第135話 バザー2
今日の串焼きの人員配置は、俺とアスカが串焼きの製作を担当し、シャーリーとシャーリーの友達のエメルダさんが売り子となる予定だ。
「おはようございます」
エメルダさんもすぐにわれわれのいる屋台に気付いたようでこっちにやって来た。
「今日はわたしがおそろいのエプロンを用意したので、よろしかったら着てください」
エメルダさんから手渡されたエプロンは胸元から膝まである黄色いエプロンで胸のあたりにかわいい花の刺繍がされていた。それをみんなで着て準備完了だ。
校庭にいる人の数も増えてきたところなので、そろそろ串焼きを始めることにした。
砂虫の肉とサンドリザードの肉があるので、肉と野菜を刺した二種類の串を別々に大皿の上に積み重ねて置き、数本ずつ魔導コンロに置かれた金網の上で焼いていく。
魔導コンロの優れているところは、ガスコンロだとガスが燃えると水分が発生して串焼きなど無駄に湿気てしまうが、魔導コンロだと炭火焼のようにカラッと串焼きが焼ける。というアスカの解説だった。ガスコンロは今は無いが、俺の舌ではおそらくその違いは分からないと思う。
昨日試食したところ、砂虫の肉は塩コショウが合っているようで、サンドリザードの方はたれが合っているようだ。
肉汁や脂それに付けダレがコンロに落ちて煙が上がると、いい匂いがあたりに漂う。まだ午前中の早い時間だったが匂いにつられて屋台の前には十人ちかい生徒たちが串焼きができあがるのを待っている。しかも、だんだん生徒たちの数が増えてきている。生徒たちの話し声も自然と耳に入ってくる。
「あれが、1年のシャーリーさんの後見人のコダマ子爵とエンダー子爵さんよ」
「どれ、え、あの人たちがそうなの?」
「シャーリーさんとエメルダさんがいるんですものきっとそうよ」
「お二人ともお若い。しかもエンダー子爵さんはカッコいいうえにすごい美人だわ」
いま、ちょっとアスカの背筋が伸びたような気がしたぞ。
「コダマ子爵さんは何で坊主頭なのかしら? あまり似合っているとはいえないわ」
いいじゃないか。坊主頭はすっきりして気持ちいいんだぞ。まあ、ローティーンの女子には男の渋い魅力などわからないだろうがな。
「そうよね、それでもエンダー子爵さんはいつもコダマ子爵さんと一緒なんでしょ。きっと私たちではわからない魅力があるのよ」
こんどは、シャーリーの背筋が伸びたような気がする。
「あら、そうかしら。それにしてもこの匂い、いい匂いね。早く焼きあがらないかしら」
こんどは、シャーリーとエメルダさんの背筋が伸びたような気がする。
アスカと二人でコンロの上の金網で串焼きをひっくり返しながら焼いているのだが、やっと第一陣が焼きあがった。全部で二十本ほどの串焼きだったが、アッとゆう間に売れてしまった。
値段については無料でもよかったのだが、このバザーでの売り上げはいろいろな施設へ寄付するそうなので、一応一本あたり銅貨一枚の設定としている。
これだと、千本売っても小金貨一枚にしかならないので、バザーの終わりに売り上げを学校の運営に報告するとき、大金貨十枚ほど寄付しようと思っている。偽善かも知れないが、喜んでくれる人がいるならいいことだと思う。
次から次へ串焼きを網の上に並べて焼いて行くのだが、でき上がったものを大皿の上に置く暇もなく売れていく。
シャーリーとエメルダさんは、ピッチャーにいれたジュースを紙コップに注ぎ、それも一緒に販売している。氷などないのでジュースは生暖かいのだが、結構甘くておいしいらしく、これも一杯銅貨一枚の価格設定のせいか飛ぶように売れて行った。
昼頃までにはバザーに展示されていた品物があらかた売れてしまったようでそういった商品を並べた校庭の中央部の人だかりはおさまってきたのだが、屋台の前の人だかりは昼前ということもあり、どんどん増えていく一方だ。
生の串焼きはまだまだ収納の中に準備しているので問題はないが、ここにきてシャーリーとエメルダさんがへばって来たようだ。
「二人とも、あともう少し頑張ってくれ」
そう言って、スタミナポーションを渡しておいた。ポーションを飲んだ二人はしゃっきりしたようで、すぐに元気に動き始めることができた。
俺とアスカは周囲の雑音のなか串焼きを焼きながら雑談を続けている。
「アスカ、相当数売ったけど、収納庫の中の肉が全然減らないな」
「一本あたり使っている肉は五十グラム程度ですから、千本売ってもたったの五十キロです。今回サンドリザードは一匹しか解体していませんがそれでも五十キロ近い肉が取れました。使ったのは二十キロほどです。砂虫に至っては、用意した肉は百キロで、使ったのはこれも二十キロですから、全くと言っていいほど減っていません」
「この調子だと、サンドリザードでさえ一生ものだな。砂虫なんかどうにもならないぞ。俺の収納庫は、俺が死んだらどうなるんだろうな」
「きっと、中の物はそこらへんに散らばって出てくると思います」
「やっぱりそうだよな。だとすると、俺は狭い場所では死ねないな。……、そろそろ焼きあがったみたいだな。……、どんどん焼いてくぞ」
「はい、マスター。マスターが死んだ後は私が処分しますので安心してください」
「そん時はアスカ頼むな」
「任せてください」
それから一時間ほど経過してようやくバザーが終了した。コンロの火を落とし、熱くなったコンロの周囲が冷めるのを待って屋台を収納した。エメルダさんから渡されたエプロンはそのまま使ってくれといわれたので、ありがたくいただいた。
「エメルダさん、お疲れさま。シャーリーも疲れたろうから、学校の運営に今日の売り上げを渡して寄付をしたら、『ナイツオブダイヤモンド』に帰ってお茶でも飲みながら一服しよう」
「はい」「はい」
そんな感じで初めてのバザーは終わってしまった。もちろん俺たち四人はバザーに展示された物品を見る余裕などなかったのだが、それはそれとして今日は結構楽しかった。




