↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/28

第四話 追われる少年と深い森

朝の森にパチパチと心地よい音が響いていた。


焚き火に据えられた平らな石の上で、今朝とれた瑞々しいマスが音を立てている。


「ジュゥゥ……」


脂が焼ける香りと、ハーブの爽やかな香りが広がる。


「……石の上だと、こんなにふっくら焼けるのね」


一口食べて、ミカが目を輝かせた。


◇


野営地を後にしてから、三人は陽光がほとんど届かない、森の道を歩いていた。


先頭を行くシンの足が、ふと止まる。

深い草木が重なっていて、数歩先さえ見通せない。


静かすぎる。鳥の鳴き声ひとつしない。

シンの狩人としての勘が、警鐘を鳴らした。


「なにか、おかしい。カレン、ミカのそばに」


樫の棒を持つカレンにも緊張が走る。


その瞬間。


ガサッ――!


突然、前方の茂みが激しく揺れ、黒い影が転がり出てきた!


シンは即座に矢をつがえた。


「あれは……イノシシ?いや」



影の正体は、一人の少年だった。

顔に泥を塗りたくり、身体にツタを纏わせていた。



――次の刹那。


少年が飛び出してきた茂みから、三人の男たちが躍り出た。


男の一人がぎらつく刃物で少年を容赦なく切りつける!

少年は必死にかわした。


――シンは迷わず矢を放った。


ビュン!


矢が風を切り、少年を追い詰めていた男一人の腕を貫いた。


「がぁぁああ!」


森に悲鳴が響く。


その隙に少年はシンたち、男たちから離れるように逃げていった。


残された二人の男がシンに向き直る。

一人は大鉈、もう一人は刃の長い短刀を握っていた。


「カレン、離れろ。ミカを頼む」


シンは矢をつがえながら、低く言った。


「うん……。ミカ、後ろに行って」


カレンとミカは、シンの背後に隠れるように下がった。


「お前たち、去るんだ。命のやりとりなど無意味だ」


シンが男二人に告げた。



「お前に用はなくても、こっちはあの小僧に用がある。

それに、子分がケガさせられてなあ!」


鉈を持った男は言葉の途中で、鉈をシンに投げつけた!

そのまま、腰の刃物を抜きながらシンに突進する。


(避ければ、後ろにいるカレンとミカに当たる)


シンは、弓で鉈を受け流しながら、後ろに下がった。


鉈男の刃物がシンに迫る!

――次の刹那、シンが腰元から放った目つぶし玉が、鉈男の顔に当たった。


「ぎゃああああ」


鉈男が目を抑えて塞ぎ込むと、今度は短刀の男が向かってきた。


シンは腰元の刃物に手を伸ばす。



――その時だった。

頭上の木立から、勢いよく何かが飛んできた。


パキィィ!


短刀の男の頭に当たり、男は悲鳴を上げて倒れた。



離れた木の上に、あの少年がいた。

何かを投げたようだ。


「どうよ!」


森に声が響く。


「おらぁぁぁぁぁ」


間髪入れず、二発目。


ビシィィッ!


何かが爆ぜた。石だ。

頭部にダメージを受けた、鉈男が崩れ落ちる。



少年が叫んだ。


「まだいるぞ!」


――最初に腕を射抜かれた男がシンに襲いかかってきた。

振り下ろされる白刃!


キッ……


シンは腰元から抜いた刃物で受け流す。

そのまま体勢が崩れた男の腕を掴み、背中に捻り上げる。


ゴキッ


悲鳴が森に響いた。



「ただじゃすまさねえからな……」


男たちは、よろよろと立ち上がった。


「今度現れたら、お前たちこそ、ただではすまない……」


シンが言い放つ。


「チッ」


男たちはおぼつかない足取りで茂みに入っていく。

草の擦れる音が徐々に遠ざかっていった。


◇


「カレン、ミカ、怪我はないか?」


シンが声をかけた。


「ええ……ありがとう」


カレンの杖を握る力がようやく緩む。


「シンこそ大丈夫ですか?」


ミカが尋ねた。


シンは頷いてから、上を見上げた。


離れた木の上に、ひっそりと少年が佇んでいた。

手にはまだ石を握っている。


「おい……あの男たちは何者だ?」


シンが静かに問いかける。


「あ……?ああ……。何だろうな?追いはぎだろ」


少年は答えた。


(追いはぎにしては殺意が強すぎた……)


その時、ミカが少年に声をかけた。


「怪我はないの?降りてきて」


カレンがミカの肩へ、そっと手を置いた。


「うるせーよ、子どもは黙ってろ」


「あなただって子どもじゃない」


ミカが言い返した。


シンとカレンが目を合わせた。



「ちっ。じゃあな」


調子がくるったのか、少年は立ち上がる。


「ああ」


シンが短く返すと、少年は森に溶けるように姿を消した。


◇


都市に向けて再び歩き出す三人。


その背後で茂みが揺れ、音を立てていた。







挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Xからきました。 静と動がうまく組み合わさった綺麗な文章だと思いました。 大変なものを抱えてるはずなのに食事や狩りなど日常を静かに過ごしている様子と物語が動き出した時の緊張感のバランスがいいです。 …
こんにちは。 Xの企画を見て拝読させて頂きました。 ケルト音楽が聞こえてきそうなゆったりした文章。心穏やかに読むことが出来て、思わずブクマしてしまいました。 じっくり読ませて頂きます。
狩りや料理のシーンが好きです。 暗い話と静かで趣のある描写がマッチしてて 印象に残りました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。