EP 5
6歳のクロスボウ使い〜無限弾薬のデリバリー〜
「ソラト様! 本当に何とお礼を言ってよいか……!」
村長が芋酒の詰まった樽を撫でながら、涙ぐんで俺の手を握りしめていた。
ゴルド商会の商人が逃げ帰った後、村はお祭り騒ぎになっていた。この芋酒を次の街で売れば、村は冬を越せるどころか、数年分の蓄えができるだろう。
「気にすんな。俺は『適正な物流』を回しただけだ。商取引の基本だよ」
「お見事な手腕でした、ソラト様。ふふ、あの豚商人の歪んだ顔……最高のスパイスになりましたね」
ルクスがどこから取り出したのか、ティーカップで優雅に紅茶を啜りながら微笑む。
よし、これで最初の資金源と実績は確保した。あとはこの樽を運んで――。
カーン! カーン! カーン!
その時、村の物見櫓からけたたましい鐘の音が鳴り響いた。
「魔物だァーーッ!! 森の方からゴブリンの群れ! その数、およそ100以上!!」
見張りの男の悲鳴に、広場の空気が一瞬にして凍りついた。
ゴブリン。単体なら銀貨2枚(2000円)で取引される低級モンスターだが、100匹の群れとなれば話は別だ。この規模の村なら、あっという間に蹂躙されてしまう。
「くそっ! さっきのゴルド商会の奴らが、腹いせに森に『魔物寄せの香』でも撒いていきやがったんだ!」
「男衆は武器を取れ! 芋酒を死守するんじゃ!」
村の大人たちが鍬やピッチフォークを手に、柵の方へと走る。
そして俺が驚いたのは、その大人たちの背中を追うように、6歳から10歳くらいの小さな子供たちが、重そうな木製のクロスボウを抱えて一列に並び始めたことだった。
「おいおい、あんな小さな子供まで戦うのか?」
「ええ。このアナステシア世界では、通学路に野生のピラダイやトライバードが出没しますからね。義務教育の6歳からクロスボウの訓練を受けるのは常識ですよ」
ルクスが事も無げに解説する。
なるほど、ファンタジー世界のスパルタ教育ここに極まれり、だな。
しかし、子供たちが構えているクロスボウは手入れが行き届いておらず、弦はボロボロ。手元の矢も一人につき数本しかない。あれじゃあ、数回撃てば弾切れだ。
「……前線の兵士に『弾薬の不安』を抱えさせるなんて、兵站担当としては三流の極みだな」
俺はため息をつき、腰の魔法ポーチを開いた。
先ほどの森で、木材や魔獣の骨などを適当に『収納』しておいて正解だった。
「【神の蔵】、自動加工!」
[素材を確認。レシピ『連射式軽量クロスボウ』および『魔力追尾矢』を量産します。]
[……加工完了。出力します。]
俺は子供たちの前に進み出ると、ポーチから真新しいクロスボウの山と、矢がギッシリ詰まった巨大な木箱をドンッと置いた。
「お前ら! そのサビついたオモチャは捨てな! 今日から俺がお前らの『補給部隊』だ!」
「お兄ちゃん、これ……?」
「ソラト特製の軽量クロスボウだ。弦を引くのに力はいらない。そしてこの箱の中の矢は――」
俺は箱の中の矢を一本手に取り、群がってくるゴブリンに向けて適当に放り投げた。
ヒュンッ!
矢は空中でキュインと奇妙な軌道を描き、一番先頭を走っていたゴブリンの眉間へ吸い込まれるように突き刺さった。
「ギャギッ!?」
「「「ええええっ!?」」」
「適当に撃っても勝手に敵の急所に当たる『追尾仕様』だ。弾切れの心配はしなくていい。俺のポーチから、いくらでも無限に補充してやる」
弾薬無制限。オートエイム付き。
FPSゲームなら即バンされる極悪チート武器の配給に、子供たちの目の色が変わった。
「す、すっげぇぇぇ!!」
「いくぞ皆! 撃てェーーッ!!」
そこからは、まさに一方的な『害虫駆除』だった。
6歳の子供たちが次々とトリガーを引く。放たれた矢は空中で複雑なカーブを描き、盾の裏に隠れたゴブリンだろうが、木の上に飛び乗ったゴブリンだろうが、容赦なく頭を撃ち抜いていく。
ドドドドドッ!!
「ギャアアアッ!」「ギギィィッ!」
圧倒的な弾幕。
ゴブリンの群れは、村の柵に触れることすらできず、次々と光の粒(魔石)を残して消滅していった。
「……素晴らしい『補給網』です。前線の兵士にとって、無限の弾薬ほど士気を高めるものはありませんからね」
「戦いの基本は物流だ。どれだけ強い兵士がいても、飯と弾がなきゃ1日も持たないからな」
ルクスが淹れてくれた紅茶を飲みながら、俺はゴブリンが全滅していく様をのんびりと眺めていた。
ものの10分で戦闘は終了。
村人たちの被害はゼロ。どころか、村の広場にはゴブリンがドロップした『魔石』が小山のように積み上がっていた。
「ゴブリンの魔石が100個以上……。銀貨2枚で計算しても、銀貨200枚(金貨20枚=約20万円)か。ちょっとしたお小遣い稼ぎになったな」
「ソラト様! あなた様は神の使いですか! 子供たちだけでゴブリンの群れを全滅させるなど……!」
村長が今度こそ地面にひれ伏して拝み始めた。
子供たちは新しいクロスボウを掲げて「ソラト兄ちゃん最強!」と歓声を上げている。
「よし、魔石は俺のポーチに収納しとく。芋酒の樽と一緒に、次の街の冒険者ギルドで換金しようぜ」
『絶対的な物流と補給』は、どんな暴力よりも確実に人を支配する。
俺はこの村の特産品と、子供たちという小さな私兵部隊の信頼を、たった1日で完全に掌握したのだった。
「さあルクス。荷台がいっぱいになったところで、出発だ」
「かしこまりました。……ふふっ、本当に貴方という方は、常識というものを粉々に破壊してくださる」
俺と狂気の執事、そして大量の芋酒を載せた一行は、次なる目的地へと歩みを進めた。
目指すは、この地域の中心都市。
そこで俺たちは、ゴルド商会の根幹を揺るがす『とある少女』と出会うことになる。




