第四話 思索
登場人物:
狩人のシン、薬師のミカ、華奢だが力強いカレン。
解放奴隷の拳闘士ユウ。
盗賊団で育ったフミ。
まだ空が白み始める前。
森は夜の名残を抱えたまま、静かに沈んでいた。
商隊から少し離れた場所で、シンは岩に腰を下ろしていた。
冷たい空気が肺に入り、胸の奥のざわつきを静かに撫でていく。
あの日――空が黒く染まり、異形の魔物が村を壊した。
他の村でも、何かを探すように祭壇が荒らされていたという。
教会で保管した遺物が奪われている。
――村には遺物があった?
――遺物を怪異が狙うのは何の目的で?
胸の奥で、点と点がゆっくりと線になり始めていた。
胸元のペンダントを、強く握りしめていた。
父が最後に渡してくれたもの。
「もう立派な猟師だ」
顔をくしゃっとさせて笑った父の顏が、今も鮮明に浮かぶ。
――父さん……あの強かった父さんが、なぜ……。
◇
迷いを断ち切るように、シンは岩から立ち上がった。
草が繁る地面に立ち、父から教わった型を始める。
膝を軽く曲げ、重心を整える。
無駄な力を抜き、意識をへその下――下腹の奥深くへと沈めていく。
そこにある熱の塊を、呼吸ととともに練り上げるように。
腰を落とし、前足を進める。
弓を構え、弦を限界まで引き絞った姿勢を保つ。
(わずかに重心がずれている)
「心を平らにするんだ」
亡き父の言葉が聞こえたようだった。
深く息を吐き出す。
呼気とともに、下腹に溜めた気がじわりと四肢へ広がっていく。
呼吸が深くなり、重心のずれが無くなった。
弓を置き、長い杖を取る。
ビシッ!
ヒュッ!
杖が風切り音を立てて、森の冷たい空気を切り裂く。
(不意打ちか…… ? だれが父を )
荒くなった息を吸い込む。
乱れそうになる呼吸をこらえ、再び下腹の底へ意識を集中させて気を凝縮させる。
腰のナイフを抜きながら、杖で攻撃をいなし、獲物を裂く動作を繰り出す。
一連の型が終わった低い構えから、白い湯気が出ていた。
(まずは、情報を集める)
心から迷いはなくなっていた。
◇
商隊の方へ戻ろうとしたその時…… ユウが立っていた。
「シン…… だったな。あんたの型は、俺が師匠に習った型に似ている。
誰に習った?」
「父にな…… 昔、東の大陸から来た旅人に、祖先が教えてもらったらしい」
「どうりで。師匠もそうだった」
ユウの声が、少しだけ柔らかくなる。
「ユウ…… コロセウムで短刀使いとの試合を観た。最後の合わせ技が見事だった」
「最後のあたりはよく覚えていなくてな」
「そうか。…… 王都では闘士を募集しているというが、そのために行くのか?」
「まあ.......成り行きでな。…… 王都に、生き別れた母がまだいるかもしれない。
それもある」
「そうか…… お母さん、見つかるといいな」
ユウは一瞬だけ目を伏せ、そして言った。
「ありがとう。シン、お前たちはなんで王都に?」
「俺たちの村と、近隣の村が魔物に破壊された。その情報を集めに行く」
ユウは静かに頷いた。
「そうか…… 。なにか、おれに協力できることがあれば言ってくれ。」
「ありがとう」
差し伸べられた手は、大きく、温かかった。
シンはそれを、しっかりと握り返した。
次話・・野営地の周囲を調べるため、森へ入ったシンとフミ。
そこには残されていた足跡の正体とは——




