EP 10
『ソラト物流センター』の宣戦布告〜今日から俺が、この大陸のルールだ〜
ガレリアの広場には、醤油ペーストと粘糸にまみれて気絶した飛竜騎士団と、その愛竜ワイバーンたちが転がっていた。街の住民たちは、遠巻きにその光景を信じられない面持ちで見つめている。帝国の誇る最強部隊が、一介の商人に無傷で完敗したのだ。
「さて、と。荷物の回収と、拠点のアップグレードといこうか」
俺はポーチに手を当て、システムに念じる。
「【神の蔵】、自動加工! 鹵獲した雷撃ワイバーン12頭を動力源とし、既存の『空中屋台』を『移動式物流要塞』へ再構築しろ!」
[対象『雷撃ワイバーン』×12、『空中屋台』、その他建材・魔石を確認。]
[レシピ『移動式物流要塞ソラトLC』の構築を開始します……。]
ポーチから、以前アッシュ村やガレリアで『収納』しておいた、ドワーフ製の頑丈な建材や、ゴブリンの魔石、そして何より鹵獲したワイバーン用の制御用魔導具(鞍を自動加工で作り直したもの)が次々と出力される。
街の住民たちが驚愕の声を上げる中、上空の「空中屋台」が、まるで生き物のように形を変え始めた。
木造の屋台は、魔導鋼鉄で補強された巨大な帆船型浮遊城へと膨れ上がる。その周囲を、俺が【神の蔵】から出力し、制御装置を装着した12頭の雷撃ワイバーンが、雷のオーラを纏って旋回し始めた。彼らの雷撃エネルギーは、要塞の動力源である『魔導浮力炉』へと直結され、要塞全体を物理・魔法防御障壁で包み込む。
ドスゥゥゥンッ!!
ガレリアの上空に、巨大な『移動要塞ソラトLC』が完成し、圧倒的な威圧感を持って浮かび上がった。
要塞の側面には、俺の新しい商会の紋章――『ポーチを背負った、羽の生えた狼とウサギと鬼』が、黄金色に輝いている。
「……素晴らしい。ただの屋台が、わずか数分で一国の軍事砦をも凌駕する移動要塞へ。主人の『流通加工』スキルは、まさに神の領域です」
ルクスが燕尾服を正し、完成した要塞を見上げて優雅に拍手する。
カグラは『熱波の金棒』を肩に担ぎ、フンと鼻を鳴らした。
「……これなら、掃除の手間が省けそうです。壁を壊しても、ご主人様が一瞬で直してくれますから」
「社長! 私、あそこの一番高い展望台から、マッハでデリバリーに行きたいです!」
ルナが兎耳をピンと立てて目を輝かせている。
「よし、全員搭乗だ。……仕上げに、大陸全土へ『挨拶』といくか」
一方、ガレリアの街のゴルド商会支店。
支店長は、上空に浮かぶ巨大要塞を見て、顔を真っ白にして震えていた。
「ば、馬鹿な……。飛竜騎士団が全滅!? しかも、あのガキ、一瞬で城を空に浮かべただと……!? ええい、すぐに帝都の本部へ連絡だ! 『緊急事態、規格外の魔力ゼロ商人が出現』と!」
通信士が慌てて魔導通信石を起動させようとするが、
『ザーー……ザーー……』
「し、支店長! ダメです! 通信網がジャミングされています! 外部への連絡が一切つきません!」
「なんだとッ!? ゴルド商会が独占するマギ・ネットワークが、ハッキングされているというのかッ!?」
『移動要塞ソラトLC』の中央管制室。
俺はポーチに手を入れたまま、脳内のシステムとリンクしていた。
「【神の蔵】、自動追尾。大陸全土の魔導通信網へ、バックドアから侵入。全ての大型モニター、貴族の館の受信石、そしてゴルド商会の全通信をハッキングしろ」
[ネットワークへの侵入に成功。全土への配信準備が整いました。]
「ルクス。お前の人狼族としての『匂い』の感覚を、この通信網に乗せろ。大陸の隅々まで、俺の『意志(匂い)』を届けるんだ」
「御意のままに。……ふふ、全土の人間が、主人の放つ『極上の刺激』に酔いしれる様、とくと見届けましょう」
ルクスが管制室の魔導板に手を触れると、通信網の波形が、人狼族の闘気と同期して大陸全土へと爆発的に拡散した。
次の瞬間。
ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国――。
大陸のあらゆる場所に設置された大型魔導モニターや、人々の持つ魔導通信石が、砂嵐の後に一斉に切り替わった。
そこに映し出されたのは、巨大な浮遊要塞の玉座に、不敵な笑みを浮かべて座る俺の姿。
そして、その隣に控える、最強の執事ルクス、神速のルナ、超火力のカグラの姿だった。
『大陸全土の皆さん、初めまして。私は「ソラト物流」の社長、ソラトと申します』
俺の声が、独自の魔導ハッキング技術により、全種族の言語へと自動翻訳され、大陸全土に響き渡る。
『皆さんは、これまで「ゴルド商会」という巨大な独占企業に、不当に高い運送料と、まずくて高い食材を押し付けられてきました。……ええ、私もその被害者の一人です。魔力ゼロの「お荷物商人」として、彼らに虐げられてきましたから』
俺は、ハッキングで入手した、ゴルド商会の不正蓄財の証拠、月兎族の密売記録、そして飛竜騎士団を私兵化している証拠映像を、全土へ向けて次々と暴露した。
大陸全土で、驚愕と怒りの声が上がる。
『だから、私は決めました。今日、この瞬間をもって、ゴルド商会の「独占」を終わらせます』
俺は立ち上がり、モニターの向こう側にいる、全土の人々、そして戦慄しているゴルド商会の幹部たちへ向けて、力強く宣言した。
『我ら「ソラト物流」は、この巨大な「移動要塞ソラトLC」と、鹵獲した飛竜部隊、そして私の規格外の魔法鞄をもって、大陸全土へ「適正価格」で「獲れたての食材(肉シイ丼)」を「神速」でデリバリーします。……たとえそれが、ゴルド商会のシマであろうが、魔皇国の雪山であろうが、獣人王国のサバンナであろうが関係ない』
俺はニヤリと笑い、最後にトドメの言葉を叩きつけた。
『今日から俺が、この大陸の物流だ。……文句があるなら、俺の要塞を空から落としてみろ。もっとも、その前に、俺の飯(匂い)と、醤油の弾膜で干上がることになるだろうがな』
俺が指を鳴らした瞬間、全土の大型モニターには、アツアツの「肉シイステーキ丼」の、暴力的なまでの飯テロ映像が超高画質で映し出された。
大陸全土が、ソラトの圧倒的なチートと、ゴルド商会の不正、そして何より『美味そうな匂い』への飢えで、パニックと歓喜に包まれた。
ガレリアの上空で、俺は要塞の玉座に深く腰掛け、芋酒を仰いだ。
「さあルクス、ルナ、カグラ。ゴルド商会の本部に、最高の『破滅』を届けにいこうか」
『ソラト物流』の、世界をひっくり返す物流無双は、今ここから始まったのだ。




