EP 3
訳ありの天才ドワーフ娘〜鉄と歯車と空腹のメロディ〜
「う、うめぇ……! なんだこの五臓六腑に染み渡る汁は! 魔力が、魔力が噴き出してきやがるッ!」
門番のドワーフが、俺の出した月見大根のスープを飲み干し、岩のような筋肉を隆起させて叫んだ。その咆哮に誘われるように、門の奥からフラフラと力ない足取りのドワーフたちが次々と姿を現す。
「……社長。この街、想像以上に『在庫(食べ物)』が切れていますね」
「ああ。だが、これだけ腹を空かせているなら、俺の『営業』は百発百中で決まるぞ」
俺たちは門番に案内され、地下帝国ドンガンの中心部へと足を踏み入れた。
本来なら、巨大な溶鉱炉の熱気とハンマーの音が絶えないはずの街。だが、今聞こえるのは鈍く回る巨大歯車の軋み音と、住民たちの力ない溜息ばかりだ。
街の至る所には、ゴルド商会の差し金と思われる武装傭兵たちが「治安維持」の名目で居座り、通行人の持ち物を厳しくチェックしていた。
「……不愉快ですね。物流を支配し、人の命を秤にかける。あの男、サイラスとやらはよほど『破滅』をエスコートされたいようです」
「ルクス、まだ我慢だ。まずは『最高のエンジニア』を確保するのが先決だ」
俺たちは、街の隅にある古びた、だが手入れの行き届いた工房の前に辿り着いた。
看板には、折れた剣とハンマーの紋章。そして、その入り口の階段には、一人の少女が力なく座り込んでいた。
「……はぁ。もう、ハンマーを振る力も残ってないよ……。お父さんの工房、守りたかったなぁ……」
艶やかな赤髪をポニーテールにまとめ、顔には少し煤がついている。
ドワーフ特有の低い身長ながら、その腕は鍛錬を物語るように引き締まっていた。そして何より、世界設定通り**「女ドワーフは可愛い」**を体現したような、くりっとした瞳の美少女だった。
「あんたがガーネットか?」
「……え? あ、お客さん? ごめんね、今はもう材料もないし……何より、私の胃袋が『在庫ゼロ』で、仕事にならないんだ……」
ガーネットと呼ばれた少女は、ぐぅぅぅ、と盛大な音を立てるお腹を抱えて力なく笑った。
「聞けば、あんたは『持つ者の愛着で成長する武器』が打てる、天才技師だってな」
「……そんなの、昔の話だよ。今はゴルド商会のサイラスって男が、私の技術を独占するって言って、工房を差し押さえようとしてるんだ。断ったら、食べ物の配給を完全に止められちゃって……」
彼女は足元に転がっている、無骨な、だがどこか温かみを感じる金属の塊を見つめた。それが彼女の打つ武器の「核」なのだろう。
「ガーネット、あんたに提案だ。ウチの専属エンジニアにならないか?」
「え……? 雇ってくれるのは嬉しいけど、私、高いよ? 一日三食、お腹いっぱい食べられないと、良い鉄は打てないもん」
ガーネットは自嘲気味に笑ったが、俺はポーチに手を突っ込み、ニヤリと嗤った。
「条件はそれだけか? 安いもんだ。……【神の蔵】、自動加工!」
[素材『米麦草』『シープピッグのバラ肉』『醤油草』を確認。]
[レシピ『特製厚切り豚丼〜生姜醤油風味〜』の構築を開始します……完了。]
ポーチから取り出したのは、溢れんばかりの肉が乗った、湯気と殺人的な匂いを放つ丼だ。
「とりあえず、これ食ってから返事を聞かせてくれ」
「な、なにこれ……!? お肉の脂と、焦げた醤油の匂い……!? 身体が勝手に、よだれを……ッ!」
ガーネットはひったくるように丼を受け取ると、ドワーフらしく豪快に口に運んだ。
「あむっ……! !? ん、んんんんまいいぃぃぃーーーッ!!」
シープピッグの分厚いバラ肉。その甘い脂身が、醤油草のキレのある塩気と合わさり、口の中でトロリと溶ける。
米麦草の炊きたてのご飯が、その旨味をすべて受け止め、噛みしめるたびに脳を揺さぶる幸福感が突き抜けていく。
「なんだこれ! お肉が、お肉が甘いよ! ご飯が止まらないよぉッ!」
ガーネットは涙を流しながら、猛烈な勢いで完食した。
食べ終えた瞬間、彼女の瞳にドワーフ特有の「職人の魂」の火が灯る。
「……決めた! 決めたよ社長! 私、あんたについていく! こんな美味しいものを食べさせてくれる人のためなら、神様をぶっ飛ばす武器だって打ってあげる!」
「商談成立だ。……だが、その前に」
俺は工房の周りを取り囲み始めた、ゴルド商会の傭兵たちを冷めた目で見つめた。
「『在庫』を勝手に持ち出そうとする泥棒さんたちが、お出ましのようだな」
「……お掃除の時間ですね、ご主人様」
カグラが『熱波の金棒』を肩に担ぎ、凶悪な笑みを浮かべる。
地下帝国ドンガンの兵糧攻め、その均衡を俺の『物流』がたった一杯で崩壊させた瞬間だった。




