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4章 第3話 少年の決意


狩人のシン、薬師のミカ、華奢だが力強いカレン。

三人は王都に向かう。

村を襲った災いの正体を明らかにするために。


解放奴隷の拳闘士ユウ。

盗賊団で育ったフミ。


それぞれの運命が交わり、物語は新たに動き始める。



挿絵(By みてみん)


◇◇◇



商隊は森を抜け、夕暮れが迫る前に足を止めた。



街道沿に小川が流れていた。


その少し高い所にある平地に、野営地を作る。


反対側には、うっそうと茂った森林があった。



「人や馬の痕跡、それと森側から野営地を見張れそうな場所がないか、探ってくれ」


隊長ナルセスの指示で、フミとシンは森へと向かった。





朽ちた葉が重なった足元からは、土の香りが立ち上がる。


森の奥へ進んでんでいくと……。



大きく地面が掘り返されていた。


「新しいな」


跪いてシンが呟く。


「何だ?」


「猪だろう。それも大きい」



フミが何となく茂みを見渡した時……。


ガサッ!


茂みを割って、大きな猪が飛び出してきた。


シンが避けざまに放った矢が、猪の胴に食い込む。


猪はふらつきながら、今度はフミの方に駆けだした。



(……動けねえ)


走馬灯のように記憶が頭を駆け巡る。


だが――この状況に抗う術は、何ひとつなかった。


「ぎゃぁぁああ!」


森にフミの悲鳴が響いた。



その時――


シンがフミの前に飛び込み、狩猟用の杖を猪に突き立てた。


なおも猪は前進しようとするが、杖の横突起で阻まれる。


地面を揺らしながら、巨体が崩れ落ちた。





五人がかりで、猪を野営地まで運んだ。


8モディオス――100キロを超える巨体だ。



「すげぇ!」


商隊から歓声が起きた。



血抜きされた猪から、夕食用の肉と内臓が手際よく捌かれていく。


肉は小さめに切って、赤ワインと玉ねぎ、水に戻した豆と一緒に鍋に落とされた。


コトコトと煮える音が、野営地に静かに広がっていく。


保存用の肉は薄く切り、塩をすりこんでから燻す。


焚火の煙が、夜の空気に溶けていった。




ミカは水辺で、細長い葉を見つけた。


葉を揉むと、葱とニンニクの間のような香りが立った。


「これ、使えそうね」


ワイルドガーリックを洗って刻み、猪鍋に入れる。





焚火のぱちぱちという音が響く。


大鍋から立ち昇る湯気が、冷え始めた夜の川辺を白く染めた。



「そろそろだな、器を出せ!」


大鍋の蓋を開けると、歓声が上がった。


野性味のある肉の匂いと、脂の乗った煮汁のうま味。


玉ねぎの甘みとワインの酸味が絡み、ワイルドガーリックが獣臭さをうまく消していた。


旅で疲れた体に、熱いスープが深く染みていく。




「ほっほっほっ。シン君の狩りの腕は素晴らしいのう」


ニコラオスが頬を緩める。


「いえ……たまたまです」



「ハッハッハッ! フミも命拾いしたんじゃないか?」


隊長ナルセスが豪快に笑う。


「いや……俺は猪を避けて、隙ができたところに一発食らわせようとしてだな」


「ぎゃあああって、フミの声が聞こえてきたけどね」


ミカがからかうように微笑む。


どっと笑い声が起きた。



「うるせんだよ、ガキィイイ……! くっそう」


猪の前で何もできなかった自分が悔しかった。


(守られっぱなしじゃ、いられねえ)


「……俺も鍛えてやる! シン、稽古つけてくれよな!」


「ああ……食い終わったらな」


シンは、ほんの少しだけ頬を緩めて答えた。





食後――


二人は少し離れた場所に移動した。


夜の風が涼しくなっている。



森の入口に近い、わずかに光の残る場所で、


訓練用の短刀を握って対峙する。



フミが切りかかる。


盗賊団仕込みの短刀術だが、なかなか形になっていた。



「いいぞ。重心の移動と、下半身と上半身の動きが連動している」


「どうよ!」


「だが、攻撃に移る時の動作が大きい」


シンは流れるような足さばきで、短刀をかわしていく。



「くっそう! おらぁああ!」


ムキになってフミが切りかかろうとした瞬間――


いつの間にか踏み込んでいたシンの短刀が、フミの首筋にあった。



仕切り直す。


フミが袈裟切りから刺突を繰り出した。


「投石と一緒だ。無駄に力むな」



――次の瞬間、紙一重で短刀を避けていたシンが、一転してフミに袈裟切りを落とした。


重い一撃に、受け止めたフミの短刀が弾き飛ばされた。


「フミ、力で勝る相手の攻撃は、まともに受け止めるな。避けるか、逸らすんだ」


「くそっ! もう一度!」


まるで、かつての自分と重なるようで、シンはどこか懐かしさを感じていた。


弾き返されながらも、何度も父に打ちかかっていた。





半時後――


「くっそ! シン、明日も稽古してくれよな!」


肩を上下させ、息も絶え絶えにフミが叫んだ。


「望むところだ」


シンの表情は、どこか柔らかく見えた。




挿絵(By みてみん)


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