2章 第3話 決意
他の村も異形の魔物の襲撃に遭い、祭壇が壊されていた。
そして、闘士が王都に集められている。
都市で情報を得た三人は、
異形に襲われかけていた少女を見かけた。
カレンが棒を振るい、異形を撃ち払ったのだった。
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商人の娘アンナ 商人ニコラオス
「アンナ、大丈夫か?!」
荷馬車の方から、恰幅の良い商人風の男が飛び出してきた。
「お父さん、少し、痛みます」
少女——アンナは涙を流していた。
「手当しましょう」
ミカがすぐに言った。
「…… 大丈夫。傷は浅いよ 」
ミカはアンナを椅子に腰掛けさせ、優しく袖をまくった。
異形の爪で負った引っかき傷が、前腕に赤い筋を描いている。
「腕や指は動く?痛くない?」
「…… 痛くないです」
アンナが恐る恐る指を動かす。
「少し、しみるよ 」
水筒の水を布に含ませ、傷についた砂を丁寧に取り除いた。
「大丈夫?」
「う…… 大丈夫です」
アンナが小さく頷く。
「もう少しです」
傷口を洗い、軟膏を薄く塗る。
その上に清潔な麻布を当て、細い布で固定した。
「ありがとう」
「…… 大丈夫よ」
ミカは安心させるように微笑んだ。
(お父さんも、ケガをした子どもに手当てをしていたな)
一瞬、父の思い出がミカの頭に浮かんだ。
「腫れたり、熱を持ったら医師に知らせてください」
ミカはアンナの父に伝えた。
アンナの父——ニコラオスは、王都、教会とも取引のある大商人だった。
「君たちがいたから大事なく済んだ、本当にありがとう。
そうだ、今日は宿に招待させてくれないか?」
「どうしようか?」
カレンがシンを見る。
「無下にもできん」
シンが短く頷いた。
「決まりだね」
ミカが微笑んだ。
◇
宿の風呂で旅の汗を流した。
石造りの小さな浴室に、ニコラオスが三人分の湯と着替えの布を手配してくれていた。
その日の夕飯は御馳走だった。
海老とイカの干物を使った酸味の効いたマリネ。
川魚の香草焼き。
子羊とレンズ豆のサフラン煮込み。
干しぶどうとナッツの白パンに、蜂蜜をかけた焼き菓子。
新鮮な川の幸・山の幸に、ニコラオス自身が運んできた海の保存食や南方のオリーブ油、高価な香辛料が並んでいた。
「おいしい!カレンのご飯もおいしいけど」
ミカが目を輝かせる。
「やだ、ミカったら」
カレンは照れくさそうに目を細めた。まんざらでもなさそうだ。
「俺の護衛たちにも、美味い肉とまともなワインを一杯ずつ振る舞ってやってくれ」
ニコラオスも上機嫌で、宿の主人に伝えていた。
「食卓でごはんを食べるのも久々だね」
カレンが言うと、シンも少し頬を緩めた。
◇
「ところで、君たちはなぜ旅をしているんだ?」
「故郷の村が怪異に襲われて…… 。他の村も祭壇が荒らされたらしいです」
カレンが答える。
「王都に怪異の情報が集められ、闘士も募られているとの噂です」
シンが続けた。
「そうか.......大変だったね。
君たちだから言うが、この街の教会の祭壇も荒らされ、遺物が無くなっていたらしいのだ」
ニコラオスは暫く考えてから言った。
「もし王都に行くのなら——うちの隊商の護衛に加わってくれないか?
もちろん、相応の賃金も出させてもらう。
夜、ゆっくり三人で話し合ってくれればいい」
微笑みながら、ニコラオスは言った。
◇
夜。
「この街に残る道もある」
シンの言葉に、カレンは目を瞬いた。
「この街なら、ミカは薬師としてやっていける。カレンも、仕事には困らないだろう」
「シンは?」
とミカが聞いた。
「俺は…… 王都に行く。各地の異形の情報が集まっている。
父と母の為にも、何が起きているのか知りたい」
しばらく、沈黙が落ちた。
「私も王都に行きたい」
二人は驚いてミカを見た。
「危険だぞ」
シンが低く言った。
「そうかもしれません。でも…… なぜ村が襲われたのか、父の為にも、私も知りたい」
ミカは目を逸らさなかった。
「そうか…… 」
カレンが静かに微笑んだ。
私も母の為に知りたい。それに——ミカも守らないとね」
三人の目が合った。
そこに、
迷いは無かった。
◇
翌朝、三人は揃ってニコラオスのもとを訪れた。
「王都までの護衛、俺たちも引き受けます」
シンが告げると、ニコラオスは一瞬目を見開き、やがて満面の笑みを浮かべた。
「君たちなら心強い!…… ほっほっほっ」
王都へ向かう準備が、静かに始まろうとしていた。




