぞいて見たが、暗くて良くわからない。
「マスター、私が先に入ります」
そう言って、アスカが先に中に入っていった。
「誰だ!」
低めの声だが、女の声だ。いきなりアスカに向かって大きく反った刀が突き出された。刃先はアスカの首筋に添えられている。
「もう一度問う。誰だ。返答次第では、このまま首を刎ねる!」
アスカが反撃していないことに安心しつつ、
「さっきも言ったようにわれわれはアデレード王国の冒険者ギルドから来た者だ。この書状を見てもらえば分かると思う」
そう言って、スミスさんからもらった書状を暗闇の方に突き出すと、さっと取り上げられた。
「暗くて、見えん。仕方がない」
そう聞こえたと同時に部屋の中に明かりがともった。




