第139話 新使用人
商業ギルド長のリストさんがうちの屋敷の使用人として紹介したい人物が今いる五人の他、もう一人いると以前言っていたが、今日屋敷にその人物を連れてやってくるそうだ。どんな人物かはわからないが、リストさんの紹介であるため無碍にはできない。よほどのことがない限り雇い入れることになると思う。
リストさんたちがやってくるのをアスカと居間で待っていると、玄関の扉が開く音がして、しばらくしてハウゼンさんがやって来た。
「商業ギルドのリストさまがいらっしゃいました。小応接室の方にお通ししています」
二つある応接室の内、大きい方を応接室、小さい方を小応接室とそのまんまうちでは呼ぶことにしている。
「それじゃあ、すぐにいきます」
アスカを連れて小応接室に入ると、リストさんと二十歳くらいの女性が座っていた。立ち上がった二人に、とりあえず朝のあいさつをかわし席についてもらった。
リストさんの連れてきた女性は、どこかで会ったことがある感じのする女性だったが思い出せない。
「ショウタさま、本日伺ったのは、先日申しあげた、ショウタさまのこちらのお屋敷で雇っていただきたい最後の一名を紹介させていただくためです」
「ヨシュアと申します。その節は私の命を貴重なエリクシールを使ってまでお助けいただきありがとうございました」
どこかで見たことのある女性だと思ったら、リリアナ殿下へ毒物を投与していた実行犯、発覚後、自殺を図ったところを俺がエリクシールで救ったヨシュア・ハルベールだった。ハルベール伯爵はいなくなったからただのヨシュアになったのか。
「ショウタさまもご存じの事情で犯罪奴隷となったヨシュアですが、犯罪奴隷は過酷な労働のため壮健なものでさえ、二、三年で寿命をむかえるものだと聞きます。王室、特にリリアナ殿下のたっての願いで過酷な労働現場への就労をこれまで免除されてきたヨシュアですが、周囲の圧力から労働現場へ連れて行かなくてはならなくなってしまいました。ショウタさま、いかがでしょうか。生涯無給で構いませんのでヨシュアを雇っていただけませんか?」
「お話は承りました。しかし、どうしてこの件についてリストさんが仲立ちしてるんですか?」
「リリアナ殿下の大叔父にあたるリーシュ宰相がリリアナ殿下に泣きつかれまして、それが巡り巡って私のところに話がありまして。それで、ショウタさまにもゆかりのある人物なうえ、お屋敷で新たに人を集めているということで今回このように紹介させていただいたわけです」
「そうでしたか」
アスカの方を見るとわずかにうなずいたので、アスカも了解したのだろう。
「了解しました。ヨシュアさん、今日からでもうちで仕事をしてください」
ヨシュアさんがそれを聞いて深々と頭を下げた。
「あとリストさん、うちで働くのなら無給という訳にはいきませんので、ヨシュアさんの口座を作って一般的な給与をうちの口座から毎月振り込むようお願いします」
「承りました。それではヨシュアをよろしくおねがいします。いったんヨシュアを連れ帰り、荷物を持たせて午後にでもうかがわせます」
リストさんとヨシュアさんが立ち上がり頭を下げて部屋を出て行った。
「アスカ、いいんだよな?」
「もちろんです。一度マスターが救った命です。あの事件の最終的な黒幕はいまだ不明ですが、ヨシュア自身はただの実行犯で、詳しい事情を知っているようではありませんから口封じに刺客などが送られてくるとも思えません。来てくれた方が私としては暇つぶしになるし、マスターも楽しめると思いますが。そういうことなのでなにも問題ありません」
「刺客か。そういうのもいるんだろうな」
「私も実物はまだ見たことは有りません。物語の中だけかもしれませんが、私自身、自分をどうすれば殺せるのかわかりませんから少し興味は有ります」
「まあ、アスカは俺から見ても何をどうしようが死ぬとは思えないものな。しかしアスカがいるときなら何も心配ないが、いないときはシャーリーもいることだし心配だな」
「マスター。おそらく家令のハウゼンさんですが相当の実力者です。もちろん高レベルのマスターには及びませんが刺客などという者に後れをとるような人物には見えません」
「そうなのか?」
「そういった意味も含めて、リストさんがマスターに紹介したものと思います」
「なるほどな。リストさんには、ますます頭が上がらないな。うん、わかった。それじゃあ、ヨシュアさんが来る前に彼女の部屋の準備でもしておこうか?」
「はい。マスター」
午後から、ヨシュアさんがうちに来て働く旨を簡単な事情とともにハウゼンさんに伝え、空いた部屋を割り振ってもらった。そこに予備に持っていたベッドや寝具などをおいて迎え入れの準備は整った。
昼食時、みんなにも事情を説明したので問題はないだろう。王宮で侍女をしていた人物のため、礼儀作法は人並み以上仕込まれているだろうということで、ミラ、ソフィア両ハートとともに当面メイドとして仕事をしてもらうことになった。
それと、アスカの意見だが、アスカが手の空いているときには、錬金術を仕込んでいこうということになった。俺では助手として不足らしい。アスカの言いたいことはよく分かる。
そろそろヨシュアさんがやってくるだろうと居間でアスカと待っていたら、ソフィアがやって来た。
「ヨシュアさんがみえました」
台所で夕飯の仕込みをしている、ゴーメイさんとミラを除いたみんなで玄関に入って小さなカバン一つをもって佇んでいたヨシュアさんを迎えた。
「ヨシュアさん、今日からうちの家族になったわけだから肩の力を抜いてみんなに溶け込んでくれればいいよ。簡単な事情はみんなには伝えてあるけどそれだけだ。ヨシュアさんは生まれ変わったってことでみんなが受け入れてくれるから心配しないでいいよ」
「ありがとうございます。ヨシュアです。ショウタさまから事情を聞いていらっしゃる通り私は大変な罪を犯してしまい、一度は死んだ身です。それが、ショウタさま、アスカさまに生き返らせていただきました。このご恩を一生かけて返していきます。みなさま、そんな私ですがよろしくお願いします」
深々と頭を下げるヨシュアさんに向かって、みんなからの拍手が起こった。さすが、リストさんが選んだ人たちだ。
「ヨシュアさん、そんなに気張らなくてもいいんですよ。俺もアスカもできることをしただけのことですから」
「分かりました。それでも、感謝させていただきます。それと私の名前はヨシュアと呼び捨てにしてください」
「わかった。それじゃあ、ヨシュアこれからもよろしく。
ハウゼンさん、ヨシュアを部屋に案内して、仕事の割り振りなどお願いします」
「かしこまりました。それでは、ヨシュア。私について来てください」
こうして、ヨシュアがわれわれの家族になった。




