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EP 8

『ネタキャベツ』による物理的DDoS攻撃〜エリートの崩壊とキャベツの号外〜

「……通信網を物理でパンクさせる? どうやって?」

キャルルが首を傾げる横で、俺は村の畑に散乱している『ネタキャベツ』を一つ拾い上げた。

『号外! 号外! 隣の家のポチ、実は猫だった疑惑!?』

収穫された(地面から引っこ抜かれた)状態のネタキャベツが、命乞い代わりにしょうもない三面記事のネタを叫び続けている。

「こいつを使う。ルナミスのT-ネットワークは、あらゆる音声データや通信記録を『魔導サーバー』でリアルタイム処理して監視している。オルウェルの自慢の中枢システムだ」

俺はネタキャベツを【神の蔵】に放り込み、極悪な笑みを浮かべた。

「その処理限界キャパシティを遥かに超える『無駄な音声データ』を一瞬でぶち込んでやれば、システムはパンクして大クラッシュを起こす。前世の言葉で言えば『DDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃)』だ」

「キャベツで……DDoS攻撃……?」

ルナがよく分からないといった顔をしているが、俺は構わずシステムに念じた。

「【神のオーバー・ロジスティクス】、自動加工クラフト! 収納した『ネタキャベツ』をベースに、農業チートで限界まで無限増殖クローンさせろ!」

[素材『ネタキャベツ』を確認。時間停止空間内での超高速栽培および複製を実行します。……目標数、3億個到達。]

「よし。次は配送先ターゲットの指定だ。……オルウェルがアクセスしている監視網のバックドアから逆探知。帝都ルナミス、内務省地下『T-ネットワーク中枢データセンター』」

[座標固定。空間連結ゲート・オープンを実行します]

空中に、鏡のような光のポータルが開いた。

その向こう側には、無数の魔導クリスタルと配線が張り巡らされた、冷たく無機質なサーバー室の光景が広がっている。

「さあ、オルウェル。極上の『号外ノイズ』のデリバリーだ」

俺が指を鳴らすと、ポータルの向こう側へ向けて、3億個のネタキャベツが雪崩のように放出され始めた。

同刻。帝都ルナミス、内務省情報統括局。

「……あり得ない。高度1万メートルのステルス・キャリアが、一撃で完全消滅しただと?」

オルウェルは、モニターの警告表示ロストを前にして、完璧にセットされた髪を振り乱していた。

無人兵器部隊の壊滅。ソラト物流の隠滅作戦は、想定外の『暴力』によって完全に破綻した。

「チッ……! 忌まわしい野蛮人どもが! だが、彼らの口座凍結は生きている。L-Pay網が機能している限り、私の『管理』は揺るがない……!」

彼が震える手で魔導盤を叩き、システムを再構築しようとした、その時だった。

『――警告。地下中枢データセンターに、所属不明の空間連結ポータルの発生を検知。』

『――警告。センター内部に、大量の……有機物が侵入中』

「有機物? 爆弾や兵士ではないのか? モニターを回せ!」

オルウェルが地下の監視カメラ映像をモニターに映し出すと、そこには信じられない光景が広がっていた。

巨大なサーバー室の天井に開いた光の穴から、緑色の丸い野菜――『キャベツ』が、滝のようにドバドバと降り注いでいたのだ。

数万、数十万、数百万。

サーバー室はあっという間にキャベツで埋め尽くされていく。

「な、なんだこれは……!? キャベツ……!? ソラトの嫌がらせか!? だが、野菜を落としたところで、堅牢な魔導サーバーのケースが壊れるわけが……」

オルウェルが嘲笑しようとした瞬間。

『号外! オルウェル内務卿、実は毎晩ぬいぐるみと一緒に寝ている疑惑!!』

『号外号外! ゴルド商会の裏帳簿、実は社長のヘソクリだった!!』

『特ダネ! 皇帝陛下、タローソンの幕の内弁当の唐揚げを最後まで残す派!!』

数百万のキャベツたちが、一斉に「三面記事のゴシップネタ(命乞い)」を絶叫し始めたのだ。

「なッ……!? なんだこの狂った音声は!!」

T-ネットワークの心臓部である魔導サーバーは、帝国全土の音声を拾い上げ、言語解析して『反逆の兆候』を監視する超高性能なAIを積んでいる。

その最高感度のマイクと処理システムが、今、至近距離で数百万個のネタキャベツが放つ「極めて無駄で、かつ情報量の多いゴシップ音声」を、すべて正確に処理しようとフル稼働を始めてしまったのだ。

『――処理能力(CPU)負荷、900%を突破。』

『――言語解析アルゴリズム、オーバーフロー。』

『――魔導クリスタルの温度、危険域(メルトダウン寸前)へ到達』

「ば、馬鹿な! 音声データ(ノイズ)の波状攻撃で、物理サーバーの処理限界を突破させようというのか!?」

オルウェルは慌ててサーバーの電源を落とそうと魔導盤を叩くが、システムはキャベツたちのゴシップ解析で完全にフリーズし、一切のコマンドを受け付けない。

『特ダネ! オルウェル卿のL-Pay残高は無限大だが、1円単位で家計簿つけてる!!』

「や、やめろォォォッ!! 私のパーソナルデータを解析するなァァッ!!」

冷徹なエリートの絶叫も虚しく、システムは限界を迎えた。

パァァァンッ!! パリパリパリッ!!!

許容量を超えた魔導クリスタルが次々と破裂し、サーバー室から黒煙が噴き上がる。

それを皮切りに、帝都全土、いや大陸中のL-Pay決済端末、監視カメラ、魔導通信石が、一斉に砂嵐となって「ぷつん」と沈黙した。

完全なブラックアウト。

オルウェルが絶対の自信を持っていた「L-Payによるデジタル経済支配」が、ソラトの放った数億個のキャベツによって、物理的に大クラッシュを起こした瞬間だった。

「……あぁ……私の、私の完璧な……ロジックが……」

真っ暗になった執務室で、オルウェルは膝から崩れ落ち、虚空を見つめて白目を剥いた。

「……通信網、完全に沈黙したな。大成功だ」

ポポロ村の広場で、俺は閉じたポータルの跡を見つめながら笑った。

「え、エグい……。ソラト社長、怒らせちゃいけないタイプの人だね……」

キャルルが少し引いた顔で呟いている。

「ふふ、実に素晴らしい『お掃除』でした。相手の土俵に立たず、相手の土俵そのものを物理で叩き割る。ご主人様の悪巧み(ロジスティクス)には、毎度感服いたします」

ルクスが満足げに紅茶を啜る。

デジタルな壁は崩え去った。

だが、L-Payがダウンしたことで、大陸の経済は一時的に大混乱に陥るだろう。

「よし、ここからが本当の商売だ。既存のシステムがぶっ壊れたなら、俺たちが新しいシステムを作ればいい」

俺は仲間たちを見渡し、力強く宣言した。

「新しい通貨ポイントを発行して、この大陸の経済基盤そのものを、俺の【神の蔵】で塗り替えてやるぞ!」

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