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EP 3

紅蓮の戦乙女と、貧乏令嬢の弾薬切れ〜戦場のコスト管理〜

ポポロ村の広場は、ソラトの「S-Pay金本位制」の宣言とニャングルの「空売り」の成功により、空前の好景気バブルに沸いていた。

ルナミス帝国の経済侵略を完全に跳ね返し、今や大陸中の商人がポポロ村を目指して物流のキャラバンを組んでいる。

「ガハハハ! ソラト社長、あんたホンマに天才や! 帝国の連中、今頃キャベツ食って泣いとるで!」

ニャングルが煙管を吹かしながら、積み上がった純金の山と算盤を交互に見つめて笑いが止まらない様子だ。

だが、その狂騒を切り裂くように、村の境界線から鋭い警戒サイレンが鳴り響いた。

『――緊急事態! 村の南側、防壁の死角となる森林地帯から、ルナミス帝国の「特務制圧部隊」が接近中! 数はおよそ500!』

「……来たか。経済でダメなら、暗殺部隊による直接の物理制圧。マルクス皇帝もなりふり構ってられなくなったな」

俺は【神の蔵】の索敵モニターを展開し、舌打ちをした。

前回の無人兵器ドローンとは違う。今回は、魔導戦闘服に身を包み、高度な隠密魔法をかけたルナミス帝国の精鋭歩兵部隊だ。

彼らは迷彩を施した『魔導戦車』を盾にしながら、ポポロ村の防衛網の隙間を縫うように、静かに、そして確実に距離を詰めてきている。

「ご主人様。私とルクスで、また『お掃除』してまいりましょうか」

カグラが金棒を握りしめ、ルクスがネクタイを緩める。

「いや、待ってくれ。ここは私の仕事シノギだ」

俺たちの前に進み出たのは、燃えるような紅蓮色のクリムゾンアーマーに身を包んだ、美しい一人の女戦士だった。

彼女の名は、ダイヤ・マーキス。

ルナミス帝国・マークス公爵領の令嬢でありながら、出奔して賞金稼ぎとなり、現在はポポロ村の自警団リーダー兼「鍛冶師」として契約を結んでいる凄腕の女だ。

「帝国の連中には、私も少し因縁があってね。それに……最近、村の宿代も払えなくてテント暮らしだから、ここらでドカンと『特別ボーナス』を稼いでおきたいのよ!」

ダイヤは美しい金髪をなびかせながら、腰に下げた魔法ポーチに手を突っ込んだ。

「行くわよ! ユニークスキル【ウェポンズマスター】、全開!!」

ダイヤが森の中へと躍り出た瞬間、彼女の姿は「戦場の死神」へと変貌した。

彼女のユニークスキルは、あらゆる武器や道具を「最適解」で扱えるという極めて強力なものだ。

「まずは遠距離! 【魔導99式スナイパーライフル】!」

ダイヤはポーチから身の丈ほどもある狙撃銃を取り出すと、走りながら構え、一瞬のエイムで引き金を引いた。

ズドォォンッ! という轟音と共に放たれた魔弾が、森の木々をすり抜け、帝国軍の先頭を走っていた装甲車のタイヤを正確に撃ち抜く。

「敵襲! 狙撃手だ! 散開しろ!」

「甘いっ! 近距離戦に移行! 【魔導サブマシンガン】!」

ダイヤはスナイパーライフルを瞬時にポーチへ仕舞い、両手に持ったサブマシンガンを乱射しながら敵陣へと突っ込んでいく。

帝国の精鋭部隊が放つ魔導ライフルの弾幕を、左手に構えた【マジックバックラー】で最小限の動きで弾き落とし、流れるような動作で【即席トラップ(撒菱と魔導プラスチック爆弾)】を地面にばら撒く。

ドガァァァァンッ!!

「ぐあぁぁっ!?」

「ば、化け物か! たった一人で、我々の一箇大隊と互角に撃ち合っているだと!?」

帝国兵たちが恐怖に顔を引き攣らせる。

『紅蓮の戦乙女』の異名は伊達ではない。彼女の戦場支配力は、間違いなくS級冒険者のそれだった。

――だが。

彼女の華麗な無双劇の裏側で、ダイヤの内心は悲痛な叫びに満ちていた。

(あぁぁぁっ! 今のサブマシンガンの乱射で、弾薬代が金貨1枚(1万円)吹っ飛んだわぁぁっ!!)

