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5章 第1話 武術の町1

狩人のシン、薬師のミカ、華奢だが力強いカレン。


三人は王都に向かう。


村を襲った災いの正体を明らかにするために。


解放奴隷の拳闘士ユウ。


盗賊団で育ったフミ。


それぞれの運命が交わり、物語は新たに動き始めた。



挿絵(By みてみん)


◇◇◇




木々の間から、遠くに教会の屋根と町の壁が見えてきた。


複数の街道が交わる街、プロポリスだ。



森が浅くなるにつれ、道の両側には切り株が増えていく。


早春の麦畑は淡い緑が彩り、果樹には花が咲き始めていた。


遠くからは羊の鳴き声が聴こえる。



フミは目を細めた。


「壁まであるのか。ずいぶん大きな町だな」



「複数の街道が交わる場所だからの」


ニコラオスが荷馬車から顔を出した。


「明日はちょうど祭りがあるそうじゃよ」


アンナが弾んだ声で付け加える。


「お祭り?」


「食べ物の店もたくさん出るぞ。ほっほっほっ」



「楽しみだね、フミ君」


カレンが微笑んだ。





正午を過ぎたころ、商隊は町の門をくぐった。


宿で馬を休ませ、荷馬車の車輪と車軸を調べる。


「よし、終わったら風呂に行くぞ」


ナルセスの声に、隊員の歓喜の声が上がった。



「ようやく旅の埃が落とせるな」


ユウに声をかけられ、シンの頬はわずかに緩んだ。





祭りの前日ということもあり、浴場は混み合っていた。



石造りの脱衣室には衣服や履物が並ぶ。



「財布はここに置いていくのかよ」


不安そうなフミに、ユウが短く言った。


「交代で見張り番を立てているぞ。問題ない」



奥の扉から白い湯気が漏れている。その先は身体を熱でほぐす、温室になっていた。


シン、フミ、ユウの三人は、一番奥にある熱湯室に入った。


床下から上がる蒸気と、小さな浴槽が目に入る。



先に使っていたナルセスが大きな手を振った。


「おう、こっちだ! 三人くらいなら入れるぞ!」


「どう見ても二人分くらいしか空いていねえぞ」


「細かいところは気にするな!」



豪快な笑い声に、フミは半ば呆れながらも浴槽に足を入れた。


「あちい」


湯に沈んだ肩がほどけていく。


(……ちゃんとした風呂に入るのは初めてだな……。


俺がこんな場所にいるなんてな )


「……こういうのも、悪くねえな」


フミは思わず言葉を漏らした。



シンの短い返事が、湯気の奥で静かに響いた。


「ああ、気持ちがいいな」


その声が、なぜか胸の奥に残った。


ユウも少し頬を緩めて頷いた。





黄昏が訪れる頃、宿屋の中庭に長卓が置かれた。


川魚の炭火焼き、ひよこ豆と春野菜の煮込み、オリーブと蕪の酢漬け、干しイチジク。


大きな陶器に入った葡萄酒が並ぶ。



「皆の頑張りに乾杯じゃ!」


ニコラオスの発声から、晩餐が始まった。



「パンが柔らけえな」


フミが頬張ると、カレンが微笑む。


「今朝焼いたのかな、街に戻った感じがするね」



「柔らかい……」


魚をひと口食べたミカが、少し目を丸くした。



お腹に詰められたハーブと、炭の香り。


表面に塗られたオリーブオイルが、淡白な魚の身に、まろやかさを加えていた。



「朝まで川を泳いでいた魚じゃからのう。少し酢を入れると、香りが合うぞ」


ニコラオスはそう言って、葡萄酒の酢を数滴落とした。



ガツガツ......!


フミとユウは二匹目を頬張っている。



「魚の骨に気を付けてね」


ミカは心配そうに声をかける。



「俺は大丈夫だ。フミは平気か?」


ユウに聞かれて、フミは口の中がいっぱいでただ手を振った。



空になりかけた魚の大皿を見て、ニコラオスが魚と葡萄酒を追加で注文した。


「皆、ここまでよく働いてくれた。無事に町へ着けたのは、皆のおかげじゃ」


中庭には、杯の触れ合う音と笑い声が続いていた。




「ところでユウ君。明日の祭りでは武術の奉納試合があるのだが、出場者に欠員が出てしまったらしい」



「奉納試合ですか?」


ニコラオスに声をかけられて、ユウの手が止まった。



「昔から、この町では盗賊に対抗するために武術が盛んでな。


木剣使い、棒術使いが出場するらしい。ユウ君は出場してみたいかね」



「……ええ、身体がなまりそうですので」


ユウは少し口角を上げて答えた。



(……すげえ自信だな)


そう思った瞬間、フミの胸の奥がざわついた。


その感情が羨望なのか悔しさなのか、自身にも分からなかった。




「おお、ユウが出るのか! 祭りが一段と賑やかになるな!」


隊長ナルセスが豪快に叫ぶ。



「うん、では、決まりじゃの。楽しみじゃ」


ニコラオスは目を細めて微笑んだ。




挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
最新話まで読ませていただきました めっちゃ面白い! 武術の奉納試合もどんな展開や出会いが待ち受けるのか……すごく楽しみ! フミの胸の奥に宿った感情の正体も…… 更新も楽しみに応援してます!
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