第156話 ハムネア冒険者ギルド
ハムネアの冒険者ギルドの扉の前に立ち『たのもー』と心の中だけで言ってみる。
扉を開けて中に入ると、いつもの冒険者ギルドの風景だ。左手にある酒場を兼ねた食堂では、ごっつい男女の冒険者たちが騒ぎながら酒を飲んだり食事をしている。通りの人の少なさからは考えられないような人の多さだ。
俺たちが扉を開けて入ってきたのに気付いた者たちがこっちの方を見て、入ってきたのが普段着姿の若い男女だったことで、ギルドへ来た依頼人とでも思ったのかすぐに自分たちの会話や食事に戻った。
ギルドのカウンターにいるのは若い男の職員が一人。半分居眠りをしている風で目を閉じている。まだそんなに夜遅いわけではないのに疲れているのか? 俺が『進撃の八角棒』をドシン、ドシン、といわせながら近寄ってみると、目を開けた。床は木の板だったので当然のように八角形の跡がついている。
「あのう、起きてますか?」
「はっ、はい! 起きてます!」
元気いっぱいの人だった。言葉はアスカの予想通り問題がなかったので安心だ。
「私たちはアデレート王国のセントラルにある冒険者ギルド王都本部からやって来た者なんですけど」
「えっ! アデレート王国? そこの方が?」
「はい。これが、私のギルドカードです」「これがわたしの」
二人そろって、Aランクのギルドカードを男の人に見せた。
「え、えっ! お二人ともAランク!!」
大声を出すものだから、食堂のほうで騒いでいた連中にも聞こえたようだ。数人の男女がこっちを見ながら何か言っている。
「はい。それで、こちらのギルドのギルドマスターさんにお会いしたいのですが」
「少々、お待ちください」
そう言って、男の人は後ろにあった階段をバタバタと音を立てながら走って上っていった。
「おい、ここらへんじゃ見ない顔だが、おまえさん達がAランクだって? うそをつくのもいい加減にしろよ。この帝都のギルドでさえ今のギルマス以来Aランクの冒険者はいないんだ。バカな冗談を言ってると俺みたいな男に絡まれてケガをするぜ」
声のした方へゆっくり振り向くと、かなり酒で出来上がったガタイのいいおっさんが腕まくりしながらこっちにやって来た。おっさんの後ろには数人の男女が続いている。
そのおっさんのシャツをたくし上げた腕には立派な入れ墨が見える。それが自慢なのだろう。いい大人だと思うけど、こっちには究極兵器、リーサルウェポンのアスカさんがいるんだよ。まあ、知らないんだから仕方ないけど。でもねえ、今回はあんまり騒ぎを起こしたくないっていうのに、向こうから来るようじゃ仕方ないよな。
確認のためアスカの顔を見ると軽く頷いた。よーし。アスカの目から見て俺でも十分勝てる相手ということが分かった。
それじゃあ、最近やってなかったけど、久しぶりに煽ってみますか。
こら、アスカさん可哀そうな人を見る目でおっさんを見ない。
「ケガするって俺たちのこと? どうして俺たちがケガすんのかな? おっさん、俺の持ってるこの棒、貸してやるからちょっと持ってみるかい?」
片手で持った八角棒をおっさんの方に突き出してやると、おっさんが俺のマネをして、片手で受け取った。受け取ったまでは良かったが、俺が手を離したとたんに重さで手首を痛めたようで取り落としてしまった。
ゴーン。ゴロゴロ。
棒を落としたぐらいではあり得ないような音がして八角棒が床に転がった。何とか床は跡が付いたくらいで抜けることなく、その衝撃に耐えたようだ。
ああ、良かった。おっさんの仲間が大勢いるようだからギルドの床を壊したのを俺のせいにされるかもしれないからな。
俺は八角棒を拾い直して、
「分かったろ、ガタイが良いだけのおっさん。それで、俺に因縁付けてどうしようと思っていたのかは知らないけど、すみませんでした、じゃすまないだろ?」
俺も乗って来たぞ。さーて、このおっさんどうしてやろうか。少なくとも、世の中の厳しさくらいは教えてやらないと、本人のためにならない。
こっちの方でもめ事が起こっていることに気付いた連中が集まって来た。
「アスカ、このおっさん、腰に剣をぶら下げているようだから、その剣を丸めてくれるか?」
「マスター、剣が鋼で出来ている場合、丸めると粉々になりますがそれでもいいですか?」
「破片が人に刺さると可哀そうだから、それ相応に小さく粉々にしてくれ」
「はい、マスター」
ビシッ! と床が音を立てたかと思うと、アスカがおっさんの隣に立っていた。その時にはすでにおっさんの腰に下げていた長剣を鞘から抜き放っている。
「マスター、やはり鋼のようです。それでは粉々にします。髪の毛での斬撃ですとここの連中では何が起こったか理解できないでしょうから、手で粉々にします」
バリッ! バリッ! バリ、バリ、グシャ! グシャ!
哀れ、おっさんの長剣は文字通りアスカの手で粉々になってしまった。そのあと、ご丁寧に剣の付け根がわずかに残った柄を、カチンと音を立てておっさんの腰に下がった鞘に戻してやったようだ。
気付けば、先ほどまでうるさかったギルドの中が水を打ったように静かになっていた。




