EP 4
物流の逆襲〜マグナギア・オマケ付き弁当〜
『――繰り返します。ソラト物流の食材は、魔族の魔薬によって汚染されています。直ちに廃棄してください』
ポポロ村の広場に設置された大型モニターでは、ルナミスTVの無機質なキャスターが、執拗に同じニュースを繰り返していた。T-TUBEの画面には、泡を吹いて倒れるサクラの市民(オルウェルのフェイク映像)が映し出され、コメント欄はソラトへの罵詈雑言で埋め尽くされている。
「……社長。これ、本当にデタラメだよね? 私たちの唐揚げ、毒なんて入ってないよね?」
広場に集まっていたポポロ村の村人たちが、不安げな表情で俺たちと、テーブルに置かれた『究極の朝定食』の残りを交互に見つめていた。
最強の村長キャルルですら、少しだけ眉をひそめている。
「……ご主人様。あのモニター、私の金棒で『焼却』してもよろしいですか? 嘘つきの顔は見たくありません」
カグラが殺気を孕んだ闘気を金棒に込め、モニターを睨みつける。
「待てカグラ。モニターを壊しても、T-ネットワークが生きている限り嘘は広がり続ける」
俺はポーチに手を入れたまま、冷めた目でモニターを見つめた。
「オルウェルの野郎……。口座を凍結して『経済的』に殺し、嘘を流して『社会的』に殺す。……完璧なロジックだな。普通なら、ここでお手上げだ」
だが、俺は前世で物流センターの管理者をしていた。
物流とは、単にモノを運ぶだけではない。受け取る側の『心』も運ぶ仕事だ。
「ルクス。帝国監視網の死角であるこの緩衝地帯(ポポロ村)において、今、最も不足している『モノ』は何だ?」
「ふむ。食料は社長のおかげで満タンですが……。L-Payが圏外になったことで、ルナミスデパートからの取り寄せや、ソシャゲの課金、T-BERでの注文……そういった『娯楽(快楽)』の流通が完全に止まっていますね」
ルクスが燕尾服の袖を直し、黄金色の瞳を光らせた。
「特に、ドワーフの地下帝国ドンガンから輸入されていた、今大陸で大流行中のホビー玩具……『マグナギア』の新作が、この村にも届かなくなって、子供たちが暴動寸前です」
「マグナギア……!」
その単語を聞いた瞬間、俺の脳内で全てのピースが繋がった。
アナスタシア世界の遊び、ドワーフが作った30〜60cmの魔力可動式ドールバトルホビー。設定によれば、民間に行き渡り、公式戦や賭け試合まで行われている熱狂的な娯楽だ。
「よし、決まった。……ガーネット!」
「はいっ! 社長、何か打つ(クラフトする)!?」
ガーネットがハンマーを片手に、目を輝かせて飛び出してきた。
「【神の蔵】の自動加工と、あんたの鍛冶技術を使って、今ここで『マグナギア』を量産する」
「ええっ!? マグナギアって、ドワーフの高度な技術が必要だよ!? 徹夜しても、1日10体が限界だよ?」
「【神の蔵】の時間停止空間と、ドンガンで回収した魔導鋼鉄の在庫、そしてあんたの『ガーネット・コア』の技術を応用すれば可能だ。……サイズは30cmの素体。それに、ウチの商会の『限定カスタムパーツ』を装着して出荷する」
俺は不敵に嗤い、腰のポーチから大量の魔導鉱鉄とレア素材を広場に出力した。
「オルウェルは『毒(恐怖)』という情報を流した。なら俺たちは、それを上回る『欲(快楽)』という物理を流す。……人は、毒の恐怖よりも、目の前の『超レア限定ホビー』への物欲に勝てない!」
「面白そうじゃねぇか、若造!」
「ガハハ! ワシらの腕の見せ所じゃな!」
宴会で俺のメシ(魔力)を満タンにしたドワーフの親方衆が、溶鉱炉の火を再び燃え上がらせた。
