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第5話:【白百合カルテル(実態:女子会)】

「おい、マジかよ……」

「ああ、間違いない。あのスラムの奥に鎮座するピンクの教会……あれが、最近噂のヤバい闇ギルド『白百合カルテル』の本拠地だ。あそこに入ったら最後、魂まで毟り取られるぞ……」


スラムの片隅にある我が店『メゾン・ド・アイリス』の周囲では、前線を行き交う戦闘プレイヤーたちが、怯えきった視線でこちらを遠巻きに眺めていた。

無理もないわ。あのサーバー最凶の賞金首『血塗られた処刑人』ことゴライアスが、店の前で巨大な漆黒の大斧をガシッと担ぎ、不気味な満面の笑み(中身は乙女のウキウキワクワク顔)で周囲をギロギロと見つめながら門番をしているのだ。周りのゴリラ戦闘職どもが「アイリスの凶悪な猟犬が目を光らせている、近づけば即死だ」と勝手に勘違いして震え上がるのも当然だった。


しかし、一歩店内の扉をくぐれば、外の殺伐とした地獄の空気は完全にシャットアウトされていた。


「キャーッ! アイリスちゃん、この新作の魔導ヘッドドレス、マジでデザイン神すぎない! レースの編み込み細かくて感動しちゃう!」

「でしょ? 薔薇の形に細工した黒鉄の金具、グラフィックの解像度の上限を突破するまで微調整したんだから」


パステルピンクと白百合で埋め尽くされた店内で、優雅に紅茶を飲みながら女子トークではしゃいでいるのは、前線で恐れられているはずの超エリートトップランカープレイヤーたちだった。


一人は、煌びやかな白銀のフルプレートアーマーを纏った、全サーバーの女子リアルの憧れである超美形なイケメン聖騎士『ランスロット』。

もう一人は、漆黒の流麗なローブに身を包み、冷徹な一撃で敵の軍勢を葬り去る孤高の天才美形魔術師『ファウスト』。


だが、そんな麗しい男アバターの二人の頭上には今、私が作った最高にファンシーなピンクのリボンや、フリル付きのヘッドドレスの試作品がちょこんと乗っかっている。


「いや〜、ガチで助かるわ。このゲーム、男ウケを狙ったトゲトゲした黒い鎧とかドクロの杖ばっかりで、マジでモチベ死んでたのよね。現実では私、普通に都内でOLやってるから、こういう可愛いものに囲まれてないとストレスでハゲるわよ」

白銀の聖騎士(中身:20代半ばのOL)が、実になめらかな女子特有の口調でスコーンをぽいと口に放り込む。アバターの顔が彫の深い超絶イケメンなせいで、仕草のギャップが完全に脳をバグらせにきている。


「分かる。私も大学のサークルの男連中に誘われて始めたけど、変に舐められないようにこのクール系イケメン魔術師キャラ作ったの。でも、本当は可愛いゴスロリが着たかったのよね。アイリスちゃんの作ったこの『レース付きニーソックス』、魔法耐性カンストしてる上に、絶対領域の黄金比が完璧でガチで神。運営に感謝のファンレター書きたいレベル」

天才魔術師(中身:現役の女子大生)が、限界オタクのような早口で熱弁する。


そう、ゴライアスの噂を聞きつけてこの店にやってきた彼女たちもまた、戦場で生き残るために仕方なく最強の男アバターを使っているだけの、**純度一〇〇%の「可愛いもの大好き女子ネカマ」**だったのだ。


「みんながそこまで喜んでくれて、仕立て屋冥利に尽きるわ。はい、ゴラちゃんも新作のフリルエプロン、試着してみて」

「わぁい! アイリスちゃんありがとうぉ! 私、こういうピンクチェックのフリル、ずっと憧れてたのぉ! 似合うかしらぁ?」

二メートルの巨漢大男ゴライアスが、ピンクのフリルエプロンを巨体に無理やり身に付け、嬉しそうに岩のような体を左右にフリフリと揺らす。絵面は完全に世紀末の悪夢だが、中身はただのパジャマパーティーだ。


