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2章 第2話 異形の謎

ある日、災いが村を襲った。


狩人のシン、薬師の娘ミカ、華奢だが力強いカレン。


三人は旅に出た。


亡き人をよみがえらせるため、災いの原因を知るため。



挿絵(By みてみん)




都市の薬屋で、ミカの作った軟膏は、正当な値で買い取られた。


薬屋を出てからカレンがミカを抱き寄せた。


「ミカが、いつの間にかこんなに立派になって…… 」

声が、少し震えていた。


「カレン、昨日も会ってたでしょ」

ミカが嬉しそうに微笑む。


まるで自分のことのように、カレンの胸は温かくなった。

シンも口元を緩めて、嬉しそうだ。



挿絵(By みてみん)







三人は、旧市壁区にある古物商《灰色狐》を目指した。

店の主人が、情報通だという。


旧市壁区に入ると、道は急に狭くなった。


古い石壁に家々が寄りかかり、頭上には張り出した軒と洗濯物が重なっている。

金槌の音、犬の声、言い争う声。


湿った石と革の匂いが、狭い路地にこもっていた。



「私、一人なら絶対来ない」


怪しげな雰囲気のする周囲を、カレンは見回した。


無意識に、樫の棒を握る力が強くなっていた。

「ミカは大丈夫?」


声をかけると

「うん…… 変わった所だね」

ミカは微笑んで小さく頷いた。



「離れないでね 」

カレンはミカの手首を軽くつかみ、シンのあとを追った。





《灰色狐》の裏口は、建物の隙間に隠れるように設けられていた。

主人のコンラートは、細い目をした、何ら変哲もない中年の男に見えた。



「異形の魔物について知りたい。この街でも出没しているらしいが」

シンは、狩りで仕留めた兎の毛皮を1枚、卓上に置いた。


コンラートは観察するように、三人を頭のてっぺんからつま先までじっくり眺めた。

「私はしがない古物商だが…… 君たちはどこから旅をしている?」


「イシヒア村だ」


その名を聞いた瞬間、男の細い目がわずかに動いた。


「…… 異形に襲われた」


しばらく沈黙が落ちた。

「........噂で聞いた限りでは、近くの村も襲われたらしい。村の祭壇が荒らされたと聞く」


「祭壇......」

シンが低く呟いた。


コンラートは細い目の奥を、わずかに光らせた。

「もう少し、聞いた話はあるが…… 」



シンがもう一枚、毛皮を卓上に重ねた。


「あくまで噂だが......。王都に各地の怪異に関する情報が集められているとのことだ。

それに、名前が広く知られた闘士も集められているらしい。」


「闘士を……何のために?」

カレンが尋ねた。


胸の奥が、ざわつく。王都。闘士。何かが繋がっているのだろうか。


「さてな。異形と戦わせるためか、それとも別の目的があるのか。私が知っているのは、それだけだ」



「そうか…… .助かった」


シンは短く礼を述べて、残りの毛皮の買取代金を受け取った。




店を出てから、カレンの頭には、瓦礫に埋もれた孤児院の礼拝堂が残っていた。

カレンの育った場所。


もし、あの襲撃にも別の目的があったのだとしたら——。




「教会近くで異形が現れたと聞いたな。」

シンが足を止めた。


「行ってみよう」



三人は旧市壁の通路を抜け、教会区へ続く坂を上った。


狭い木造家屋が減り、白い漆喰の石造りが増えていく。

建物の間から鐘楼が姿を現し、ほどなく鐘の音が街へ響いた。



「急に明るくなったね」

ミカが振り返る。



坂を上りきると、修道院前の小さな広場へ出た。

油壺や羊皮紙を積んだ荷車が並び、修道士たちが荷を受け取っている。



挿絵(By みてみん)



その時、空に一つの影が飛来した。

シンが頭上を見上げる。



鷲ほどの大きさの黒い鳥。

羽根は黒い鉄のように光り、身体から赤い瘴気がもれていた。


「怪鳥だ!」

叫び声が上がった。


異形は翼をたたみ、 広場に急降下した。


少女は迫る影に気づき、足を止めたまま動けない。


シンが即座に走り出した。少女へ伸びた鉤爪に、ナイフを振るう。


異形は翼を広げ、すんでのところで上空へ逃れた

…… 旋回し始めて、攻撃の機会を狙っている。


(人に当たってしまうかもしれない…… 弓は使えない)


「カレン、娘とミカを頼む!」


「…… うん!」


カレンは樫の棒を構えて、少女とミカの前に立った。

心臓が、大きく鳴る。怖い。でも、後ろには二人がいる。



異形の影が、急に大きくなり、カレンの方に向かってきた。



走馬灯のように、記憶がめぐる。


自分の力で人を傷つけることを恐れた過去。


「—— あなたの力はひとを守るためにあるのよ。」


孤児院でも孤独だったカレンに、院長の妻は言ってくれた。


まるで母のようだった。


異形に襲われ、崩れた建物の下になりながら、励ましてくれた母——。


その声が、胸の奥で響いた。



「わたしが守る!」


棒を握りなおした、カレンの空気が変わった。


——樫の棒は硬く重い。端を持って振リ回せる長さでは無かった。


それでも------両足を踏ん張った。


深く鋭い呼吸とともに、重心がこれ以上ないほど低く沈む。


上半身の無駄な力みが消え、下腹の奥に凄まじい力が凝縮されていく。


一直線に落ちてくる影が目前まで迫った、その瞬間——。


パンッ!


そこにあった空間が消えたかのように、弧を描いて棒が振り抜かれた。


風圧でカレンの銀髪が激しくなびく。


「カヵッ…… !」

巻きこまれるように棒に捉えられた異形の姿が崩れる。


黒い結晶が広場に舞って、地面に散りながら消えた。



「おおっ!」

見守っていた人々から歓声が上がった。




「お姉ちゃん……」


背後から声がした。


振り返ると、助けた少女がミカに支えられながら、カレンを見上げていた。

「ありがとう」


「大丈夫だよ」

微笑んでカレンが答えた、その時-----。


修道院の敷地内から数羽の異形が飛び上がった。




再び緊張が走る。


しかし、異形たちはしばらく地上の様子を伺うように旋回したあと、

ひときわ大きな個体を先頭に、去っていった。



「異形は、教会で何を........?」

カレンは教会の方を見て呟いた。


胸の奥で、何かが静かに疼いていた。



挿絵(By みてみん)

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