EP 4
PRO型戦闘糧食の奇跡〜ウェポンズマスター全開〜
「……弁当、だと?」
ポポロ村の境界となる森の中。
満身創痍のダイヤを包囲していた帝国軍の指揮官が、ソラトの投げ渡した竹皮風のパッケージを見て鼻で笑った。
「馬鹿め! 我々ルナミス帝国軍が誇る『戦闘糧食1型』の暴力的なカロリーの前に、そんな素朴な田舎の弁当が何の役に立つ! 弾切れの女もろとも、蜂の巣にしてやれ!」
帝国兵たちが一斉に魔導ライフルのボルトを引き、戦車の主砲が再装填される。
だが、俺は【神の蔵】からドワーフ製の魔導防壁パネルを数枚出力し、ダイヤの周囲に即席のシェルターを展開した。
「ダイヤ、3分だけ時間を稼ぐ。四の五の言わず、さっさとその『PRO型』の封を切れ」
「しゃ、社長……。でも、戦闘中にご飯なんて……」
ダイヤは戸惑いながらも、パッケージの封を解いた。
その瞬間。
プシュゥゥゥゥッ!!
パッケージに施されていた『時間凍結パウチ』の魔法が解除され、圧倒的な熱気と、食欲をダイレクトに殴りつけるような極上の香りが立ち昇った。
「な、なにこれ……っ!? 湯気が……まるで、今さっき厨房で作られたばっかりみたいな……!」
ダイヤは震える手で、中に入っていた丼を持ち上げた。
メインは『肉椎茸とロックバイソンの「極」ステーキ丼』。
肉の旨味を凝縮した分厚い肉椎茸と、最高級バイソンの赤身肉が、月見大根のすりおろしポン酢によって黄金色に光り輝いている。
「い、いただきます……ッ!」
ダイヤは備え付けの魔導スポークで、ステーキとご飯を大きくすくい、口へ運んだ。
「んんんんんんんッ!?」
ダイヤの紅蓮の瞳が見開かれた。
赤身肉の野性味溢れる旨味と、肉椎茸の芳醇なエキスが、さっぱりとした大根おろしポン酢と絡み合い、口の中で爆発する。
1型や2型のような胃もたれする油の塊ではない。究極の素材が織りなす、洗練された暴力的なまでの「旨味」。
ドクンッ!!
「あ……ぁぁ……! 体の底から、力が……ッ!」
食べた瞬間、ロックバイソンの強靭な生命力が彼女の筋肉を超回復させ、彼女の『闘気』の最大出力を一気に30%も跳ね上げた。
玉んねぎの成分によりニンニク臭は完全に消臭され、純粋なエネルギーだけが彼女の体を駆け巡る。
「スープも、飲んで……!」
『陽薬草とハニーかぼちゃの濃縮ポタージュ』
ズズッ、と一口飲んだ瞬間。
弾切れと絶体絶命のピンチで焦っていたダイヤの脳内が、嘘のようにスッと冷え、極限の集中力へと突入した。ハニーかぼちゃの甘味が精神を完璧に安定させたのだ。
「次は、これ……!」
『ネタキャベツと人参マンドラのピクルス』
シャキッ、と小気味良い音を立ててピクルスを咀嚼した瞬間。
『ピピピッ! 情報ダウンロード完了!』
「えっ……!?」
ダイヤの脳内に、突如として不思議な「声」が響き渡った。ネタキャベツが持つ情報伝達能力だ。
「……なるほど。森の左翼に伏兵が20名、戦車の装甲が薄いのは後部の魔導炉周辺……。それに、指揮官の男は、最近部下の女と浮気して奥さんにバレかけてる……って、なんでそんなゴシップまで脳内に流れてくるのよ!?」
「な、なんだと!? なぜ私の極秘情報をその女が知っている!?」
防壁の外で、指揮官が狼狽する声が聞こえた。
「よし、トドメだダイヤ。それに入ってる『瓶』をあおれ」
「こ、これ……お酒?」
ダイヤが手にしたのは、小さな硝子の小瓶。
ポポロ村の秘伝にして、月兎族の村長・キャルルが自らの魔力(回復力)を注ぎ込んだ最強の霊薬。
芋焼酎『月光雫』
ダイヤが小瓶の蓋を開け、一気に喉へと流し込む。
度数45度の強烈なアルコールが食道を焼くが、味は最高級の大吟醸のようにフルーティーだ。
カァァァァァァァンッ!!!
