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EP 9

飛竜騎士団との空中戦〜撃墜兵器は『醤油』の弾膜〜

「空飛ぶ屋台」が大盛況を迎え、ガレリアの街の空に肉椎茸ステーキの香ばしい匂いが満ちていた、その日の夕刻。

「ッ! 社長、上空から信じられない速度で接近する魔力反応の群れが来ます! これは……ッ!」

屋台の上で配膳を手伝っていたルナが、兎耳をピンと立てて叫んだ。

直後、街を覆うように巨大な影がいくつも落ちる。

『ギャオォォォォォォンッ!!』

耳をつんざくような咆哮と共に雲を突き抜けて現れたのは、十数頭の巨大な翼竜――『ワイバーン』の編隊だった。

それぞれの背には、ルナミス帝国軍の誇る精鋭『飛竜騎士スカイ・ドラグーン』が騎乗している。だが、彼らのマントの留め具には、帝国軍の紋章だけでなく『ゴルド商会』のバッジが光っていた。

「ゴルド商会の癒着っぷりもここまで来ると笑えるな。一介の商人が、国家の軍隊インフラを私兵使いか」

「社長! どうします!? さすがの俺たちでも、ワイバーンの編隊相手に空戦は……!」

屋台を支えるバード族たちが、迫り来る圧倒的なプレッシャーに顔を青ざめさせる。

ワイバーンは口の端からバチバチと紫電を漏らしていた。雷撃ボルト属性の個体だ。あのブレスをまともに受ければ、木造の屋台など一瞬で炭の塊になる。

編隊の先頭にいる騎士団長が、拡声の魔導石を使って傲慢な声を響かせた。

『通達する! 貴様らはゴルド商会の「特許流通権」を侵害し、不法な空中販売を行っている! 直ちにその魔法ポーチを引き渡し、武装解除せよ! さもなくば、雷撃ブレスで塵一つ残さず焼き尽くす!!』

街の人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。

だが、俺はワイバーンの群れを見上げて、思わず舌なめずりをした。

(……前世の感覚で言えば、あれは『超高速の大型貨物機』だ。ゴルド商会の連中、わざわざ最高の輸送用インフラを俺にプレゼントしに来てくれたってわけか)

俺はポーチに手を入れた。

「ルクス、カグラ。あのワイバーンども、傷をつけずに『機体ごと無傷で鹵獲ろかく』するぞ。手荒な真似はするなよ」

地上で待機していたルクスとカグラに念話で指示を飛ばす。

『御意。……ふふ、主人は本当に欲張りなお方だ』(ルクス)

『……ご主人様がそう仰るなら、峰打ちで落とします』(カグラ)

「バード族の皆は、そのまま屋台の高度を維持してろ」

俺は魔法ポーチの中で、究極の対空兵器をクラフトし始めた。

[素材『ゴブリンの魔石』『醤油草の種』『蜘蛛型魔獣の粘糸』を確認。]

[レシピ『対空誘導弾ホーミング・ソイシード』の構築を開始します。]

「抵抗する気か、愚か者め! 喰らえ! 一斉掃射ァッ!!」

騎士団長の号令と共に、十数頭のワイバーンが一斉に口を開き、極太の雷撃ブレスを放射した。

空気を焦がす紫電の嵐が、屋台目掛けて殺到する。

「カグラ!」

「……ええ。お掃除の時間です」

地上から、赤い彗星のようなオーラを纏ったカグラが大ジャンプで跳び上がってきた。

彼女は鬼人の膂力と、俺の飯から得た無限の魔力で赤熱化した『熱波の金棒』を、バッティングフォームで力強く振り抜く。

――ゴウァァァァァンッ!!

金棒から放たれた熱波の壁が、ワイバーンの雷撃ブレスと正面衝突し、見事に上空へと弾き飛ばした。

「な、なんだあのメイドは!? 我々のブレスを物理で弾いただと!?」

「驚くのはこれからだぜ、騎士様たち」

俺はポーチから、黒い球体――『対空誘導弾ホーミング・ソイシード』を鷲掴みにし、空へ向けてバラ撒いた。

「いけ、【神の蔵】の自動追尾オートロジスティクス

[ターゲット、ワイバーン全機をロックオン。投下ドロップを開始します]

空中に散らばったパチンコ玉サイズの種は、魔石のエネルギーに反応して空中で急加速。まるで意思を持っているかのように複雑な軌道を描き、ワイバーンたちの顔面や翼へと殺到した。

「チィッ! なんだこの黒い粒は! 叩き落とせ!」

「ダメです団長! 避けきれま――」

パシュゥゥゥンッ!!!

ワイバーンに命中した瞬間、種が大爆発を起こした。

だが、それは炎の爆発ではない。

中から飛び出したのは、蜘蛛の糸のように強靭でネバネバとした『超濃縮された醤油草のペースト』だった。

「ギャオォォォォッ!?」

「ぐわぁぁっ! な、なんだこの匂いは!? し、醤油……!? 目が、目がァァッ!!」

ワイバーンの翼が強烈な粘着力を持つ醤油ペーストで絡め取られ、完全に飛行能力を奪われる。さらに、醤油草の塩気と圧倒的な旨味成分の香りがワイバーンたちの嗅覚をバグらせ、完全に戦意を喪失させてしまったのだ。

「墜落する! 姿勢を立て直せェェッ!」

「無理です! 翼が開かないィィィッ!」

ボトボトボトッ!

空の覇者であるはずの飛竜たちが、醤油漬けにされた唐揚げの肉塊のように、次々と地上へ墜落していく。

「おっと、荷物を傷つけるわけにはいかないな。ルナ!」

「はいっ! 神速配達キャッチ、いきます!」

地上スレスレまで落下したワイバーンたちを、ルナがマッハ1の速度で駆け回り、巨大な衝撃吸収用のトランポリン(俺がさっきクラフトして落としておいた)へと次々に誘導してバウンドさせた。

ぽいんっ、ぽいんっ。

巨大な飛竜たちが、無傷のまま広場に転がっていく。

「ば、馬鹿な……。我が帝国の最強部隊が、こんな……得体の知れない豆粒と匂いで……」

最後に墜落した騎士団長は、全身醤油まみれになりながら絶望の声を漏らした。

そこへ、燕尾服姿のルクスが音もなく歩み寄り、冷たい刃と化したネクタイを団長の首筋にピタリと当てた。

「お疲れ様でした、騎士様。……我らがソラト社長の『空輸ルート』に、何かご不満でも?」

「ひぃぃッ……!」

団長は白目を剥いて気絶した。

俺は屋台からゆっくりと地上へ降り立つと、転がっている十数頭のワイバーンを見渡して満足げに頷いた。

「よしよし、雷撃属性のワイバーンが12頭。これで『ソラト物流・航空貨物部隊』の設立準備が整ったな」

圧倒的な武力と権力を笠に着ていたゴルド商会と帝国軍。

彼らが手塩にかけて育てた航空戦力を、俺はたった一握りの『醤油草の種』で完全に掌握してしまったのである。

「さて、これでいよいよ……ゴルド商会の本丸に宣戦布告だな」

俺は気絶したワイバーンたちの額にポンと手を当て、魔法ポーチ(神の蔵)へと次々に『収納』しながら、次の作戦へと計算を巡らせ始めた。

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