4章 第2話 思索
狩人のシン、薬師のミカ、華奢だが力強いカレン。
三人は王都に向かう。
村を襲った災いの正体を明らかにするために。
解放奴隷の拳闘士ユウ。
盗賊団で育ったフミ。
それぞれの運命が交わり、物語は新たに動き始める。
◇◇◇
まだ空が白みがかる前ーー
シンは一人、森にいた。
商隊からはそう遠くない場所で、
岩に腰掛けて、思索に耽っていた。
空が黒く染まったあの日。
異形の魔物が、村を壊した。
(他の村も、同じだった。祭壇が荒らされていたという。
俺の家にも、小さな祭壇があった。……それも荒らされていたのだろうか)
亡くなった父は、シンに狩りを教え、体術を教えた。
(…… あの強かった父さんが、亡くなるなんて)
ペンダントを、強く握りしめていた。
シンが一人で狩りに出るようになってから、父から譲り受けたものだ。
「もう立派な猟師だ」
顔をくしゃっとさせて笑った、あの時の父は、今も心の奥に残っている。
(まず、情報を集めるべきだろう)
冷静に考えようと努めるが、まだ喪失感は強いのかもしれない。
◇
シンは岩から静かに立ち上がった。
草が繁る地面に立ち、父から教わった型を始めた。
膝の力を軽く曲げて、無駄な力が抜けていること、自分の重心が整っていることを確かめる。
まるで自分の身体に問いかけているように。
腰を落とし、前足を進める。
弓を構え、弦を限界まで退く姿を維持する。
(わずかに重心がずれている)
「心を平らにするんだ」
亡き父の言葉が聞こえたようだった。
彼が幼い頃、手取りを教えてくれた父の姿が目に浮かぶ。
深く息を吐き出す。呼吸が深くなり、重心のずれが無くなった。
弓を置き、長い杖を取る。
ビシッ!
ヒュッ!
杖が風切り音を立てて、森の冷たい空気を切り裂く。
(不意打ちか…… ? だれが父を )
荒くなった息を吸い込む。
腰のナイフを抜きながら、杖で攻撃をいなし、獲物を裂く動作を繰り出す。
一連の型が終わった低い構えから、白い湯気が出ていた。
◇
商隊の方へ戻ろうとしたその時…… ユウが立っていた。
「シン…… だったな。あんたの型は、俺が師匠に習った型に似ている。
誰に習った?」
「父にな…… 昔、東の大陸から来た旅人に、祖先が教えてもらったらしい」
「どうりで。師匠もそうだった」
ユウの声が、少しだけ柔らかくなる。
「ユウ…… コロセウムで短刀使いとの試合を観た。最後の合わせ技が見事だった」
「最後のあたりはよく覚えていなくてね」
「そうか。…… 王都では闘士を募集しているというが、そのために行くのか?」
「まあ.......成り行きでな。…… 王都に、生き別れた母がまだいるかもしれない。それもある」
「そうか…… お母さん、見つかるといいな」
「ありがとう。シン、お前たちはなんで王都に?」
「俺たちの村と、近隣の村が魔物に破壊された。その情報を集めに行く」
「そうか…… 。なにか、おれに協力できることがあれば言ってくれ。」
差し伸べられた手は、大きく、温かかった。
シンはそれを、しっかりと握り返した。
次話・・野営地の周囲を調べるため、森へ入ったシンとフミ。
そこには残されていた足跡の正体とは——




