第4話 深い森と少年
朝の森にパチパチと心地よい音が響いていた。
平らな薄い石を焚き火の上に据え、昨夜仕掛けた罠から獲れた瑞々しいマスを焼いている。
カレンが手際よく内臓を取り除き、お腹の空洞にハーブの葉を刻んで詰め込んだ。
少し塩を振り、熱い石の上に魚を並べる。
「ジュゥゥ……」
音とともに、魚とハーブの香りが広がった。
焼きあがったマスは脂よく乗り、
川魚特有の臭みをハーブが消していた。
「……おいしい。こんなにふっくら焼けるのね」
ミカが目を輝かせる。
カレンが微笑む。
「しっかり食べて体力をつけておくんだ」
シンも顔を緩ませた。
食事が終わり、石を川に入れ、焚き火の跡に土をかぶせた。
野営地を後にして……。
シンたちは陽光がほとんど届かない、深い森の道を歩いていた。
深い草木が重なっており、動物が飛び出してきてもおかしくない。
いざというときは、カレンはミカを守り、シンが応戦する。
そう決めていた。
—-------シンの勘が警鐘を鳴らした。
「……なにか、おかしい。カレン、気を付けるんだ」
樫の杖を持つカレンにも緊張が走る。
—--------突然、茂みから黒い影が転がり出てきた!
シンは即座に矢をつがえる。
「あれは…… イノシシ? いや……」
顔に泥を塗りたくり、身体に蔦を巻きつけた、少年だった。
—--------次の刹那、茂みから男たちが現れ、いきなり少年に切りつけた!
少年は必死にかわす。
—--------シンは迷わず弓を放った。
ビュン!
矢が風を切り、武器を持つ一人の男の腕を貫通した。
「がぁぁああ!」
森に男の悲鳴が響く。
残りの男二人がシンに向き直った。
男たちの動きには殆ど足音が無い。
一人は大鉈、もう一人大きなナイフを握っていた。
「カレン、離れろ。ミカを頼む」
シンは矢をつがえながら、低く言った。
「うん……。ミカ、後ろに行って」
カレンが樫の杖を両手に持ち、構える。
「はい...」
ミカが従う。
「お前たち、去るんだ。命のやりとりなど無意味だ」
シンが男二人に告げる。
大鉈の男が話し出した。
「そちらに無くても、こちらにはあるんだ……。
それに、子分がケガさせらぁぁああ!」
言葉の途中で、鉈をシンに向けて投げつけた!
そのまま、腰の刃物を抜きながらシンに突進する。
(避ければ、後ろにカレンとミカがいる)
シンは、弓で鉈を流しながら、後ろに下がった。
刃物がシンに迫る。
—--------その刹那シンが投げた目つぶし玉が、大鉈の男の顔にあたった。
「ぎゃああああ」
悲鳴が森に響く。
今度は大きなナイフを持つ男が向かってきた。
シンは腰元の刃物に手を伸ばした。
—--------その時、何かが飛んできて、男の頭に当たった。
パキィィ!
乾いた音が響き、男は悲鳴を上げて倒れた。
木の上に、あの少年がいた。何かを投げたようだ。
「どうよ!」
森に声が響く。
「おらぁぁぁぁぁ」
間髪入れず、2発目。
大鉈の男の頭部に当たり爆ぜた。石だ。
……ゆっくりと男が崩れ落ちる。
少年が叫んだ。
「まだいるぞ!」
—-------最初に腕を射抜かれた男がシンに襲いかかっていた。
振り下ろされる白刃!
キッ……
シンは腰元から抜いた刃物で受け流す。
体勢が崩れた男の腕を掴み、背中に捻り上げ….
ゴキッ……
骨の折れる音がした。
……森に静けさが戻った。
よろよろと立ち上がった男たちは言う。
「ただじゃすまさねえ……」
「今度現れたら、お前たちこそ、ただではすまない……」
空気が震えるような気迫でシンが言い放つ。
男たちは「チッ」と舌打ちし、おぼつかない足取りで茂みに消えた。
草の擦れる音が徐序に遠ざかっていった。
「カレン、ミカ、怪我はないか?」
シンが声をかけた。
「ええ.......ありがとう」
カレンの杖を握る力が少し抜けた。
「シンさんこそ大丈夫ですか?」
ミカが心配そうに尋ねる。
シンは二人に頷いてから、木の上を見上げた。
……..幹のそばにひっそりと膝を立て、少年が佇んでいた。
手にはまだ石を握っている。
「おい.....あの男たちは何者だ?」
静かにシンが問いかける。
「あ……? ああ……。 何だろうな? 追いはぎだろ 」
少年は答えた。
(……少し声の調子がおかしい。
追いはぎにしては殺意が強すぎた……)
その時、ミカが少年に声をかける。
「怪我はないの?降りてきて……」
カレンがミカの肩へ、そっと手を置いた。
「うるせーよ、子どもは黙ってろ」
そう少年は返す。
「あなただって子どもじゃない」
ミカも返す。
……こうしてみると、なんだか少年らしくも見える。
シンとカレンが目を合わせた。
「……ちっ。あんがとよ」
調子がくるったようで、少年は立ち上がった。
「……ああ」シンが短く返す。
少年は森に溶けるように姿を消した。




