第5話 出会いと別れ
第4話
深い森を進むシンたちの前に、泥と蔦に身を隠した謎の少年が現れる。
直後、少年を追う男たちとの戦いのあと。
少年は森に消えていった……。
シンが後ろを振り向いた。
少し離れた茂みが微かに揺れた。
「あの子かな......。どうしたんだろう」
カレンが首をかしげる。
あれから、少年は遠巻きについてきているようだった。
「出てきなさいよ」
ミカが言った。
「うるせーな!
俺もそっちの方向に行くつもりだったんだよ」
声だけ返ってくる。
「行こう」
シンたちは再び歩きだした。
—----- 何故か旅人が気になって、
少年は遠巻きについて行った。
彼は使い捨ての駒のように扱われて育ってきた。
生き残れないのは弱いから。
それが当たり前だと思ってきた。
少年が襲われた時、狩人が賊に矢を射掛けた。
逃げながら振り返った時、その光景を見た。
......気がつくと、木に登って石を投げていた。
(......なんでそのまま逃げなかった?
......いや、俺はあそこで追っ手をやっちまいたかっただけだろ?
......何だかモヤっとするぜ)
彼は自分の行動に戸惑っていた。
一行は古い炭焼き場を見つけた。
道が二つに分かれる所にあった。
外からは木々で隠れて見つかりにくく、
いざという時の逃げ道があった。
「ミカのそばにいてくれ。火はまだ起こすな。煙が出る」
シンはカレンに言った。
「うん......」
カレンは樫の杖を握った。
近くに罠や追手の痕跡がないか調べてから、
シンは森に入って行った。
数個、兎の罠を仕掛けながら、周囲を散策する。
「……」
シンは足を止めた。
地面に残った新しい糞と、草の根元が噛み切られた跡があった。
その時、茂みの奥で、ごく小さく葉が擦れていた。
風とは違う音だった。
目を凝らすと、草の隙間で動物の耳が見えた。
……ヒュ!
風を切って矢が走った。
シンは地面に膝をつき、一羽の兎に祈りを捧げた。
少し離れた茂みに少年はいた。
顔に泥を塗り、草木と一体化している。
(おー怖ええ.......。
やっぱり、あいつはやばいな。
下手をすれば、兎と同じ運命だ。
.......っていうか、あいつ何してんの?)
狩人は獲物に祈りをささげている。
ふいに、
「そこにいるんだろ.......?」
狩人は背中を見せながら言った。
「.......!」
「......なかなか、やるじゃん」
仕方なく、軽口を叩きながら少年は茂みから出た。
向き直り、狩人は静かに言う。
「俺はシン。お前は?」
「.......フミ」
.......なんで名乗ってしまったのだろう。
「昼は.......なんで助けた?」
取り繕うようにフミは言う。
「無駄な殺生は嫌いでな」
「俺を助けるより、放っておけば良かっただろ?」
少年..フミは続ける。
「なんでだろうな。そんな家で育った」
シンと名乗る狩人の言葉に嘘は感じられなかった。
フミは戸惑っていた。
(自分の情報は漏らすな。良いことが無い。
.......なのに、なぜおれは話している?)
「賊はあと何人いる?」
「三人。一人は弓使い」
フミは答えていた
「助かる…。」
「フミ、飯を食っていくか?」
シンと名乗る狩人が言った。
「ああ......またな......」
逃げるようにフミは背を向けて歩き出した。
人を信じなかった。
そうして生きてきた。
それだから生きてこれた。
それが壊れることを、おそれたのかもしれない。
シンが炭焼き場に返ってきた時、
ミカは道中で摘んだ薬草の処置をしていた。
樫の杖を持ったカレンが出迎えた。
「あれ.......兎が二羽も」
カレンとミカは目を丸くした。
「ああ、罠にも兎が掛かっていてな」
シンは少し照れたように言ってから、肉を捌きだした。
その日の夕飯は
「兎の骨付き肉と乾燥豆とオレガノの煮込み」、
そして 「心臓と肝の炙り焼き」だった。
鮮度が命の内臓は、仕留めた当日にしか食べられない極上のごちそうだ。
「……おいしい。お腹の中から、元気が出てくるみたい」
濃厚な豆のスープを口に運び、ミカが笑顔を見せる。
カレンとシンの顔もほころんだ。
残りの肉は火であぶった。
タイムと塩を擦り込んで焼いてあり、携帯食になる。
シンは余った椀に煮込みを注いだ。
「さっき、森で昼間の少年に会った。腹が減っているだろう」
「きっとそうだね」
カレンとミカは微笑んだ。
シンは森の近くの岩の上に、椀とスプーンを置いた。
次の朝、椀はきれいに空になっていた。
空が白みがかったころ、
昨晩の煮込みを食べて、三人は出発した。
木々の間から、高い壁の上の塔が見えてきた。
「.......待てよ」
背後の茂みから声がして、
森から溶けてくるように人影が現れた。
「何のために街に行く?」
「故郷の村が魔物に襲われてな。その情報を探す。そんなところだ」
フミの問いにシンが答えた。
「……旧市壁区に《灰色狐》って古物屋がある」
「そこのコンラートって男なら、何か知ってるかもしれねえ」
「古物屋?」
カレンが聞き返す。
「皮や古い旅道具を扱ってる。
街道で何が起きてるか、あいつなら知ってるかもしれない......」
フミはそう言って振り返り、森に入っていく。
「気を付けてな」
シンが言う。
「あんたらもな…….」
すっ…..と森に消えた。
「……行くか」
シンが遠くに見える巨大な都市を見上げた。
カレンとミカが頷く。
三人は共に歩き出した。
ルミナ・パルス 第一章 了