ダイヤは歯を食いしばりながら、空になったマガジンを投げ捨てた。

(スナイパーの魔弾も、一発で銀貨5枚(5千円)! 爆弾の起爆剤も高騰してるし、アーマーのメンテナンス費用だって馬鹿にならないのに……! くそっ、今夜もルナミス軍から買い叩いた「戦闘糧食1ポータブル・ジロウ」で胃もたれしながら飢えを凌ぐしかないの!?)

ダイヤの最大の弱点。それは、S級の実力と引き換えに発生する「莫大なランニングコスト(貧乏)」だった。

正義感が強すぎるあまり、悪党からしか賞金を奪わず、常に自転車操業の極貧生活。

彼女の戦いは、帝国軍との命の削り合いであると同時に、「家計簿」との熾烈な戦いでもあった。

「怯むな! 相手はたった一人だ! 魔導戦車の主砲、目標をあの赤い鎧に定めろ!」

帝国の指揮官が、森の奥から魔導戦車を前進させる。

強固な魔導装甲と、一撃で地形を消し飛ばす主砲。通常の小火器では傷一つつけられない。

「ちっ……! ならば、対戦車武装よ! 【魔導誘導バズーカ】!」

ダイヤはポーチに手を突っ込み……そして、顔面を蒼白にさせた。

「え……? 嘘、ロケット弾の予備、昨日で使い切ってた!? お金なくて買い足してない!!」

ガチャン、と虚しい音が響く。

ダイヤは慌てて他の武器を探るが、サブマシンガンの弾薬も、スナイパーライフルの魔弾も、すべて底をついていた。

「しまっ……!」

「今だ! 撃てェ!!」

戦車の主砲が火を噴く。

ダイヤは咄嗟にマジックバックラーを構えて防御魔法を展開するが、弾薬切れによる魔力不足で障壁が薄い。

ゴガァァァァァンッ!!!

「きゃあぁぁぁっ!!」

凄まじい爆発の衝撃で、ダイヤの身体が吹き飛ばされ、森の木に激突した。

紅蓮のクリムゾンアーマーがひび割れ、彼女は苦悶の表情を浮かべて地面に崩れ落ちる。

「はぁっ……はぁっ……」

全身の骨が軋む。立ち上がることも困難だ。

周囲を、無傷の帝国兵たちと魔導戦車がぐるりと取り囲んだ。

「素晴らしい身のこなしだったが、どうやら『弾切れ』のようだな、賞金稼ぎ」

帝国の指揮官が、冷酷な目でダイヤを見下ろし、魔導ライフルの銃口を彼女の額に突きつけた。

(……ここまで、ね……。ごめん、ソラト社長……。せっかく雇ってくれたのに……)

ダイヤは薄れゆく意識の中で、自らの最大の武器である大剣――【天魔竜聖剣】の柄に手を伸ばした。

しかし、大剣の刃もまた、研磨剤を買うお金がなかったためにボロボロに刃こぼれしており、まともな斬撃を放てる状態ではない。

「最後くらい、高級な『RCIR型のプリンパフェ』が……食べたかったなぁ……」

貧乏令嬢が、その美しい瞳をゆっくりと閉じようとした、その時だった。

『――顧客のピンチに駆けつけるのが、ウチの物流のモットーでね』

ドサッ!!

上空から、木箱に入った一つの「パッケージ」が、ダイヤの目の前にピンポイントで投下された。

「……え?」

ダイヤが目を開けると、そこには素朴な竹皮風のパッケージが置かれていた。

その表面には、ソラト物流のロゴと、キャルル村長の似顔絵スタンプが押されている。

「お待たせしたな、ダイヤ。ウチの自警団リーダーに、そんなボロボロの剣を振らせるわけにはいかねぇ」

森の奥から、ソラト・エクスプレスの甲板から飛び降りた俺が、不敵な笑みを浮かべて歩み出てきた。

俺が指差したそのパッケージこそ、ポポロ村が誇る最高・最強の補給物資。

「食え、ダイヤ。ポポロ村戦闘糧食『PRO型』……通称、村長の特製弁当バフ・メシだ」

貧乏令嬢の瞳に、かつてないほどの輝き(食欲)と闘気が、爆発的に宿ろうとしていた。

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