ガーネットが金型を設計し、【神の蔵】が素材を供給。ドワーフの親方衆が叩き、ガーネットが仕上げる。……まさに前世の「セル生産方式」と「異世界チート」の融合だ。
超高速で量産されていく、ソラト物流限定のマグナギアたち。
カグラ型(金棒持ちメイド): 超高熱熱波エフェクト付き。
ルナ型(超速兎): 残像エフェクトと特注魔導靴。
ルクス型(ハンカチ持ち執事): 闘気の刃エフェクト。
キャルル型(ジャージ兎): ダブルトンファーと、満月時に目が光るギミック。
そして、俺が【神の蔵】で自動加工した『トライバード唐揚げ弁当』のパッケージ。
[トライバード唐揚げ弁当・マグナギア付き(全4種+シークレット:ソラト型)を量産……完了。]
「よし! 『ソラト物流・情報戦用最終兵器』の完成だ!」
俺はポーチから、黄金色に輝く唐揚げ弁当と、その上にチョコンと乗った、精巧極まるマグナギアの箱をDonッと出力した。
唐揚げのニンニク醤油の暴力的なまでの良い匂い。
そして、その横に並ぶ、ドワーフの叡智を結集した、全年齢対象・最強の物欲刺激ホビー。
「な……ッ!? これが、マグナギア……!? なんて精巧な……! 帝都のデパートでも、こんな限定品は売ってないぞ!」
フェイクニュースに動じかけていたポポロ村の住人たちが、弁当よりもオマケのマグナギアに釘付けになった。特に子供たちは、涎を流して親の服を引っ張っている。
「キャルル村長。この村の住民に、この弁当を『無料』でバラ撒く許可をくれ」
「えっ!? 無料!? こんな豪華なマグナギアが付いてるのに?」
「ああ。情報戦の基本は『広告』だ。この村を拠点に、周辺都市へもデリバリーする。……なぁみんな! このマグナギア、欲しいか!?」
俺が広場へ呼びかけると、
「「「欲しいィィィッ!!!」」」
数千人のポポロ村住民が、フェイクニュースの毒の恐怖など一瞬で忘れ去り、地鳴りのような咆哮を上げた。
オルウェルの流した「見えない壁(情報)」が、俺の持ち込んだ「圧倒的な物理(物欲)」の前に、音を立てて崩れ去った瞬間だった。
「ルナ! キャルル! この村の防衛網を一時的に開放しろ! バード族とジオ・リザード部隊、全機出撃! 目標は周辺都市の全市場! 唐揚げの匂いとマグナギアの爆撃を開始する!」
『アイアイサー!!』
ソラト・エクスプレスから、そしてポポロ村のゲートから、トライバード唐揚げ弁当を抱えたマッハの兎コンビ、空飛ぶバード族、大地を駆けるジオ・リザードたちが、一斉に飛び出した。
それはまさに、大陸全土へ向けた『物欲の絨毯爆撃』。
「毒なんて嘘だ! こんな凄いギアをくれる奴が悪党なわけがない!」
「オマケが本体だ! 弁当なんてどうでもいい、俺はカグラ型が欲しいんだ!」
大陸中央の都市ゼニス、レオンハートの辺境都市、アバロンの魔塔都市――。
あらゆる場所で、オルウェルのフェイクニュースを、民衆の歓声と物欲の荒波が飲み込んでいく。
「……ば、馬鹿な」
モニターの向こう側、帝都ルナミスの内務省情報統括局。
冷徹なるオルウェルは、初めてモノクルをずり落とし、モニターを凝視していた。
「恐怖という最も強い感情を、……『オマケ玩具』という、何のロジックもないゴミ同然の価値観が上回るだと……!? あり得ない、人間の行動原理にそんなバグは存在しないッ!!」
オルウェルの完璧だった管理が、人間の「欲」という、最もアナログで予測不能な要素によって、完全にバグ(クラフト)されてしまったのである。
ソラト物流による、情報戦の完全な『逆転』が完了した瞬間だった。




