第2話 初めて笑えた朝
災いが故郷の村を襲った。
古い言い伝えには「闇が生まれ世界を包む時、光は蘇る」とある。
本当なら亡くなった人たちを取り戻せるかもしれない。
そして、この災いの正体を知るために。三人は都市を目指す。
村をに現れた異形の魔物たちを、なんとか倒して........。
一夜が明けた。
シン、ミカ、カレンは、朝早く村を出た。
空はまだ薄暗く、村には焼けた匂いが残っていた。
古くから「闇が生まれ世界を包む時 、光は蘇る」
そう伝えられる。
戻らない者をよみがえらせる手がかりを求めて。
そして、この災いの正体を知るために。彼らは都市を目指す。
無事だった村人たちが、崩れた門のところまで見送りに来ていた。
彼らはなけなしの食料を持たせてくれた。
保存のため二度焼かれた麦パン。
布に包まれたわずかな塩。
そして、野営に使う古い毛布も。
「でも、それは皆さんの…… 」
「持ってお行き。あの先生の娘を、空腹のまま送り出せないよ」
村人はミカに優しく言った。
カレンが深く頭を下げる。
「…… ありがとうございます。必ず、この子を守ります」
村の男が、短く頷いた。
シンは頭を下げ...村人たちに背を向けた。
三人は都市へと続く古い道を進んだ。
あまり人が通らないため、草が腰の高さまで茂っていた。
朝露が、靴と服の裾をびしょ濡れにする。
誰も、多くを語らなかった。
話せば、昨日のことを思い出してしまう。
「歩くのが遅くてごめんね」
カレンが申し訳なさそうに言う。
「…… 無理に急ぐな.。 あの倒れた木まで行ったら休もう」
シンは静かに答えた。
道すがら、古い小屋を見つけた。
慣れない旅疲れもあって、その日は早めに歩くことをやめた。
小屋から少し下ったところに細い沢が流れていた。
シンは上流に獣の死骸や、異形の痕跡がないことを確かめる。
足跡、折れた枝、不自然にえぐれた地面。
「…… 大丈夫だ」
カレンが鍋いっぱいの水を運ぶ。
ミカが布を重ね、落ち葉や細かな土を濾していく。
乾いた木を折り火を起こした。
火種が、小さく煙を上げてから、ようやく橙色に色づいた。
鍋で沸いた水を、夕食用と明日の飲み水に分けた。
その日の食事は、村の人がくれた硬い麦パンを湯で煮崩し、
わずかな塩を入れたスープだった。
ミカもカレンも、口数が少ない。
無理もない。
慣れない旅と、あの惨劇の後だ。
カレンは育ての親を..
ミカは父を..
シンは父と母..。
三人とも、それぞれの喪失を抱えていた。
誰も、無理に言葉にしようとはしなかった。
床に就く前、シンは小屋を出た。
月明かりの下、ウサギの糞から「獲物の通り道」を読み取る。
携えていた罠を手際よく、数箇所に仕掛けた。
翌日-----
朝、仕掛けておいた罠に、兎が一匹かかっていた。
「許してほしい。お前の命は、私たちの命を支える。その恵みに感謝する」
シンは祈りを捧げた。
兎をしめて、すぐ肉血抜きをする。
肉の腐敗を防ぐためだ。
腰の短刀で、手際よく兎を捌いてゆく。
兎一羽で、三人分の食事二回ほどの肉があった。
火が通りやすい前脚や肋骨まわり、肝と心臓を、朝食用に鍋に入れる。
肉の多い後脚は焚火でよく焼き、携帯食にすることにした。
その間に、カレンが沢へ水を汲みに行っていた。
火を起こして、兎肉と塩を鍋に入れる。
湯気が立ち、獣の脂の匂いが広がった。
ミカは近くの草むらでニンニクガラシを摘んでいた。
葉を1枚、指先で揉んで 匂いを確かめる。
まだ茎が伸びていない、ハート型 の若い葉だ。
「…… この草は傷口の菌を防ぐ湿布にもなるし、血の巡りをよくする。滋養もあるって…… 父さんが...」
ミカはそっと呟いた。
ニンニクガラシのピリッとした辛味が、野生のウサギ肉の臭みをやわらげた。
硬い麦パンも一緒に煮込む。
スープは、すっきりとした味わいに仕上がった。
三人は鍋を囲み、夢中でスープを口に運んだ。
スープを口にしたカレンの顔が、ぱっとほころんだ。
「…… 美味しいね!ミカ、すごいよ。お腹の奥がポカポカしてくる」
「いえ…… お肉はシンが獲って、煮てくれたのはカレンさんです」
ミカは慌てたように首を振る。
この旅で見せた、初めての本当の笑顔だった。
シンがミカの頭を手でぽんぽんと叩く。
「…… いい薬師になれる」
シンの表情も、わずかに和らいでいた。
小屋の隙間から朝の光が差し込んでいた。
森はまだ、静かだった。
それでも、昨日よりも少しだけ、歩き出せる気がした。




