第1話 村の崩壊と都市への旅立ち
“ 闇が生まれ世界を包む時。光は、生きる者たちの心より立ち上がる ”
◇
村の周りは森で囲まれていた。
というより、広大な森の中に、村が遠くぽつりぽつりと存在している。
シンはそんな、小さな村に住んでいた。
彼は小さい時から、弓で獲物を狩って生きてきた。
それはいつもの一日だった。
シンは狩りで獲物を仕留めた。
獲物の前でしゃがみ、胸元で手を合わせた。
「許してほしい。
お前の命は、私の家族の命を支える。
その恵みに感謝する。
魂が安らかに森へ還りますように」
彼は祈りを捧げた。
腰に差した短刀で手早く獲物を捌く。
近くには青々としたシダの葉が生えていた。
肉の傷みを遅らせるその葉で肉を包んで、肩から下げていた猟袋にしまった。
「もう昼を過ぎているのか……」
暗い森でふと顔を上げたとき------
突然、空が黒く染まった。
暫くして、かすかに遠くから人の悲鳴が聞こえた。
村のほうからだった。
全力で走った。
◇
村の光景はまるで、この世の終わりのようであった。
いたるところで、既にこと切れた村の人々が倒れている。
家屋に人の気配はない。
「母さん…父さんは無事か?」
シンは家に向かい駆け出した。
そのとき、子どもを見つけた。
たしか、名前はミカ…… 医者の娘だった。
彼女は涙を流しながら、倒れている男性に手を当てていた。
男性はミカの父で、もう亡くなっていて……
ミカはそれを受け入れられていないようだった。
シンは叫んでいた。
「おい! お前の父さんはもう……」と。
「くそっ」と自分に対して呟く。
「逃げるぞ!」茫然としているミカの手を引き、走り出した。
ミカと2人で、シンの家まで走った。
家の入口でシンは足を止める。
無意識に握った拳の内側に爪は食い込み、歯はきしんでいた。
(父さん.……母さん……。
……ミカに家の中を見せるな)
「行こう」
ミカに言った。
◇
その時、闇の中から黒いものが現れた。
狼のような姿をしているが……この世のものではない。
そう本能が告げていた。身体からは黒い瘴気が漏れている。
二体は唸り、低く身を沈め、 こちらに近づいてくる。
(ミカがいる。 逃げなければ)
そう頭に流れた刹那、異形は飛びかかってきた!
弓を使う距離では無い。
まず距離をとらなければ。
しかし、この場を離れることはできない。
ミカが背後にいる。
飛びかかってくる牙。
腰に携えていた二振りの短刀を抜き、何とか受け流した。
それは「草を切り分け、仕留めた獲物を解体するため」の道具。
戦闘用の武器ではない。
異形の牙と爪は間髪を容れず繰り出される。
その疾さは山で会う野犬のそれではない。
シンは防ぐだけで精一杯だった。
…後退はできない…
爪で削られるなか、少しずつ、感覚が芽生えてきた。
…予備動作、重心、そして次の行動。
少しずつ。 シンは異形と同調し始めていた。
それは、普段、狩りをしているときの感覚と似ていた。
極限のなか。
異形の「噛みつく」という思念に、
シンの意識は同調した。
異形が動き始めるわずか前にシンは動いていた。
動き始めた、異形の首筋を切った。
……..しかし。
戦いは独りで行う、いつもの「狩り」ではなかった。
守らなければならない者が、背後にいた。
「まずい...!」
もう一帯の異形の牙がミカに届く.....その時だった。
「きゃぁぁぁぁぁ」
叫び声と共に、一つの影が飛び込んできて、
ミカを襲う異形の頭をはたきつぶした。
それは村の孤児院で子供の世話をする「カレン」だった。
「…あいつは……カレン? …なにを…持っている?」
シンが口にした瞬間。
「嫌ぁぁぁ」
カレンは叫びながら、シンに向かって走り出した。
「ちょ...! 待てよ!」
言った次の瞬間.....
意識が無くなった。
……どれくらい時間がたったのか、シンは目を覚ました。
心配そうなミカとカレンの顔が見えた。
シンが首を切って倒した異形が背後で立ち上がり、
彼を狙っていたところをカレンに助けられた……らしい。
村の被害はひどいものだった。
◇
古からの預言にはこうあった。
「闇が生まれ世界を包む時。
光は、生きる者たちの心より立ち上がるであろう。
光は闇に奪われしものを、再び地上へと還す」
奪われしものを、再び地上へと還すなら、失われた家族も蘇るのか……?
……死んだ者は大地に還る。
それが理だ。
それでも――心のどこかで。 わずかな希望が胸に灯る。
そして、村を襲った災いの正体を明手がかりを求めて、都市を目指す。
三人は森へ踏み出した。
闇に覆われた世界の中で、かすかな光を探すために。




