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第二話 決断

東の空が白み始めた頃、商隊の朝は早くも始まっていた。


昨夜の煮込みの残りで手短に朝食を済ませると、商隊は朝霧の立ち込める街道を進み始める。


都市を離れるにつれて畑は徐々に減り、街道沿いの左手には森、右手には高い丘が続いていた。

湿った土の匂いが、朝の冷たい空気に混じる。


フミは商隊と距離を置き、森の中を歩いていた。


(くそっ……俺は何をしている?)

(気になっている? ……いや、荷馬車から何かくすねてやるためか?)


呟いていると――



後ろで微かに、馬の蹄の音がした。

ローブを纏い、深くフードを被った男が馬に乗っていた。


その後方には騎馬の群れが見えた。

男は後ろを振り返り、腕を挙げて何か合図を送っている。


(.......何かある。シンたちに知らせるか? いや、俺まで危うくなる。)


胸の奥が、嫌な予感でざらついた。


(.......だけど)


フミは音も無く、商隊に向かって走り始めた。


後ろを振り返ると、三騎が走り始めていた。


一瞬、迷い——

そして、指笛を吹いた。


◇


ピィッ――!


商隊の後衛は、音に反応して後ろを見た。

森から音がしたかと思うと、街道の遠方から騎馬が駆けてくるのが見えた。


「後方警戒!」


叫び声を上げ、後衛の二人が盾と槍を構える。


「荷馬車の距離を詰めろ! ニコラオスさん達は荷馬車に避難してください!」


前衛にいる隊長が叫ぶ。



後方から来た騎射兵は、短弓を構えて矢を放った。

矢が三本、後衛の盾の手前の地面に刺さる。 


シンと弓兵ソフィアが即座に応射し、牽制した。


「騎射兵が三騎......隊列を崩すな!」


隊長が叫んだ、そのとき——


丘の裏側を抜けて、前から新たな騎馬が現れた!


「前衛は賊の進路を塞げ! 矢を射かけろ!」


隊長の指示が飛ぶ。


シンとソフィアが矢を放った。

一本の矢が、前へ出た賊の腕に突き立つ。


正面の盾列を見た賊は、左右へ割れて、その脇を抜けようとする。


(.......盾の列を迂回する)


シンは先頭の賊の動作を読んだ。馬首が左へ向いた瞬間——


ビュン!


放った矢が、左脇を抜けてきた賊の肩に食い込んだ。


続けてソフィアの矢が、盾列の右側から回り込もうとした馬の鼻先をかすめる。

馬がいななき、騎手が慌てて手綱を引く。


◇


後方では——


ヒュン!


森から飛んできた何かが、騎馬の賊を掠めた。

賊の意識が森に向かった。その瞬間——


ガンッ!


弩兵バシリオスの矢が賊の腕を貫いた。他の矢も別の賊を掠める。


◇


前方では、混乱した賊に、護衛の騎馬兵が追撃を仕掛けた。


「ひっ、退け!」


前方の賊の一人――棟梁らしき男が叫んだ。


(後方のかく乱に、混乱した相手への前方からの突撃。

どちらの奇襲もつぶされた——)


これ以上、闘いを続けても被害が増すばかりだった。



◇



賊の姿が見えなくなり、隊長の号令で臨戦態勢が解かれた。


被害の確認が行われるなか、

シンとミカ、カレンは、木の上のフミに歩み寄る。


「フミ、助かった」


シンが静かに語りかけた。


「いや......おれは、たまたま、この道を歩いていただけだ」


「あんた、いつもそればっかりね。でも......ありがとう」

ミカが笑う。


「.......ガキはだまってろよ」


フミは少し照れくさそうに目を逸らした。


「あんたのほうがガキじゃない!」


カレンが笑い、シンが肩をすくめた。



「知り合いかね」


商隊の主人、ニコラオスだった。


「ええ......」


シンは答える。


「少年。君のおかげで、隊の皆も無傷で済んだ。

ありがとう。

どうかね、何か食べながら話さんかね」


ニコラオスはにこやかに、木の上のフミに語りかけた。





挿絵(By みてみん)



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