第104話 撃退・拉致運搬
俺とアスカは、王都の裏道で不審な連中と対峙している。
「少し質問してもいいか? それなりに出来る連中は、素手で砂虫を斃せるかな? 砂虫、名前ぐらい聞いたことが有るだろ? 俺と隣のマスカレードブルーは、砂虫を斃してAランク冒険者にこの前なったんだが、どうなんだ?」
その不審な連中の親玉っぽいやつが俺の脅しをせせら笑った。
「何を言い出すかと思えば、砂虫を二人で斃せるわけがない」
そういえば、港の一件もあって、俺たちのAランク昇進理由は公にされてないんだった。
「俺の言ったことが信用できないなら実力をみせるしかないな。マスカレードレッドさん、お前の双刀でこの連中に本当の恐怖を教えて上げなさい。今のところは殺さないようにな」
俺は越後のちりめん問屋のご隠居さんモードで一歩下がり、アスカを見守ることにした。
「はい。マスター」
アスカが、音もなく腰にクロスさせた双刀を抜き放った。前回ならず者を撃退した時は、二本の真っ黒い刀身の刀をそれぞれ斜め下に流すように構えていたが、今回は左手は前回同様左斜め下に構えたままだが、右手が、知らないうちに左上に上がっている。
俺たちに話しかけていた女の目だし帽が真っ二つになって飛んで行った。女の髪の毛はここら辺では珍しい黒髪で肩まで伸びている。唇は薄く目の細さが特徴的な顔だ。周りの男たちは一歩後ろに下がった。
どうやったんだ。俺にも見えなかったから残りの連中では無理だろう。しかし、弧を描いた斬撃で目だし帽を切りつければ、その下の顔は半分くらい切られているはずだが女の顔に切り傷は無いようだ。さては、アスカのヤツ、シルクハットを通して髪の毛も使ったな。
変則的に刀を構えたまま、アスカがゆっくり前に出る。正面の連中もそうだが反対側に立っている六人も動けないようだ。
「……」
よく見ると、目だし帽を切り飛ばされた女は、立ったまま気絶している。ゆっくり膝をついたかと思うと前のめりにくずおれて、道の上に転がってしまった。この女一人だけ確保すればいいからあとの連中は追い散らせばいいか。
俺たちを前後で囲んでいた男たちは、明らかにひるんでいる。
ズドン! ズドン!
仕上げに高速弾を男たちの前に打ち込んでやったら、一目散に逃げて行った。飛び散った石の破片でPAを全損して怪我でもしたのか足を引きずっている者もいる。
今の高速弾で道の舗装がえぐれてしまった。マズいと言えばかなりマズいが、あの連中以外は見ていない。ここは、知らんふりするしかあるまい。
アスカが切り裂いた目だし帽を収納し、
「アスカ、その女を縛り上げたいんだがロープがないんだ、どうすればいいかな?」
「薬草採取用に買った大き目の袋に入りませんか?」
「いや、さすがに入らんだろ。入ったとしても底が抜けるんじゃないか?」
「でしたら、足の方から袋に突っ込んで、そこで、袋の紐で縛り、今度は頭の方から袋をかぶせて紐で縛ればどうでしょう」
なかなかエグイ提案だ。だがそれが良い。アスカらしい。
「それしかないな」
袋を二枚収納から取り出し、気絶して寝転んでいる女の足を袋に突っ込んだらちょうど腰のあたりまで入った。
今度はもう一枚の袋を頭からかぶせて下に引っ張るとこれも腰のあたりまで来たので、そこで袋の紐で縛ったところちょうどいい塩梅になった。芋虫一丁でき上がり。
仮面をつけて山高帽を被った二人組が女を袋詰めしているわけで、第三者的にはどうなんだろう? 二人組は、不審者から見事に犯罪者にレベルアップだ。
人が来ないうちに退散しよう。
「マスター、芋虫が騒ぎ出したら面倒ですから、猿轡をしておきませんか?」
それもそうだと思い、一度、女にかぶせていた袋を引っ張り上げて顔を出し、口の中に丸めたタオルを突っ込んでやった。
もう一度袋をかぶせ、今度こそでき上がりだ。フー。男子高校生、齢十六にして、異世界にて女性を拉致するとは思わなかった。
「アスカ、これからどうすればいいと思う?」
「とりあえず、そこのゴミを持ってここから移動しましょう」
そういってアスカは、彼女の言うゴミを片手で小脇に抱え持った。ちょっと絵面が悪いがやむをえまい。しかし、これではどう見ても人間を抱えているように見える。
「アスカ、毛布で上からぐるぐる巻きにしよう。もう少し見た目が良くなるんじゃないか? もう一度降ろしてくれ」
収納から旅で使った毛布を二枚ほど取り出す。
「地面に置いて、ぐるぐる巻きだ。よしやってくれ」
道に広げた毛布の端に、袋をかぶせた女を置き毛布と一緒にぐるぐる回す。もう一回。だいぶ良くなった。これなら、筒状の荷物に見えないか?
「マスター、この変装まだ続けますか? これでは不審者ですから、変装はやめませんか?」
変装ではない、変身だ!
「そうだな」
変身道具をアスカから受け取りしまっておく。またお世話になることもあるだろう。
「それで、どこへ運びましょうか? どこか空き家でもあれば拝借できますが、近くにはなさそうです」
俺にとってははじめての体験だもの、女を捕まえてみたもののどうすりゃいいの?
「『ナイツオブダイヤモンド』じゃさすがにまずいから、思いつくのは、アルマさんの家くらいだな。事情を話せば何とかなるだろう」
「分かりました。私が一人で、荷物を持って走っていると見た目かなり不審ですので、マスターも担いでもらえませんか? ふたりで担げば、不審性がぐっと下がるカモしれません」
不審性とは何だか知らんが言いたいことは分かる。しかもその不審性が必ず下がるかはわからないのも同意だ。
「それじゃあ、アスカ。俺が前を走るから、歩調を合わせてくれよ」
「はい。マスター」
こうして俺たちは、籠かきよろしく荷物を担いでアルマさんの家へ走った。俺たちを見た人は意外にもそんなに驚いているようには見えなかった。王都の人たちも俺たちに慣れてくれたかな?