「――ッ!!!」
ダイヤの体が、眩いばかりの『黄金の闘気』と『月光の魔力』に包み込まれた。
折れていた肋骨が瞬時に繋がり、全身の打撲や疲労が、文字通り「完全に」消え去る。
「……っはぁぁぁぁ……!!」
フルコースを完食したダイヤが、ゆっくりと立ち上がった。
その全身から立ち昇る紅蓮と黄金のオーラは、先ほどまでの貧乏令嬢の面影など微塵もない、まさに戦神のそれだった。
「防壁を吹き飛ばせ! その女を殺せェェッ!!」
指揮官の悲鳴のような命令を受け、帝国軍の魔導戦車が主砲を放つ。
俺が展開した即席の防壁が粉砕され、爆煙が舞い上がる。
だが。
煙を切り裂き、紅蓮の戦乙女が悠然と歩み出てきた。
「……ソラト社長。こんな極上のご飯、初めて食べたわ。……おかげで、最高の『節約術』を思いついたの」
ダイヤは、刃こぼれしてボロボロになっていた大剣【天魔竜聖剣】を構えた。
その折れた刀身を、PRO型弁当によって限界突破した莫大な『闘気』と『炎魔法』が覆い尽くし、巨大な光の刃を形成する。
「弾薬なんていらない。……私の持ってる『全部』をぶつければいいのよ!」
ダイヤは腰の魔法ポーチを逆さにし、中身を空中にすべてぶち撒けた。
弾切れの魔導サブマシンガン、空のバズーカ、予備のバックラー、さらには野営用のテントの骨組みから、100均のフライパン、ハンマー、大工道具に至るまで。
「ユニークスキル【ウェポンズマスター】、共鳴!!」
ダイヤの闘気が、空中に浮かぶ数百の「ガラクタ(武器)」すべてに接続される。
それらは意思を持ったかのように【天魔竜聖剣】の周囲に集結し、巨大な一つの『質量の塊(超大剣)』へと変貌したのだ。
「嘘だろ……!? あんな質量、人間が振れるはずが……!」
帝国兵たちが絶望の声を上げる。
「行くわよ! ルナミス帝国のエリート様!!」
ダイヤは上段に構えた規格外の超大剣を、燃え盛る闘気と共に、魔導戦車部隊のど真ん中へ向けて全力で振り下ろした。
「【大斬撃】・【バーニング・オーラ・ブレイク】!!!」
ゴガァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!
森が消し飛んだ。
ダイヤの放った一撃は、大地を叩き割り、戦車部隊の強固な装甲をフライパンや空のバズーカの「圧倒的質量」と「極炎の斬撃」で完全粉砕したのだ。
爆風が吹き荒れ、木々が薙ぎ倒される。
あとに残されたのは、一撃で大破した戦車の残骸と、白目を剥いて気絶した500名の特務制圧部隊の姿だけだった。
「ふぅ……。お粗末様、でした」
ダイヤは超大剣の結合を解き、ガラクタたちを魔法ポーチへと回収しながら、満足げに息をついた。
彼女の口元には、満ち足りた食後の笑みが浮かんでいる。
「素晴らしい斬撃でした。ですが、食後にはまだ『デザート』が残っていますよ」
ルクスが、燕尾服の袖から一つのケースを取り出し、ダイヤに差し出した。
「これは……?」
「PRO型戦闘糧食の付属品。ポポロ・シガー『ブラック・レーベル』と、『マイ茄子のシャーベット』です」
ダイヤは火照った体にマイ茄子の極冷シャーベットを含み、至福の表情で天を仰いだ。
そして、葉巻に火をつけ、落ち着く焚き火の香りの煙を燻らせる。
「……最高。私、一生ソラト物流で自警団やるわ」
「頼もしい限りだ。さあ、物理制圧部隊は片付いた。帰ろうぜ、ダイヤ」
俺が笑いかけると、ダイヤは力強く頷いた。
経済攻撃も、物理攻撃(暗殺部隊)も、ポポロ村の異常な住人たちの前にことごとく粉砕された。
だが、帝国がこのまま引き下がるはずはない。
次なる盤面。それは通信網を復旧させたオルウェルが放つ、大陸全土を巻き込む『悪意のプロパガンダ(世論操作)』と、それに立ち向かう「底辺アイドル」の伝説の幕開けであった。




