3章 第1話 王都に向かう
狩人のシン、薬師のミカ、華奢だが力強いカレン。
三人は王都に向かう。
村を襲った災いの正体を明らかにするために。
解放奴隷の拳闘士ユウ。
盗賊団で育ったフミ。
それぞれの運命が交わり、物語は新たに動き始める。
シンたちと別れた後----
フミは城塞都市に入り、古物商《灰色狐》で盗品を売り払っていた。
「昨日、うちに旅人たちが来てな。
怪鳥に襲われた商隊の娘を、彼らが助けたようだ。
……明日、その商隊と王都に向けて出発するらしい」
主人のコンラートは言った。
「ふーん」
買い取り賃の銀貨を指で宙に弾き、フミは店を出た。
翌朝---。
商隊が宿を出発するのを、フミは建物の陰から見ていた。
乾いた蹄の音と、木製の車輪が古びた石畳に響く。
(……なんで俺はこんな真似をしているんだ?)
シンたちが王都に行こうと、俺には関係ない。
それでも、荷馬車が門を抜け、道を曲がって消えると、気になって後を追っていた。
(……行きたい方向と同じ道なだけだ)
そう自分に言い聞かせながら、 距離をおいて商隊の後ろを歩いていった。
◇
城塞都市を出て数時間。
商隊の荷馬車は、ガタガタとゆっくり進んでは、時々止まり馬を休ませた。
馬の蹄の音、護衛隊士の歩みに合わせて「ガシャッ」と金属音が鳴る。
シンは荷馬車の側面を歩いていた。
護衛隊士たちと、荷馬車を囲むようにして進む。
街道には麦畑が広がり、見晴らしがいい。
風に揺れる草木、遠くから羊の鳴き声が聞こえる。
カレンに目を向けた。
商隊から借りた丸盾を左手に持ち、右手で樫の棒を握っている。
「カレン、重くないの」
近くを歩くミカが盾を指す。
「軽いものよ」
カレンは優しく微笑んでいた。
-- 今朝。
拳闘士のユウを紹介された。
年は二十歳前。影のある表情をしていて、昨日コロセウムで見た印象とは少し違っていた。
客人として王都まで同行するはずだったが、本人の希望で護衛に回ったという。
体を動かしていないと落ち着かないらしい。
シンは後方を振り返った。
「どうしたの?」
カレンが聞いた。
「いや.......。後ろから誰か着けてきている気配があってな」
カレンが振り返って見ると、そこには誰もいなかった。
◇
ユウは歩きながら……考えていた。
(王都で闘士を募っている……。
他国からの圧力に対抗する兵士が必要なのか?)
王都コンスタリアの「アルケディア帝国」は、小国から領土を拡大した「サルキア帝国」の脅威にさらされてきた。
ユウは王都で生まれて、母親の手一つで育てられた。
しかし、幼少期に攫われ----奴隷市場で拳闘士養成所に買い取られたのだ。
(運よく生きてきたが……。
もしまた、母に会ったとして、何を話せばいいのだろう)
思いは反芻した。
歩くことで、いくぶん気が晴れるようだった。
◇
日が傾き始めたころ、 商隊は街道を外れた。
「今日はここで野営にしよう」
隊長ナルセスが言った。
低い丘の陰に、石壁が見える。
壁際には古い炉跡が残っていた。
少し下ったところには、細い小川が流れていた。
汲んできた水を馬に飲ませ、翌日の飲み水を煮沸して蓄えることができる。
夕飯の準備が始まった。
吊るした大鍋には、水に浸しておいた豆が煮えていた。
塩漬け豚肉、刻んだ玉ねぎ、乾燥させたタイムを入れて煮込む。
夕飯は「塩漬け豚肉と豆、玉ねぎの煮込み」「麦パン」「硬いチーズ」だった。
豆は少し崩れている。
豚肉の旨味と塩味の後に、玉ねぎの甘みが広がり、後にはタイムの香りがふっと残る。
煮込みに硬い麦パンを浸して食べるとよく合った。
商隊の主人ニコラオスの隣に娘のアンナが、その隣にはミカが座っていた。
「ミカちゃん、おいしい?」
アンナが覗き込むように聞いた。
「うん……!よく煮込まれていておいしいよ」
ミカはにこやかな笑顔を見せた。
「ミカちゃん、たくさん食べるんだぞ。旅は腹が減るからな」
ニコラオスもご満悦だ。
「ニコラウスさん、娘さんが増えたようですな!」
隊長ナルセスが声を上げると、周囲から笑い声が上がった。
「ほっほっほ、そう言われると悪い気はせんな」
ニコラオスが豪快に笑う。
シンもカレンも、自然と頬を緩めた。
◇
野営地から離れた丘の上。
フミは枯草の上で頬ずえをついて-----
ぼんやりと、商隊の焚火を眺めていた。
澄んだ夜空の月が、静かに丘を照らしていた。




