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第3話 月明かりの薬師

災いが故郷の村を襲った。


古い言い伝えには「闇が生まれ世界を包む時、光は蘇る」とある。


本当なら亡くなった人たちを取り戻せるかもしれない。

そして、この災いの正体を知るために。三人は都市を目指す。




挿絵(By みてみん)





朝の沢に、冷たい水音が響いていた。

カレンとミカは川の砂や硬い草を使って、

お椀にこびりついた汚れをゴシゴシと擦り落として、

水気をしっかりと拭き取った。



シンは朝獲った兎の皮の後処理をしていた。

乾燥させれば、それなりの値段で売れる。

捌いておいた残りの兎の肉は、火でよく炙ってから、シダの葉で包んだ。


「早めに出よう」

日が暮れるまでに移動は終えておく。

手早く準備を済ませて3人は出発した。




森は静かだ。木々の間から差し込む光も、鳥の声も何、いつもと変わらない。

正午を過ぎたころ、ミカの歩幅が少しずつ狭くなった。


「休もう」

シンが言った。


「まだ歩けます」



「休みましょう、私も疲れたし」

カレンが笑顔で言った。


「まだ森に歩きなれていない。無理をするな」


ミカは二人の顔を見て、やがて小さく頷いた。

「……ありがとうございます」


「水を飲め。倒れてしまう」

シンは水筒を差し出した。


ミカは小さく唇を結んだ。

(二人の優しさはうれしいけど…..足手まといになりたくない)

そう思うのだった。





日が西へ傾き始めたころ、一行は足を止めた。


シンは水際の跡や獣の足跡を確かめながら、今夜眠れる場所を探す。


石組みの焚き火跡が残る、 誰かが使ったような広場。

川から程よく離れた、水面より高い平地にある。


シンはカレンに魚罠の作り方を教えて、

小動物の罠を仕掛けに森へ入っていった。

「……よっと」


カレンは軽々と大岩をどかして浅瀬に石を並べて流れを一か所へ集め、

その先へ「細枝で編んだ罠」を固定した。


ちょうど、川岸の湿った地面に、見慣れた細長い葉を見つけた。


「あ、これ…… ワイルド・ガーリック(野生ネギ)だわ」

イヌサフランなど、葉の形状が似た有毒植物があるため、葉を潰して匂いを確認する。


ニンニクのような香りが広がった。

カレンはをいくつか引き抜いて、川の水で洗い、野営地へと持ち帰った。






そのころ、ミカは今日摘んだ薬草の調合をしていた。


幼いながらもミカは2人の力になりたいと考えた。


日中の移動中に摘んだコンフリーの葉と、

セイヨウオトギリソウの黄色い花。


乾燥させるため形のよいものを乾いた麻布の上へ広げた。

外用の軟膏ずくりに取り掛かる。


摘み取った新鮮な草花をすり鉢で細かく突き潰し、

持参していた植物油に浸して小鍋で静かに温めていく。


そこへ蜜蝋を削って加え、ゆっくりと溶かしていった。


温かい液体を小さな陶器の壺へ移せば、

冷えるにつれて、指ですくえるほどの軟膏になる。


「よし……。これで傷薬がまた三つ、出来上がりね」

ミカは満足そうに壺の蓋を閉めた。


そこに狩猟罠を仕掛けて、シンが帰ってきた。

「傷薬か」


「はい。街に持っていけば、売れるかもしれません」


シンは壺を手に取り、短く頷いた。

「助かる」


一言だったが、ミカは心が温かくなるように感じた。





夕飯は、朝に獲った兎肉の残りとワイルド・ガーリック、麦パンを煮込んだスープだった。

炙った兎肉から香ばしい燻煙の香りがスープ全体に溶け出している。


ワイルド・ガーリックのまろやかなコクと玉ねぎを炒めたような深い甘味は、ウサギ肉に残るわずかな野生の獣臭さを消して、食欲をそそる味に変えた。


硬い麦パンがスープで煮込むことで「シチューのような心地よいとろみ」 を加え、麦の皮の香ばしさとほのかな酸味が、塩だけのシンプルな味付けに立体感を与えた。


贅沢な調味料は何一つないが、口に含むたびに薪の香ばしい匂いと力強い肉のダシが豊かな味を出していた。

ミカは木の匙で一口すくい、湯気を吹いてから口へ運んだ。

「……おいしいです」

「ちゃんと食べて、明日もがんばろうね」

カレンがほっとしたように笑う。


シンも口角を緩める。

村を出てから、三人の間に流れる沈黙は、

少しずつ悲しみではなく安らぎに近いものになっていた。


傷薬を作れて、今日は少しだけ二人の役に立てた気がした。

ミカは思う。


森がささやくように葉を揺らしていた。

水面を照らす月明かりは、彼らの旅路を照らす道標のようだった。


挿絵(By みてみん)


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