EP 5
帝国の魔導無人部隊〜冷徹な管理者の暴走〜
帝都ルナミス、内務省・情報統括局。
冷徹なる内務官オルウェルの執務室は、かつてない静寂と緊張に包まれていた。
『――現在、ゼニス都市圏における「マグナギア付き弁当」の流通量は爆発的に増加。フェイクニュースの拡散効果は完全に相殺され、むしろ「ソラト物流」の支持率が急上昇しています』
壁面の大型モニター(ビッグ・ブラザー)に無機質なシステム音声が響く。
オルウェルはモノクルの奥の瞳を冷たく細め、完璧に整えられた前髪を苛立たしげに掻き上げた。
「……計算外ですね。恐怖という最高の統制ツール(アルゴリズム)が、『玩具のおまけ』という低俗な物欲に敗北するなど。群衆心理の明らかなバグだ」
彼は手元の法執行ペンをギリッと握りしめた。
このままソラト物流の勢力拡大を許せば、帝国が誇る「L-Pay」の絶対的な経済支配網に致命的な穴が開く。何より、皇帝マルクスの耳に入れば、内務省の「管理能力の欠如」を問われるのは必至だ。
「……マルクス皇帝陛下に知られる前に、このノイズを『物理的』に排除するしかありませんね」
オルウェルは手元の魔導盤を叩き、最高機密のファイアウォールを解除した。
彼がアクセスしたのは、ルナミス帝国軍の正規ルートではない。内務省が極秘裏に管理し、汚れ仕事(暗殺や工作)にのみ使用する『無人兵器のバックドア』だ。
「目標地点、国境緩衝地帯ポポロ村。……作戦名『不可抗力』」
オルウェルの指先から、冷酷な命令コードが送信されていく。
「所属を示す紋章をすべて消去した『魔導長距離自爆ドローン群』、および『無人魔導戦車部隊』をポポロ村へ向け出撃させなさい。村ごと焼き払い、ソラトと名乗る少年とその一行を灰にするのです。……その後で、ルナミスTVでこう報道すればいい。『悲劇的な所属不明の賊による襲撃』とね」
情報操作の次は、証拠の隠滅。
デジタルと論理を信奉する冷徹な管理者が、焦りゆえに最も暴力的な強硬手段へと打って出た瞬間だった。
一方、その頃のポポロ村。
『マグナギア・オマケ付き弁当』の大作戦は、想定をはるかに超える大成功を収めていた。
「いらっしゃいませー! トライバード唐揚げ弁当、ただいま追加で出力完了しました!」
ルナがマッハの速度で広場を駆け回り、周辺都市からこっそりと(L-Payの監視を避けて)買い付けに来た商人や子供たちに弁当を配っている。
村のいたるところで、ドワーフ謹製のマグナギア同士を戦わせる子供たちの歓声が響き渡っていた。
「いやぁ、すげぇ活気だ。これならゴルド商会がどんだけ圧力をかけてこようが、ポポロ村の経済は安泰だな」
俺はソラト・エクスプレスの甲板から、活気あふれる村の様子を見下ろして笑った。
傍らでは、村長のキャルルが『究極の朝定食』の残り(特にマヨ・ハーブのサラダ)を満足げに咀嚼している。
「ふふん、でしょ? うちは三カ国の緩衝地帯だから、こういうアナログな商売には一番向いてるんだよ。ソラト社長の飯と、私の村。最高の同盟だね」
「ああ。だが……」
俺がキャルルと拳を突き合わせようとした、その時だった。
『ウゥゥゥゥゥーーーッ!!』
突如として、ポポロ村の全域にけたたましい緊急防衛サイレンが鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
「村長! 大変です! 北の空と地上から、正体不明の部隊が猛スピードで接近してきます!」
村の自警団員が、血相を変えて広場に駆け込んできた。
「正体不明? この村に配備されてる『魔導対空砲』と『防御フィールド』はどうなってるの!?」
「そ、それが……! 接近してくる部隊のジャミング(妨害電波)によって、村の防衛システムが完全にハッキングされ、機能停止しています!」
キャルルが飴玉を噛み砕き、険しい表情で北の空を睨んだ。
俺も魔法ポーチの【神の蔵】の索敵機能を展開する。
[警告。北西20kmより、多数の魔力反応が接近中。]
[対象:『魔導長距離自爆ドローン』×約500機。『無人魔導戦車』×30輌。]
[……所属紋章は削り取られていますが、ルナミス帝国製の軍事兵器と完全に一致します。]
「……オルウェルの野郎。経済と情報で勝てないとみるや、盤面ごとひっくり返しに来たか」
俺は舌打ちをした。
相手は正規軍ではなく、無人の殺戮兵器。交渉の余地はない。村ごと焼き払い、俺たちを「野盗に襲われた」という既成事実にしようとしているのだ。
「キャルル! 村の住民を地下シェルターへ避難させろ!」
「言われなくても! みんな、慌てずにシェルターへ急いで! 自警団は誘導をお願い!」
キャルルの的確な指示で、村人たちがパニックを起こすことなく避難を開始する。だが、敵の接近速度は異常だった。自爆ドローンの先陣が、早くも村の境界線に到達しようとしている。
「ご主人様。上空のハエと、地上の鉄クズ。私がすべて『焼却』してまいりましょうか」
カグラが金棒を担ぎ、鬼神のような闘気を静かに立ち上らせる。
「……私もお手伝いしますよ。名もなき暗殺部隊の始末など、執事の余技にはちょうどいい」
ルクスが燕尾服のネクタイを外し、その端を鋭利な『闘気の刃』へと変えながら優雅に微笑む。
「いや、待て」
俺は魔法ポーチに手を突っ込み、不敵な笑みを浮かべた。
相手は俺を『ただの運送屋』と舐めている。なら、物流の真の恐ろしさを、物理的な圧倒的物量で教えてやる。
「自分の顧客の村を、黙って焼かせるような三流の商売はしねぇ。……ガーネット!」
「はいっ! 社長!」
「ドンガンで確保した『魔導鋼鉄』と『塹壕パーツ』の在庫、全部出すぞ。……空間の壁、超特急で構築だ!」
「アイアイサー!!」
俺とガーネットのハイタッチを合図に、【神の蔵】が唸りを上げた。
無人の殺戮部隊を迎え撃つ、ソラト物流の『ジャスト・イン・タイム要塞構築』。
アナログな村が、一瞬にして難攻不落の防衛要塞へと変貌を遂げる。




