4章 第2話 誰かのために
狩人のシン、薬師のミカ、華奢だが力強いカレン。
三人は王都に向かう。
村を襲った災いの正体を明らかにするために。
解放奴隷の拳闘士ユウ。
盗賊団で育ったフミ。
それぞれの運命が交わり、物語は新たに動き始める。
◇◇◇
暗い森に一人、置いて行かれる夢を見ていた。
「待ってよ……僕は、いらないの?」
声にならない言葉を残したまま、フミは目を開けた。
夜の空気が冷たい。
焚火の灯りが、うっすらと辺りを照らしていた。
木立の間に、夜の見張りに立つカレンの姿が見えた。
「……なぁ、ねーちゃん」
後ろから声をかけると、
カレンがビクッとして、それから振り返った。
「ああ…。フミ君だったの。 ……カレンよ。どうしたの、眠れないの?」
木立の陰に座っていたフミは、少し目を伏せた。
「ちょっとな。
……なんでシンは、俺が賊に襲われていたのを助けたんだろう」
カレンは静かに、彼の隣に腰を下ろした。
「シンは、素っ気ないけど……優しい人だから」
「ねーちゃ……カレンは怖くなかったのか? 俺なんか放っておけばよかっただろ」
「うん、怖かったよ。 でも、あそこで助けないと後悔していたと思う」
フミは膝を抱え込むようにして、地面を見つめた。
「俺は、騙すか騙されるかの世界で育ったから。
誰かを理由もなく助ける、っていうのが……よく分からねえ」
「でも、フミ君も逃げないで、盗賊に石を投げてくれていたでしょ。
あれは、私たちを助けるためじゃないかな」
「……人助け、か……小さい頃から独りだったからな」
少し間があって、カレンが言った。
「私もね、親が居なくて、孤児院暮らしだったの」
「えっ...カレンが?」
「うん。人より力が強かったから怖がられて、いつも一人だったんだ」
フミは初めてちゃんと、カレンの横顔を見た。
「でもね、孤児院の奥さんがいつも言ってくれたの。あなたの力は人を守るためにあるのよって。
その言葉が、私の心の支えになったのよ」
カレンは小さく微笑んだ。
「フミ君の力も、同じだと思う。私たちも、助けられているよ」
自分の力で誰かを守るなんて、考えたこともなかった。
利用できるものはなんでも利用して、それで生きてこれた。
それでも、カレンの言葉は、否定しきれないまま胸の奥に残った。
「……誰かのために、か」
夜風が、頰を優しく撫でていく。
どこかで葉が擦れる音がして、また静かになる。
(俺はここにいてもいいのかな……)
そう思った自分に、少しだけ戸惑いながら。
それでも、少しだけ、胸がすっきりした気がした。
見上げた空には、星が瞬いていた。




