3章 第2話 少年の決断
狩人のシン、薬師のミカ、華奢だが力強いカレン。
三人は王都に向かう。
村を襲った災いの正体を明らかにするために。
解放奴隷の拳闘士ユウ。
盗賊団で育ったフミ。
それぞれの運命が交わり、物語は新たに動き始める。
東の空が白み始めた頃、商隊の朝は早くも始まっていた。
昨夜の煮込みの残りで手短に朝食を済ませ、
朝霧が立ち込める王都への街道を、商隊は進み始めた。
都市を離れるにつれて畑は徐々に減っていき、
街道沿いの左手には森、右手には高い丘が続いている。
フミは商隊と距離をおいて、森の中を歩いていた。
(くそっ......俺は何をしている?
……いや、違う。俺は同じ方向に向かっているだけだ。
……いや、荷馬車から何かくすねてやるためか?)
ひとりで考えていると.......後ろで微かに、馬の蹄の音がした。
馬に乗った男だった。
ローブを纏い、深く被ったフードの影に顔が隠れている。
その後方には騎馬の群れが見えた。
男は後ろを振り返り、腕を挙げて何か合図を送っているようだった。
(.......何かある。シンたちに知らせるか?
いや、俺まで危ぶなくなる。
.......だけど)
フミは音も無く、商隊に向かって走り始めた。
後ろを振り返ると、三騎の影が走り出していた。
一瞬、逡巡する。......。
それから——指笛を吹いた。
◇
ピィッーー!
商隊の後衛は、音に反応して後ろを見た。
森から音がしたかと思うと、街道の遠方から騎馬が駆けてくるのが見えた。
「後方警戒!」
叫び声を上げ、後衛の二人が盾と槍を構える。
「荷馬車の距離を詰めろ! ニコラオスさん達は荷馬車に避難してください!」
前衛にいる隊長が叫ぶ。
後方から来た騎射兵は、短弓を構えて弓を放った。
矢が三本、後衛の盾の手前の地面に刺さる。
シンとソフィアが即座に応射し、牽制した。
「騎射兵が三騎......隊列を崩すな!」
隊長が叫んだ、そのとき——
丘の裏側を抜けて、前から新たな騎馬が現れた!
「前方に騎馬!」
前を進んでいた騎兵マルコスが叫ぶ。
「前衛は賊の進路を塞げ! 弓を掃射しろ!」
前衛の指示が飛ぶ。
シンとソフィアが矢を放った。
一本が前へ出た賊の腕に突き立った。
正面の盾列を見た賊は、左右へ割れて、その脇を抜けようとする。
(.......盾の列を迂回する)
再び矢をつがえたシンの意識が、先頭の賊の意識と同調する。
馬首が左へ向いた瞬間——
ビュン!
シンの放った矢が、盾の左脇を抜けてきた賊の肩に食い込んだ。
続けてソフィアの矢が、盾列の右側から回り込もうとした馬の鼻先をかすめる。
馬がいななき、騎手が慌てて手綱を引いた。
商隊の後方では——
ビュン!
森から飛んできた何かが、騎馬の賊を掠めた。
賊の意識が森に向い、その瞬間——
ガンッ!
弩兵バシリオスが放った矢が一人の賊の腕を貫いた。
もう一人の弩兵、ステファノスの矢も賊の残りの賊を掠めた。
森からの飛翔物と、弩兵二人。
後方の賊は商隊に近寄れない。
前方では、混乱した賊に、マルコスが騎馬で追撃を仕掛けた。
「ひっ、退け!」
前方の賊の一人——棟梁らしい男が叫んだ。
(後方のかく乱に、混乱した相手への前方からの突撃。
どちらの奇襲もつぶされた——)
これ以上、闘いを続けても被害が増すばかりだった。
◇
賊の姿が見えなくなってから——
「構え、止め!」
隊長の号令で臨戦態勢が解かれた。
被害の確認が行われるなか、
シンとミカ、カレンは、まだ木の上にいるフミに歩み寄った。
「フミ、助かった」
シンが静かに語りかけた。
「いや......おれは、たまたま、この道を歩いていただけだ」
「あんた、いつもそればっかりね。でも......ありがとう」
ミカがにっこりして言った。
「.......ガキはだまってろよ」
フミは少し照れくさそうに目を逸らした。
「あんたのほうがガキじゃない!」
シンとカレンが目を合わせた、そのとき——
「知り合いかね」
商隊の主人、ニコラオスがそこに立っていた。
「ええ......」
シンは答える。
「少年。君のおかげで、隊の皆も無傷で済んだ。
ありがとう。
どうかね、何か食べながら話さんかね」
ニコラウスはにこやかに、木の上のフミに語りかけた。




