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第7話:【お茶会と、世界大戦のセッティング】

「信じられん……なんだ、この『ひらひらした破廉恥な布切れ』は……ッ! 我がギルドを、バラム帝国を愚弄する気か……っ!?」


バラム帝国の最前線を一手に統べる大手戦闘ギルド『黒鉄の獅子』のギルドマスターは、極秘裏に設けられた我がアトリエの商談の席で、出された『商品』を指差しながら、ワナワナと全身を震わせていた。


彼の前に置かれているのは、ピンクのフリルがこれでもかとアホみたいにあしらわれた、最高にファンシーな『ロリィタ風軍服ドレス』。

男気溢れる硬派な戦闘ギルドとして全サーバーに名を馳せる彼らにとっては、存在自体が精神的陵辱のようなお洋服だ。だが、その上空に浮かぶシステム画面に表示された「物理防御力8500・全魔法耐性カンスト」という、開発運営の正気を疑うバグ染みた数値が、彼の騎士としてのプライドを完全にへし折っていた。


「これを……我がギルドの誇り高き精鋭突撃部隊に着ろというのか……?」

「ええ。嫌なら別に構いませんよ? すぐ隣のエリアにいるレグナム王国側に売るだけですから。……で、どうします?」


私はお気に入りのパステルピンクのティーカップで、優雅に高級ダージリン紅茶をすすりながら微笑んだ。私の隣には、門番兼威圧担当として連れてきた二メートルの巨漢大男ゴライアス(中身乙女)が、鉄仮面の奥の瞳をギラつかせながら、殺気たっぷりに巨大な大斧を抱えて立っている。立っているだけで天井に頭が届きそうなプレッシャーだ。


「くっ……か、買う! 金貨5000枚でどうだ!? 頼む、それをあるだけ、我がギルドの最前線全メンバーの分、今すぐ譲ってくれ!!」

「毎度あり。あ、戦場での着心地と、敵を蹂躙したときの『試着データ』の報告も忘れないでくださいね」


商談は一瞬で成立した。


それからの戦況は、まさに私のプロデュース通り──いや、システムバグの悪ノリも相まって、私の予測を遥かに超えるスピードで狂い始めた。

数日後の前線平原。バラム帝国のガチ戦闘職のむさ苦しいおじさんや青年たちが、全員ピンクのひらひらしたフリルドレスを着用し、目を血走らせて狂ったように雄叫びを上げて突撃を開始したのだ。


「うおおおおお!! フリルが! フリルが俺たちの命を守ってくれるぞォォォ!」

「見ろ! 王国の超長距離魔導砲撃が全部『ミス』で弾かれる! ガハハハ、俺たちが無敵だ! ピンク万歳!!」


はたから見れば、完全にピンク色の狂人集団による集団ヒステリーである。絵面が邪悪とかそういう次元を超えて精神的ブラインダーだ。しかしその戦闘力は絶大だった。

今まで王国の火力魔法に防戦一方だった帝国軍は、無敵のゴスロリ防具のバグ補正に物を言わせ、レグナム王国の誇る防衛線を一瞬で木っ端微塵に瓦解させた。王国の領土は次々と侵略され、ゲーム内の勢力図が真っピンクに塗り替えられていく。


アトリエのソファーで優雅にストロベリーマカロンを食べていた私に、黒魔術師ファウスト(中身:女子大生)がシステム画面を見せながら興奮気味に報告してくれた。


「マスター、読み通りよ! 王国側が完全に大パニックを起こしてる。『帝国のピンクの悪魔どもを止めないとマジで国が滅ぶ』って、王国の公式掲示板とSNSが大炎上中」

「ふふ、いい傾向ね。それで、両国家間の緊張度のグラフは?」


私の問いかけに応じるように、空間に浮かび上がった『戦争屋ウォー・モンガー』の固有緊張度カウンターが、激しくビキビキとノイズを発しながら**【九二%】**を指して真っ赤に点滅していた。


「よし、じゃあ次はレグナム王国側の喉元を締めに行きましょうか。ランスロット、準備はいい?」

白銀のイケメン聖騎士ランスロット(中身:OL)が、不敵にニヤリと笑って髪をかき上げる。

「バッチリよ。王国の最高幹部ギルドに『帝国軍のフリルドレスを即死させる、ウルトラ可愛い魔導フリルリボン』を、通常の三倍の、国家予算レベルの価格で売りつける闇ルートを確保したわ」


そう、これこそが私の仕掛けた最悪のマッチポンプ。

帝国がフリルドレスで無双すれば、王国はそれを打ち破るための「さらに強力な可愛いバグ兵器(可愛い小物)」を、全財産とレベルを投げ打ってでも欲しがる。

両国は勝つためではなく、「あのスラムの仕立て屋の機嫌を損ねて、相手側だけに最新作のひらひら装備を卸されたらマジで国家が消滅する」という、底なしの恐怖の螺旋にハメ込まれたのだ。


チャリン! ジャリン! ジャラジャラジャララン……!!

私の個人口座には、両国の国家予算レベルの莫大な軍資金が、毎秒のように滝のように振り込まれ続けていた。すべては『天界シルク』を独占し、あの崖の上の白いドレスの彼女──アルテミス様に捧げるためのお金だ。


そして、その瞬間ときは来た。


『ピコーン! 両国家間の緊張度が【一〇〇%】に達しました。固有称号【戦争屋ウォー・モンガー】の最終権限が強制解放されます』

『システム警告:これより、全サーバー規模の【国家間全面総力戦(世界大戦イベント)】が強制発動プロデュースされます。開戦まで、残り二十四時間──』


「ついに来たわね」


アトリエの窓の外を見上げると、夜空には不気味に真っ赤に染まった戦乱の月が浮かび上がっていた。

両国の数十万人のプレイヤーが、それぞれの国のために──いや、我がギルドが裏でばら撒いた「最高に可愛い壊れ兵器」を握りしめて、明日の決戦へと震えながら備えている。


「マスター、いよいよ世界大戦が始まるねぇ。私、明日はどのお洋服を着て前線に行けばいいかしらぁ? ドキドキしちゃう!」

ゴライアスが、丸太のような大きな手を合わせてウキウキとした高い声で聞いてくる。


「一番フリルが派手で、一番相手の精神を破壊できるやつよ。私たちの『白百合カルテル』の力を、世界中に見せつけてあげましょう」


お茶会の席で、私は最後の一口の紅茶を優雅に飲み干した。

世界を巻き込んだ、ゲーム史上最大の戦争。そのすべての糸を裏から引いているのが、スラムの片隅で可愛いお洋服をチクチク作っているだけの、たった一人の仕立てテーラーだとは、まだ世界の誰も気づいていなかった。


(第7話・了)


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