第一話 違和感
登場人物
狩人のシン、薬師のミカ、華奢だが力強いカレン。
解放奴隷の拳闘士ユウ。
盗賊団で育ったフミ。
次の朝。
商隊は手早く出発の準備を済ませて、宿を出た。
広場では祭りの旗が朝の風に揺れ、人々が昨晩の宴の後始末をしている。
「眠いな」
欠伸するフミに、ミカが声をかけた。
「新しい服、似合っているね」
(新しい服を買ったのも初めてだな)
フミは服の袖口をつまんだ。
まだ布の感触に慣れない。
そのとき、司祭に挨拶を終えて、商隊の主人ニコラオスが教会から出てきた。
「昨晩、教会の遺物が無くなった。それに、護衛が斃されていたらしい」
低い声で、隊長ナルセスに伝えた。
「また遺物が……」
カレンはシンを見る。
「ああ。何かが、狙っている」
シンは短く答えた。
◇
荷馬車は町を出た。
ガタ、ゴトと車輪の音を立てて、ゆっくり進んでゆく。
麦畑が少なくなり、家畜の鳴き声が遠くに聞こえるようになってきた。
「今日は野営をして、明日は宿のある村に泊まろう」
ニコラオスはにこやかに言った。
日が暮れる前に、商隊は野営地を決めた。
街道から少し外れた草地。
その片側には小川、反対側には森林が広がっていた。
シンとフミは、周囲の探索に出た。
森の中は湿った土の臭いがする。
シンは跪いた。
兎の糞が近くに落ちていた。
顔を上げると、近くにある茂みの若草が食べられている。
「近くにいるぞ」
シンの小声にフミが頷く。
小さな足跡が茂みへと続いていた。
「あの茂みに小石を投げろ」
フミが小石を投げると――
ガサッ。
茶色い影が飛び出した瞬間、シンの弓の弦が鳴った。
◇
パチパチと音を立てる焚火の上で、大鍋がぐつぐつと煮込まれている。
塩漬け肉、大麦、玉ねぎ。
ニンニクやネギに似た野草、ハーブ。
それと、兎の骨付き肉。
湯気の立つスープから、兎の出汁と、ネギやニンニクの香りが広がった。
「兎の味も出ているのかな、美味いのう」
ニコラオスがスープを口に運んだ。
「フミが石でうまく兎を追い出してくれたおかげです」
シンが椀のスープを飲み干した。
「おお、フミ君、さすがじゃのう」
ニコラオスが褒める。
「べつに、石を投げただけだし……」
フミは照れたように、骨付きの兎肉を頬張った。
食後。
野営地から少し離れた場所で、稽古が始まった。
先端に布を何重にも巻きつけた棒をシンが構え、フミに突きを放っていく。
「棒だけを見るな。相手全体を見ろ」
力の加減はするものの、鋭い突きは五発に四発はフミに当たる。
「まだまだぁ! もっと来いよ!」
少し離れて見ていたユウは、どこか懐かしさを感じていた。
(俺も、師匠には棒でどつかれていたな。
布はあまり巻かれていなかったが……)
◇
翌日――
日が真上に昇る前に、商隊は街道沿いの宿場村に着いた。
村の中心には教会と宿がある。
周囲には牧草地や果樹園が広がっていた。
村に入ってから、シンは違和感を覚えた。
鳥の鳴き声がなくなり、村を静寂が覆っている。
胸元のペンダントが、心なしか熱を帯びていた。
そっと触れると、指先にかすかな震えが伝わった。
(この村にも教会がある)
その時、シンの背後に近づく人影があった。