こうして、外から見れば『世界を震撼させる最凶の男共を裏から従えた、冷徹な闇の女王アイリス』。

しかしその実態は『男キャラの皮を被った女子たちが、キャッキャウフフと新作お洋服の試着会をしている』という、あまりにも歪で平和な闇ギルド**『白百合カルテル』**が本格的に始動した。


「それにしても、みんながレア素材集めを手伝ってくれるおかげで、私の生産レベルも順調に上がってるわ。本当にありがとう」

私が微笑むと、ランスロット(中身:OL)が真面目な顔でティーカップを置いた。


「ううん、お礼を言うのはこっちよ。アイリスちゃんの作る服、見た目はこんなに可愛いのに、システム上の【需要・供給ゼロの希少性補正】のせいで、前線で着るとガチの壊れチート性能なんだもん。昨日も敵国の最大手ギルドに奇襲されたんだけどさ、このフリルタイツのおかげで、相手の最上級即死魔法を全部『ミス』で弾いちゃった。相手のギルマス、バグを疑って泡吹いて気絶してたわよ?」


ファウスト(中身:女子大生)もクスクスと不敵に笑う。

「私の持ってるこの『クマちゃん型魔導書』も、ただの可愛いぬいぐるみ扱いだから補正がエグくて。昨日、適当に基礎の炎魔法を撃ったら、地形が消し飛ぶレベルの核爆発が起きたわ。絶対に近いうちに運営に目をつけられるレベルの威力」


誰も作らない、誰も求めない「可愛いもの」を全力で作れば作るほど、サーバー内で唯一無二のチート兵器になる。

私の仕立てる服や小物は、今や前線のパワーバランスを裏から完全に、かつ理不尽に破壊しつつあったのだ。


「でもね……」

私は手帳を開き、あの日ログイン直後のチュートリアルムービーで見た、あの『白いドレスの女性』のスクリーンショットをじっと見つめた。


「私の本当の目的は、この崖の上の彼女に、私が作った世界一美しいドレスを着せることなの。そのためには、次の大型限定イベントの報酬にある、世界に数枚しか存在しない幻の素材『神話級・天界シルク』がどうしても必要なのよね」


その言葉を聞いた瞬間、ランスロットとファウストの顔から、楽しげな女子の笑みが綺麗に消えた。

ガチのトップランカーとしての、冷徹なゲーマーの表情に戻る。


「……天界シルク。あれ、次の公式ギルド戦の、総合優勝国にしか与えられないシステム固有素材だよ。今はギルドランキング一位の巨大戦闘国家が、完全にその利権を独占してる」

店の前を見張っていたゴライアスも大斧を握り直し、低い声(完全に地声の重低音)で言った。

「個人や、うちみたいな小規模ギルドが普通に正面から戦って手に入れられる代物じゃないわね……。数十億単位の軍資金と、国を滅ぼすレベルの膨大な軍勢が必要になるわ」


「数十億の金と、国を滅ぼす軍勢、か……」


私は自分のステータス画面の端で、ずっと不気味に明滅している『あの称号』をじっと見つめた。


【固有称号:戦争屋ウォー・モンガー

・現在の解放段階:第二段階。

・固有スキル:『緊張度の可視化』が解放されました。周囲の国家間の対立度をコントロール可能です。


「ねえ、みんな。チマチマと落ちぶれた敗残兵にお洋服を売る小銭稼ぎは、もう終わりにしましょう」


私は紅茶を一口すくい、最高に可憐な、そして最高に悪辣な微笑みを浮かべてみせた。


「小規模な小競り合いじゃ、私の服(チート兵器)が高く売れない。……だったら、このゲームの二大国家を丸ごと巻き込んで、誰も後に引けないような『大規模な世界大戦』を、私たちが裏でプロデュースしてあげましょう?」


「「「…………っ!」」」


中身が女子の最強の男たちは、一瞬呆然とした後、「さすが私たちのマスター、ネジが飛んでて最高に可愛い……!」と、その頬を興奮で真っ赤に染めるのだった。


(第5話・了)

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