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EP 7

空飛ぶ屋台、始めました〜匂いの絨毯爆撃〜

「うぅ……ソラト様、このお洋服、とっても着心地が良いです……!」

覚醒したルナは、俺が魔法ポーチから取り出した(自動加工で生成した)月兎族向けの軽量な戦闘服に身を包み、頬を赤らめていた。

これまでのボロボロの貫頭衣とは大違いだ。月兎族の白い肌と銀髪によく映える。

「俺のポーチは、素材さえあれば服でも武器でもなんでも作れるからな。ルナ、お前はもう『商品』じゃない。ウチの商会の、記念すべき第一号社員だ」

「はい! 社長!」

ルナがマッハ1の速度で敬礼する。速すぎて残像が見えた。

ルクスがティーカップをソーサーに戻し、優雅に微笑む。

「さて、社長。この街、ガレリアですが……。先程軽く偵察したところ、冒険者ギルドも商業ギルドも、ゴルド商会の息がかかった職員ばかりです。アッシュ村の芋酒と魔石をそのまま持ち込めば、二束三文で買い叩かれた上に、ポーチを没収されかねませんね」

「だろうな。独占企業ってのは、新しい流通ライバルを一番嫌う」

俺は街の中心部にそびえ立つ、ゴルド商会の豪華な支店ビルを見上げた。

街の全てのレストラン、屋台、商店が彼らの配下にある。

普通なら、ここで商売を始めるのは不可能だ。

「だが、彼らの支配は『地上』に限定されている」

俺はニヤリと笑い、腰のポーチに手を当てた。

「【神の蔵】、周辺検索スキャン。……ターゲット、バード族の人材」

[スキャンを開始……。街の外郭、貧民街の廃屋に、バード族(鷲、梟、隼、雀の種特性を持つ者)の4体を確認。栄養失調状態です。]

「よし、物件確保。ルクス、ルナ、行くぞ。新しい『物流ルート』の開拓だ」

街の外郭、崩れかけた廃屋。

そこには、翼を持つ獣人族――バード族の若者4人が、力なくうずくまっていた。彼らは空を飛べる高い能力を持ちながら、ゴルド商会に睨まれたせいで仕事を与えられず、飢え死に寸前だった。

「誰だ……? 俺たちを嗤いに来たのか……?」

鷲の羽を持つ男が、弱々しく睨んでくる。

「いや、スカウトに来た。『ソラト物流』の社長だ」

俺はポーチから、時間停止で保存されていた熱々の「肉シイ丼」を4つ取り出した。

肉椎茸ステーキの圧倒的な脂の旨味。

醤油草の焦げたような、香ばしくも濃厚な香りが、廃屋の淀んだ空気を一瞬で塗りつぶす。

「「「「……ッ!?」()」」」

バード族たちの目が、野生の輝きを取り戻した。

彼らは俺の言葉を待たずに丼をひったくり、獣のように貪り食った。

「うめぇ……! なんだこれ、肉か!? キノコなのか!? 醤油の味が、五臓六腑に染み渡る……!」

「梟の俺でも、昼間にこんな鮮明な美味さを感じたのは初めてだ……!」

4人はあっという間に完食し、涙を流して俺を見上げた.

「社長! 俺たちを雇ってくれ! この飯が食えるなら、地獄までだって飛んでやる!」

「地獄じゃなくて、街の上空まで飛んでもらう」

俺は笑い、ポーチの中で新たなクラフトを開始した。

ターゲットは、以前の森で回収しておいた『魔導石の欠片』と『頑丈な木材』だ。

「発動しろ、自動加工クラフト! レシピ『空中移動式調理店舗フライング・キッチン』!」

[素材を確認。魔導浮力炉と調理設備を内蔵した屋台をクラフトします……完了。]

ドスゥゥゥン!!

廃屋の前に、巨大な、だが洗練されたデザインの木造屋台が現れた。屋台には「ソラト亭」の暖簾がかかり、中には大量の調理器具と、時間停止保存された食材がギッシリ詰まっている。

「バード族の皆。お前らの仕事は、この屋台を街の上空へ運ぶことだ。世界設定にある『4体での足場形成』。殲滅魔法の代わりに、俺のメシの匂いを放つ」

「了解だ、社長! 俺たちの翼、とくと見ろ!」

4人は闘気を練り、空中で互いの足を連結。安定した空中足場スカイ・プラットフォームを形成すると、ソラト亭の屋台を軽々と持ち上げ、街の上空へと飛び立った。

昼時のガレリアの街。

人々はゴルド商会のレストランで、高くてまずい料理を不満げに食べていた。

その時だ。

上空から、あり得ないほどの『美味い匂い』が、街中に絨毯爆撃のように降り注いだ。

肉椎茸をジオ・リザードの脂で焼き上げた、濃厚な香り。

醤油草が焦げる、日本人の魂を揺さぶるあの香ばしい匂い。

「な、なんだこの匂いは……!?」

「ゴルド商会のレストランの匂いじゃない! もっと、もっと狂おしいほど美味そうな……!」

人々が空を見上げる。

そこには、4体のバード族に支えられた「空飛ぶ屋台」が浮かんでいた。屋台からは、ルクスが団扇で扇ぐ肉シイステーキの煙が、大量に街へと撒き散らされている。

「お待たせいたしました! 『ソラト亭』、空中開店です! 特製『肉シイステーキ丼』、今ならなんと銅貨3枚(300円)!」

ルクスの優雅な声が、街中に響く。

ゴルド商会のレストランの10分の1の価格。だが、匂いは100倍美味そうだ。

「ルナ! 配達デリバリーだ! 街の広場、客が並んでる!」

「はいっ! 社長! 『神速配達』、行きます!」

ルナが空中屋台から、肉シイ丼を抱えて飛び出す。

ピュンッ!!

次の瞬間、彼女は広場に現れ、客に丼を手渡していた。速すぎて誰も彼女の移動を視認できない。まさに「神速のデリバリー」だ。

「う、うまい……! なんだこれ、口の中で肉の旨味が爆発する……!」

「これが銅貨3枚!? ゴルド商会のレストランなんて、もう行けるか!」

街中の客が、ゴルド商会の店舗から蒸発した。

皆が空飛ぶ屋台を見上げ、ルナのデリバリーを求めて列を作る。

「ええい、何事だッ! あの上空の屋台は! ゴルド商会の許可なく商売など、許されるかッ!」

ゴルド商会のレストランの店長たちが、真っ青な顔で飛び出してきた。

だが、上空20メートルに浮かぶ屋台には、彼らの手は届かない。

「ご主人様。下でブタたちが騒いでいますが……。陽薬草を抽出したハーブティーでもぶっ掛けて、少し頭を冷やして差し上げましょうか?」

「いや、放置だ。匂いの絨毯爆撃を続けろ。ゴルド商会のレストランが、客足ゼロで干上がっていく様を見るのが、一番の『ざまぁ』だからな」

俺は空中屋台「ソラト亭」の特等席で、芋酒を飲みながら、眼下でゴルド商会の独占が崩壊していく様をのんびりと眺めていた。

「さあルクス、ルナ。次の街へ行く前に、この街のゴルド商会の資産(金)を、全部俺のポーチに『物流デリバリー』してもらうぞ」

『ソラト物流』の空中戦略は、大成功を収めた。

だが、この騒動は、ゴルド商会の本部に所属する最強の『飛竜騎士団』の耳に入る。

そして俺は、空中での商売をさらに盤石にするため、もう一人の規格外な『人材』と出会うことになる。

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