EP 6
ジャスト・イン・タイムの要塞構築〜即席の絶対防壁と極上のお掃除〜
空を黒く染め上げるほどの『魔導長距離自爆ドローン』の群れと、地響きを立てて迫る『無人魔導戦車』の部隊。
ルナミス帝国の内務卿オルウェルが放った、所属不明の暗殺兵器群が、ついにポポロ村の境界線に迫っていた。
「キィィィィィンッ!」
不気味な飛行音を響かせ、先陣を切った数十機の自爆ドローンが、村の広場へ向けて急降下を始める。
「社長! 来るよ!」
「ああ。……【神の蔵】、自動構築開始!」
俺は腰の魔法ポーチを大きく開き、システムにガーネットが作成した『防衛陣地設計図』のデータを読み込ませた。
「ドンガン産の魔導鋼鉄パネル、対空塹壕パーツ、絶対防御障壁の発生器。……在庫全量、一括出力!!」
[設計図データを確認。指定座標への『防衛要塞インフラ』の出力・展開を実行します]
ドゴォォォォォォンッ!!!
ポポロ村の周囲を囲むように、巨大な土煙が巻き上がった。
そして、降下してきた自爆ドローンたちが目標に激突するよりも早く。
村の境界線から、高さ20メートル、厚さ数メートルの『漆黒の魔導鋼鉄の防壁』が、文字通り「一瞬」にしてタケノコのように生え上がったのだ。
ガガガガガッ!! ドガァァァンッ!!
急降下していたドローンたちは、突如出現した壁を避けきれずに次々と激突し、虚しい爆発を遂げた。
炎と黒煙が晴れた後には、傷一つ、煤一つついていないドワーフ特製の絶対防壁がそびえ立っている。
「な、なんじゃこりゃあぁぁっ!?」
避難誘導をしていた自警団の男が、目をひんむいて腰を抜かした。
村長のキャルルも、口に咥えていた飴玉を落としそうになっている。
「ええっ!? ちょっとソラト社長! 壁の出力って、あんたの鞄は建築資材まで一瞬で建てられるの!?」
「物流ってのは、必要なモノを、必要な時に、必要な場所に届ける仕事だからな。……俺の顧客の村に、指一本触れさせるかよ」
俺がニヤリと笑うと、隣でガーネットが胸を張った。
「えへへ! 私とドワーフのおじちゃん達が徹夜で作った『組み立て式・魔導防壁セット』だよ! サイラスのパワードスーツに使われてた絶対防御の技術を応用してるから、戦車の主砲でも破れないよ!」
防壁の上部には、等間隔で重厚な対空塹壕が自動配置されている。
だが、敵の数はまだ絶望的に多い。
上空で旋回して隙を窺う残りのドローン群と、防壁を物理的に破壊しようと主砲の砲身を向けてくる30輌の無人魔導戦車。
「……さて。壁はできた。あとは『ゴミの分別と焼却』だな」
「お任せを、ご主人様」
「ええ。美しく掃除いたしましょう」
俺の合図と共に、カグラとルクスが防壁の上に音もなく飛び乗った。
「ファイア!」
敵の無人戦車部隊が、一斉に魔砲弾を発射する。
だが、その砲弾が防壁に着弾するよりも早く、カグラが動いた。
「――お掃除の時間です」
カグラが『熱波の金棒』を両手で構え、野球のバッターのように鋭く振り抜く。
柄に埋め込まれた『ガーネット・コア』が、彼女のプリンへの情熱(魔力)に呼応して太陽のように白く輝いた。
ゴウァァァァァンッ!!!
放たれた圧倒的な熱波の衝撃波が、飛来する魔砲弾を空中でドロドロの鉄漿へと溶かし、そのままの勢いで地上の無人戦車部隊を飲み込んだ。
『ピーーーッ……ガガ……』
たった一振り。
それだけで、強固な装甲を誇るルナミスの魔導戦車30輌が、真っ赤に溶けた飴細工のように原型を留めず崩れ落ち、完全なスクラップ(鉄クズ)と化した。
「……地上は粗大ゴミばかりで退屈ですね。では、私は上空の羽虫を」
ルクスが優雅に空を見上げる。
戦車部隊の壊滅にシステムが混乱したのか、上空のドローン群が統制を失い、一斉にカグラとルクスへ向けて特攻を仕掛けてきた。
「【剥離・千の舞】」
ルクスが手に持った数枚のハンカチと、自らのネクタイを空へ向けて放り投げた。
闘気を極限まで圧縮され、絶対的な切断力を持った薄布が、竜巻のように空を舞う。
スパスパスパァァァンッ!!!
まるで空中に見えないミキサーが出現したかのように。
突っ込んできた数百機の自爆ドローンが、起爆する暇すら与えられず、豆腐のように細切れに切断され、パラパラと部品の雨となって地上に降り注いだ。
「すごい……。あの戦力、たった二人で……」
キャルルが呆然と呟く。
「よし、これで完全制圧だな。オルウェルの野郎、少しは学習したか?」
俺が防壁の上から地上を見下ろし、満足げに頷いた、その時だった。
『……ピピピピピ……』
「ん?」
防壁の展開が間に合わなかった村の端。
ルクスの迎撃網のわずかな隙間を縫って、通信機能(AI)を破壊され、ただ「直進して爆発する」という最後のプログラムだけに従う、半壊したドローンが1機だけ村の内部へと墜落していった。
その墜落地点は――。
ドカァァァンッ!!
「あッ……!!」
キャルルの顔から血の気が引いた。
「……俺たちの『月見大根』の畑が……!」
自警団の男が悲痛な声を上げる。
ドローンが墜落した先は、ポポロ村の特産品であり、キャルルが誰よりも愛し、大切に育てていた『月見大根』の広大な畑だった。
炎が燃え広がり、青々としていた大根の葉が黒く焦げていく。村人たちが丹精込めて育てた、大切な村の財産が。
「……」
キャルルは無言のまま、うつむいた。
その肩が、微かに震えている。
「キャルル……?」
俺が声をかけようとした瞬間。
ゾワッ。
村中の空気が、急激に冷え込んだ。
いや、違う。尋常ではない密度の『闘気』が、キャルルの小さな体から凄まじい勢いで噴き出しているのだ。
ふと空を見上げると、分厚い雲が風に流され、夜空に『完全な満月』が顔を出していた。
「……私の、村の、大根を」
うつむいていたキャルルが、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳は、普段の愛嬌あるふにゃっとしたものではなく。
黄金色に煌々と輝く、本能と殺意に満ちた『月の神獣』のそれへと変貌していた。
「――よくも、やってくれたね」
月兎族の真の力、満月時の【超ハイ状態(覚醒)】。
彼女の腰のダブルトンファーが、ギリィッと音を立てる。
ポポロ村を愛する最強の兎耳村長の、本当の恐怖が、今まさに帝国軍の残党(本丸)へと向けられようとしていた。




