第二章 地下帝国ドンガン編:物流無双による経済封鎖の突破と、天才ドワーフ娘の獲得
社長の初仕事は『在庫管理』~空飛ぶ営業所と朝のまかない飯~
ガレリアの街での騒動から数日後。
ルナミス帝国南部の空を、一隻の奇妙な船が悠然と飛んでいた。
鹵獲した数頭のワイバーン(雷撃属性)を魔導ハーネスで繋ぎ、牽引動力とした中型の空中船。ゴルド商会の装甲馬車の残骸や、アッシュ村で回収した建材を【神の蔵】で自動加工して組み上げた、我が「ソラト物流」の移動営業所――通称『ソラト号』である。
「よし、本日の在庫確認終了。食料とポーションは十分すぎるな」
俺は船の甲板に置いた寝椅子に寝そべりながら、脳内のシステム画面を閉じた。
容量無制限の魔法鞄には、大量の『太陽芋』『米麦草』『肉椎茸』などが時間停止状態でストックされている。当面の運転資金と食料に困ることはない。
「社長! 見張りの交代時間です! 今日も空の道は異常なし、神速配達の準備はいつでもOKです!」
ピュンッ! という風切り音と共に、マストの頂上からルナがマッハの速度で飛び降りてきた。相変わらず元気なウサギだ。
「お疲れ様。さて、そろそろ朝の『まかない』にするか」
「わぁい! 社長のご飯!」
「……お掃除、終わりました。いつでも食べられます」
俺が立ち上がると、船室からカグラがひょっこりと顔を出した。
彼女が『熱波の金棒』で甲板の汚れを「焼却(物理)」しようとするのを止めるのに苦労したが、魔力をたっぷり補給した鬼人メイドの働きぶりは凄まじい。
俺は腰の魔法ポーチに手を入れた。
「【神の蔵】、自動加工!」
[素材『米麦草』『ハニーかぼちゃ』『トライバードの肉』『マヨ・ハーブ』を確認。]
[朝食セットの構築を開始します……完了。出力します。]
甲板のテーブルに、ホカホカと湯気を立てる料理が並んだ。
分厚くスライスしてカリッと焼き上げた『米麦草のトースト』。
限界まで甘みを引き出した『ハニーかぼちゃの濃厚ポタージュ』。
そして、トライバードの胸肉を香ばしくソテーし、コクのある『マヨ・ハーブ』をたっぷりとかけたメインディッシュ。
「うおおお! マヨ・ハーブの酸味と鳥肉の肉汁が、トーストにめちゃくちゃ合います!」
「……かぼちゃのスープ、甘くて、魔力が体に染み渡ります。ご主人様、おかわり」
ルナとカグラが、ものすごい勢いで朝食を平らげていく。
そこへ、ティーポットを持ったルクスが優雅に歩み寄ってきた。
「おはようございます、ソラト様。……相変わらず、貴方様の生み出す食事は暴力的なまでの魅力に溢れていますね。退屈な朝が、一瞬で極上の喜劇に変わるようだ」
「お前も早く食え。冷めないうちにな(ポーチに入れればいつでも熱々だが)」
俺自身もトーストにマヨ・ハーブチキンを乗せてかぶりつく。トライバードの肉の旨味とハーブの香りが口の中で弾け、最高の一日の始まりを告げていた。
食後のティータイム。
俺はルクスが淹れた紅茶(これも陽薬草をブレンドした特製品)を飲みながら、一つの中期的な課題について切り出した。
「飯も機動力も確保した。だが、商会を本格的に拡大していく上で、決定的に足りないものがある」
「と、仰いますと?」
「『質の高い物理素材』だ」
俺は甲板の柵をコンコンと叩いた。
「このソラト号も、その辺の馬車の残骸や木材をスキルで無理やり繋ぎ合わせているだけだからな。ワイバーンの牽引力に長期間耐えられるか怪しい。それに、今後ルナの配達用の魔導靴や、カグラの金棒のメンテナンス、俺の魔法鞄のダミーとなる頑丈なコンテナ……そういう『インフラ機材』を量産するには、ドワーフ製の魔導鋼鉄みたいな最高の建材が必要になる」
物流を支えるのは、決して魔法だけではない。
「荷物を安全に運ぶための箱」と「足回り」が絶対に必要なのだ。
「なるほど……。武具や建材の調達ですか。それならば、向かうべき場所は一つしかありませんね」
ルクスが黄金色の瞳を細め、西の空を指差した。
「大陸西部、鉄鋼山脈の地下に広がるドワーフの国。地下帝国『ドンガン』です。彼らは大陸最高の鍛冶技術を持ち、ゴルド商会にすら一目置かれる『死の商人』の集団。極上の素材や腕の立つ職人を手に入れるなら、あそこしかありません」
「地下帝国か……。いいな、ワクワクしてくる」
俺は立ち上がり、大きく伸びをした。
「よし、次の目的地はドンガンだ! 俺たちの商会に相応しい『最高の箱』と、専属のエンジニアをスカウトしに行くぞ!」
「はいっ! 社長!」
「……ご主人様がそう言うなら。邪魔な壁は、私が砕いて道を作ります」
ルナが敬礼し、カグラが物騒なことを言いながら金棒を担ぐ。
「航路は西へ。ワイバーン部隊、全速前進!」
俺の号令と共に、ワイバーンたちが力強く羽ばたき、ソラト号は雲を切り裂いて加速した。
目指すは鍛冶と歯車の国、地下帝国ドンガン。
だが俺たちはまだ知らなかった。その地下帝国が今、ゴルド商会のエリート幹部による『卑劣な経済封鎖』の真っ只中にあるということを。




