↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/19

5章 第3話 武術の町3

挿絵(By みてみん)



狩人のシン、薬師のミカ、華奢だが力強いカレン。

三人は王都に向かう。

村を襲った災いの正体を明らかにするために。


解放奴隷の拳闘士ユウ。

盗賊団で育ったフミ。


それぞれの運命が交わり、物語は新たに動き始めた。



挿絵(By みてみん)



◇ ◇ ◇



商隊の主人ニコラオスとシンたちは、試合場に着いた。


「おーいシン!」



丈の長い服を纏ったフミが手を振っている。

どうやら、先に着いていたらしい。


踏み固められた土を、縄が四角く区切ってある。

試合が近づくにつれ、人々の熱気と緊張感が高まり、空気が変わってきた。





試合場に四人の出場者が並んだ。


僧侶が一歩前へ出る。


「短剣使いのルイス。

拳闘士のユウ。


そして町の護衛隊からは——

棒術のユリウス。

長剣使いのロイ !


……かつてこの街を守りし、聖アウレリウスにこの試合を捧げる!」


厳かな宣誓の後、いよいよ奉納試合が始まる。





「第一試合——ルイスとユリウス!」


残った二人が、 中央に進んだ。


「……やだなあ、強そうだ」


ルイスは16歳ほどだろうか。あどけなさの残る顔に、困ったような笑みを浮かべた。


右手には短剣、左手には小盾を持っている。


「悪いが、負けるわけにはいかなくてな」


向かい合うユリウスは落ち着いていた。




「はじめ!」


合図が響いた。


木剣と棒といえど、まともに当たれば大怪我は避けられない。

観客にも緊張が走る。


機先を制したのは、ユリウスだった。


三発——連続した鋭い突きがルイスを襲う。


ルイスは小盾でいなし、上体の動きと足さばきで避け、三撃目は後ろに跳んで躱した。


再び間合いが離れる。



「おいおい、速えな」


「うん……。速いな」


頬を上気させながら話すフミに、ユウは短く答えた。



再び距離が詰まる。


ルイスは小盾で棒の先を下に抑えつつ、一気に踏み込んだ。


——ルイスの攻撃が届く。

観客がそう思った瞬間だった。


ユリウスは前足を後ろに退いた。

構えが左右入れ替わる。

同時に、抑えられた棒の逆側が、低く弧を描いた。


「っ!」


足を払われ、ルイスの体は地面に落ちた——

次の瞬間、その顔の前で棒が止まった。


「そこまで!」


僧侶が腕を上げる。


「勝者、ユリウス!」


歓声が沸き起こった。



「いや……。すごいっすね、やられました」

土を払いながら、ルイスが笑う。


「おまえこそ、なかなかの速さだった」


ユリウスが手を差し伸べた。





「第二試合――ロイ、ユウ!」


二人が試合場へ進み出る。


「ユウといったか……。恨みはないが、ケガは覚悟してくれ」


剣士ロイの冷静な口調の中に、覚悟が感じられた。


「お互い様だ」


ユウも静かに答えた。



試合場の外で、シンがフミに伝えた。


「ユウをよく見ておけ。きっと、お前の参考になる」


「ふーん」


そう言いながらも、フミの目は試合場から離れていなかった。



「はじめ!」


二人は構え合った。


一歩踏み込むと剣が当たる距離——まだ遠い。


剣の切先は、ユウの喉元へ向けられていた。


お互いに、足の指先で、少しずつ間合いを詰めていた。



いつの間にか——剣を振れば届く間合いへ入っていた。



それでも 、ユウは退かない。


「シィィッ!!」


裂帛の気合いを発して、ロイは踏み込み、凄まじい突きを放った。


剣が頭をすり抜けたように見えたが——

ユウは僅かな動きで突きを横にかわしていた。


そのまま剣は横なぎに変化した。


ユウは上体を沈めて僅かに躱す。


ロイはすぐさま剣を肩口へ戻し、上からの切り落とした。


まともに受ければ 、そのまま押し切られかねない。


しかし、ロイが動き出した直後に、ユウも踏み込んでいた。


次の瞬間——

まだ振り切られていない剣は小手で軌道を逸らされ、

ユウの逆の拳はロイの眼前で止まっていた。


試合場が静まり返った。


「しょ、勝者、ユウ!」


遅れて、大きなどよめきが起こった。



ロイは大きく息を吐いた。


「ふう……。あんた、強いな」


「おまえこそ。紙一重の勝負だった」


手を握り称え合う二人に、大きな拍手が送られた。



奉納試合が終わると、張り詰めていた空気は一変した。


試合場の周りへ長い木卓が運び込まれ、 地元の料理が並べられた。


パチパチと音を立てる炭火の上で、豚肉や羊肉が焼かれた。


脂が炭へ落ちるたびに炎が上がり、香ばしい匂いが広がる。

ローズマリーやオレガノが擦り込まれた肉は、噛むほどに肉汁が口に広がる。

  


普段は水で薄めて飲まれる葡萄酒も、祭りが進むにつれて次第に濃くなっていた。


「いや、あん時のロイの突きが入っていたらよぉ!」


「いやいや、 ユウの一気に距離をつぶした踏み込みを見たか?」


すでに飲んでいた者も多く、かなりできあがっている。



(外で大勢で食べる飯は、どこか違った味に感じるもんだな……)   


肉を頬張るフミに、カレンが皿を差し出した。


「フミ、この野菜もおいしいよ 」


キャベツとカブの焼き物には、魚醤とオリーブオイルがかけられている。

野菜の甘さに塩味とうま味が加わり、後からハーブの香りが広がった。



今度はアンナがやってきた。


蜂蜜をかけた果物と、焼き菓子の皿を手にしている。


「ほら、フミ君、これも食べて! 

今日は女子会なんだから……ね」


隣にいるミカとにっこり笑顔を交わした。


「誰が女子じゃ!」

丈の長い服を着たまま、フミが声を上げた。



「うん、かわいい」


護衛兵のソフィアも、微笑みながらその様子を見守っていた。





短刀使いのルイスは、シンやニコラオスと同じ卓についていた。


「王都で闘士を集めているって聞きまして。

王都に向かう道中だったんですよ」



ルイスが屈託なく笑った。


「なかなかの腕前じゃったぞ。あの動きは速かった。

なあ、シン君」



上機嫌のニコラオスが杯を傾ける。


「ええ、かなりのものです」



シンも短く頷いた。


「はは、僕の村には小さな道場がありまして。小さいころから父にしごかれました。

今日は負けちゃいましたが」



ルイスは笑う。



その言葉に、シンは少しだけ自分の幼い頃を思い出した。

父に弓を教わった日。

何度失敗しても、繰り返し型を教えてくれた父の姿。




シンは父から譲り受けたペンダントを胸元から取り出し眺めた。


石の内部には、細かな筋が規則正しく幾重にも走っている。

枝分かれした線は円や菱形を描く。


あまり見ないその模様を、祭りの灯りが浮かび上がらせていた。






祭りの宴は日が落ちても続いていた。

喧騒から少し外れた木陰で、ユウは杯を置いていた。


「――少し、話、いいか」

背後から声がした。


振り返ると、フミが立っていた。

焚火の遠い灯りが、彼の顔を橙色に照らしている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。