↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/27

第三話 追手



シンが凶刃に倒れた。


――その翌朝。

建物の壁に背中を預けて、フミは腰をおろしていた。


視線の先で、棒と布で作った担架が揺れている。


ゆっくりと荷馬車に運ばれているシン。

その傍らにはミカが付き添っていた。


「足音もなく背後に現れた」


意識が戻ったシンの言葉。


「気配も音もなく現れる? ……怖すぎるだろ……気が休まらねえ」


ぶるりと肩を震わせる。


そして、昨日感じた、光が身に宿った感覚。

あれは幻想だったのだろうか?


「分からねえな」


ふと気づくと、視界の端で小さな鳥がこちらを見ていた。


「なんだよ」


「キュン」


返事が返ってきた。


「食いもんは持ってねーぞ」


フミが腰を上げた瞬間――


ぱたぱた……


軽い羽音がして、肩に僅かな重みが乗った。

ゆっくり肩を見ると、鳥がクリクリした目でこちらを見ている。


「……うわっ!?」


振り払おうと手を上げた。


だが、鳥は逃げようとしなかった。

その瞳は、どこか意思を持っているように見えた。


◇


商隊は村を離れて、森の道を進んでいた。

左手には森が広がり、右手には切り立った石の壁が続いている。

道を進むほどに、森は深くなっていく。


「俺は森を歩くよ」


「フミ、すまんな……」


ニコラウスが声を掛ける。


「いいって、飯を食わせて貰っているんだ。これくらいはさ」


そう言って森へと歩み出る。


「……怖えけど」


ぼそっと、独り言をのこして、薄暗い森に足を踏み入れた。


◇


歩くほどに森の奥は、さらに深くなっていく。


「お前、本当に逃げないんだな」


気を紛らわすように鳥を見た。


すると、それまで毛づくろいをしていた鳥が、動きを止めた。


「ピッ?」


首をかしげる。

時折、左の森の奥に首が動く。


「……ん?」


ぱたぱたと翼を羽ばたかせて飛び立ち、森の奥――街道の逆側に飛んでいった。


「なんか、おかしな動きだったな」


しばらく森を見つめていた、そのとき――


不意に、頭の中へ自分のものではない景色が流れ込んできた。


通り過ぎる木々の梢、流れていく森の地面。

景色が先へ進んでいく。


「なんだ……これ」


その時――

別の景色が、木々の切れ間に、大きな黒い影を映した。


一体ではない。

枝を払いのけ、こちらに向かってきている。


「何が起きている?」


分からない。

だがフミの耳に、微かに地鳴りのような音が聞こえてきた。


ドン…… ドン…… ドン……


徐々に大きくなる。

遠くから、確かに何かが迫ってくる。


「なにか、やべえ!」


指を口元へ運ぶ。


ピィィ――ッ!


「警戒!左!」


叫んだ。


◇


「左を警戒!馬車を右の壁に寄せろ!」


隊長の号令が飛ぶ。

盾兵たちが馬車の左へ出て列を組み、その背後から弓兵と弩兵が武器を構えた。


地響きのような音が迫ってくる。


密集した木の幹、大きな枝と垂れ下がる葉、腰ほどまである茂み。

視界が悪い。



――ガサッ。


森の奥で、茂みが大きく揺れた。

低い枝が押し退けられ、暗がりの中から、黒い巨体がぬっと姿を現す。


一体。

別の木陰から、もう二体。


黒い体から瘴気が漏れ、首から背中にかけて異様に盛り上がっている。

大きく裂けた口から、黒ずんだ牙が覗いていた。


「でかい……」

隊員が呟く。


「撃て!」


号令が響き放たれた矢が、異形に打ち込まれる。

だが硬い筋肉に阻まれ、深くは刺さらない。


「ブォォォォ!」


異形たちは地を鳴らすような雄叫びを上げた。


異形の一体が、盾隊の方に走り出す。

巨体に反して速い……!


ドンッ――!


鈍い音が森に響く。


「な……っ」


隊員が1人、靴で土を削り耐えようとするも、盾ごと荷馬車に吹き飛ばされた。



木に登ったフミが、異形たちの後方から叫ぶ。


「一匹は正面から、二匹は左右に回り込もうとしてるぞ!」


フミは投石用の紐に石を仕掛けて振り回した。


「オラァァァ!」


放たれた石が異形の背中に当たる。


「グオォ!」


異形はフミのいる森のほうに振り返り、腕を振り回して枝を薙いだ。


「やべえ!」


慌てて木に身を潜める。



(効かねえのか?..ダメなのか)


猪に襲われ、足がすくんで動けなかった記憶が頭をよぎる。

あの時の悔しさも。


『最後は気合だ。でかい奴を前にしても、武器を持っていても、自分を信じることだ』


不意に、ユウの言葉が胸によみがえった。


異形が再び、荷馬車の方を向き歩き出す。

列を立て直そうとしている盾兵たち。アンナやニコラオスの姿が見える。


「やらせねえ!」


『諦めない』

そう決めた想いに応えるかのように、フミの全身を何かが駆け抜けた。


石を振り回す肩に、何か温かいものが巻かれている感覚。

振り回す石はさらに早く回転する。


腹の奥から熱い力が込み上げた。

腕へ。

指先へ。

そして――

回転する石の表面に、淡い光が宿る。


「シィッ!」


石はとてつもない速さで放たれた。


ドン!


異形の頭を石が貫いた。


巨体が一歩、二歩とよろめき――


そのまま地響きを立てて崩れ落ちた。



「……は?」


フミは、放ったばかりの自分の右手を見つめた。



◇


そのころ――

鬱蒼とした森から、戦闘を見る別の影があった。




挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。