第二話 光の鼓動『ルミナ・パルス』
「シン君、こんにちは」
振り返ると、そこにはルイスが立っていた。
「ああ、武術の試合に出ていた……。どうしてここに?」
シンは、厩舎で馬を休ませていた。
「馬で先に到着したんだ」
ルイスが人懐こい笑顔を向けた。
厩舎の向こうで、教会の前に荷馬車が止まっていた。
ニコラオスが神父と話し込んでいる。
「各地で遺物が奪われているようですな」
「ああ、何の目的か分かりませんが」
その時――
「宝物庫に化け物が出た!」
教会から悲鳴が聞こえた。
悲鳴とともに、教会から僧侶たちが飛び出してくる。
「なに、あそこには遺物が……!」
神父が青ざめた顔で教会を振り返った。
シンの脳裏に、荒らされた祭壇、奪われた遺物、そして異形の姿が一気によぎる。
「俺が見てきます」
シンはためらう間もなく教会に踏み込んだ。
◇
ステンドグラスから光が注がれた教会の内側。
二階にある一室の扉が開いていた。
階段を上り、室内に入る。
室内に異形の影はなかった。
周囲を警戒しながら、慎重に足を進める――
その時、胸元が熱を帯びた。
「……?」
ペンダントが、服の下でかすかに震えている。
一歩進む。
振動が強くなった。
部屋の奥に、机に置かれた小箱が見える。
導かれるように、ゆっくりと近づき……小箱を開けた。
中にあったのは、透き通った六角柱の結晶体。
内部には線が規則正しく幾重にも走り、枝分かれしては緻密に円や菱形を描いている。
「俺の……ペンダントに似ている? これが、遺物?」
その時、胸元のペンダントがさらに強い熱を帯びた。
「……!」
いつの間にか、背後に気配を感じた。
足音は無かった。
だが、誰かいる。
――身を前へそらした。
しかし、遅かった。
鋭い衝撃と熱が背中を走る。
膝から崩れ落ちた。
……靴音が机へ近づいてくる。
「うん、これだね」
小箱の遺物を手に取った者の体は、闇に包まれ、所々に赤い瘴気が漏れている。
遺物を懐へ収めながら、向き直ったのは――ルイスだった。
「……悪いね、シン君」
ルイスが血に塗れた短剣を構え直す。
その時――
ルイスの赤い目が、シンの胸元に光るペンダントを捉えた。
「そのクリスタルは……ルミナの?」
次の瞬間、足音が迫ってきた。
「シン!」
ユウの声だった。
「またね」
ルイスはその場で跳躍する。
机を飛び越え、窓を破って外へ脱出した。
ユウが窓の外に目をやった時には、すでにルイスの姿は消えていた。
◇
フミ、ミカ、カレンも駆けつけた。
シンの傷口を押さえている布が赤く染まっていく。
背中の出血が止まらない。
「行かないで」
傷口を押さえるミカの頬に、涙がこぼれた。
◇
「シン!」
周囲の声が遠くに聞こえるようになってきた。
霞んだ視界が、さらに暗くなっていく。
手足が寒い。
ひどい気だるさだ……。
指を動かす力もない。
俺の命はここまでなのか……。
……やがて、意識は闇に包まれた。
断片的に記憶が浮かんでいく。
――「これは代々受け継がれた護りだ」
初めて一人で獲物を仕留めた日。
父から渡された、小さなペンダントに重みを感じた。
「 もし、絶望の中にいても、希望を失うな。
光は闇の中で輝く。
忘れんなよ」
言葉が胸に響いた。
――「お父さん、行かないで」
暗闇で声がした。
あの日と同じ声。
冷たくなった父の身体を前にしていた、ミカの姿。
置いていくのか?
ミカを。
仲間を。
そして……自分の両親が倒れている姿が浮かんだ。
まだ……死ねない。
死ぬわけにはいかない。
祈り奉る。
闇の中で輝くルミナよ。
どうか、光を放ち給わんことを。
その祈りに応えるように、胸元から光が放たれた。
◇
「シン、帰ってこい!」
仲間たちが懸命にシンの意識を繋ぎとめようと声をかけていた――その時。
シンのペンダントが鼓動するように震え、光を放って五人を包み込んだ。
そして、光の鼓動 ――“ルミナ・パルス” が、五人の心と身体に共鳴した。
見たことのない大地。
空を覆う闇。
その中で立ち上がる、無数の光。
誰の記憶かは分からない。
だが、五人の胸に、命を燃やすような光が宿った。
シンは、胸の中で消えかけていた命が、激しく燃え上がる感覚を覚えた。
祈りを捧げるミカの両手に、すべてを包み込むような温かい光の波動が満ちる。
カレンの全身の血管を、強固な鋼のような熱い力が駆け巡る。
フミの視界が一瞬だけ、世界の「線」を眩しいほどに捉えた。
ユウの両足に、風を追い越すような爆発的な衝動が宿った。
◇
ミカの指先から柔らかな白い光が溢れ、シンの傷口に吸い込まれていった。
そして、シンの背中の傷から流れていた血が止まった。
――遠のいていた声が、少しずつ輪郭を取り戻した。
冷えていた指先に、わずかに感覚が戻る。
シンはゆっくりと指を曲げた。
薄く目を開けると、涙を浮かべたミカがいた。
「……そんな顔をするな」
声はほとんど掠れていた。
それでも、シンは確かに生きていた。
◇
シンは起き上がることはできなかった。
「……ルイスは、足音もなく背後に現れた」
傍らの仲間たちに、掠れた声で告げる。
「斬られる直前に気づいたが、避けきれなかった。
みんなも、気をつけてくれ」
一度言葉を切り、ミカに目を向ける。
「ニコラオスさんにも、伝えておいてくれるか」
ミカは頷いた。




