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第3話:【初商売と『戦争屋』の称号】

「……よし、おじさんたちの形見(素材)は有効活用してあげるからね」


初心者狩りの3人組がいたはずの『跡地』を見つめながら、私は自分のインベントリ(アイテム倉庫)をウキウキで確認していた。

戦死した魔術兵のローブから引き抜いた漆黒の布地、そして初心者狩りのリーダーから剥ぎ取ったばかりのツヤツヤした『魔獣の硬皮』。これ、普通ならゴツいレザーアーマーとかの補強に使う素材らしいけれど、私にとっては最高にクールなゴシック・アクセントの材料にしか見えない。


私はスラムの廃教会の一角に、生産職のレベルアップ報酬で支給されたばかりの『携帯用・魔導ミシン』をドスンと設置した。

現実の専門学校の課題用ミシンと違って、魔力で動くこのミシンは、ペダルを踏み込む感覚が驚くほど軽やかだ。


「フリル……やっぱり、ただ硬いだけの鎧なんてセンスがなさすぎるのよ。戦場を駆ける女の子の戦闘服には、動くたびに華麗にひらひら揺れる、最高密度のフリルがなきゃ始まらないじゃん」


トントン、チクチク、カタカタカタカタ……。

教会の外では相変わらず、遠くで大砲の音が響いたり、プレイヤーたちの汚い罵詈雑言が聞こえてきたりしている。けれど、今の私の集中力は完全にプロのそれだった。


『魔獣の硬皮』をハサミで極限まで薄く、かつ繊細に裁断し、職人技で何度も折り込んでフリルの形に仕立てていく。さらに、戦死した騎士の壊れた盾から抉り取った上質な鉄を溶かし、薔薇の形に象った美しい漆黒のボタンをあしらう。


ベースにするのは、最高にファンシーでフリフリな、しかしどこか退廃的で美しい『ゴシックロリィタ風のミリタリードレス』。

あの崖の上の白いドレスの彼女──アルテミス様(※掲示板で名前を知った。世界ランク1位の戦闘狂らしい。最高に推せる)に、いつか私の作った究極の服を着てもらうための、これは大事な技術磨きの試作品だ。


数時間後。カチリ、とミシンの魔力供給が止まる。


「できた……っ! 天才! 自分、マジで天才すぎる!!」


黒を基調とした、シックでありながら暴力的なまでにフリフリなドレス。

満足感に浸りながらその詳細ステータスを確認した瞬間、案の定、私の視界はバグったシステム画面の赤い光で埋め尽くされた。


──


【アイテム名:戦乙女の漆黒ドレス(試作型)】

・レア度:幻想級ファンタズム

・物理防御力:8500

・魔法耐性:カンスト(全下級・中級・上級魔法を【完全無効化】)

・システムフレーバー補正:【カテゴリー:可愛いフリル軍服】の過去30日間における全サーバー内製造数が「1」のため、希少性限界突破補正(効果5000%上昇)が強制適用されました。


──


「よし、知ってた! 魔法耐性カンスト。これでチュートリアルは文句なしの完全クリアね!」


画面の隅で『チュートリアル完了。基本セーフティエリアへの永久転送権限が解放されました』と控えめなログが流れる。

これでいつでもこの地獄から脱出できる──そう思った、まさにその時だった。


ギィィィ……と、教会の砕けた重い扉が再び開き、今度はボロボロになった3人の男たちが這いずるようにして転がり込んできた。


「おい、頼む……っ! 誰か、誰かいないか……! 戦闘用ポーションでも、まともな防具でもいい、何か売ってくれ……!!」


彼らの鎧は形を留めないほどに粉々に砕け、頭上のHP(体力)バーは絶望的なまでに真っ赤。どうやら隣国との局地戦でボロ負けし、命からがら逃げてきた敗残兵プレイヤーのようだ。


「くそ、装備が完全に全損(壊滅)した……。このエリアの外には、さっきの戦争で勝ったレグナム王国の伏兵どもがウジャウジャいるんだ。このまま外に出た瞬間にリスキルされて、全財産とレベルをロストする……っ!」


男たちは床に拳を叩きつけ、悔しさと絶望で本気で身を震わせていた。デスペナルティが尋常じゃなく重いこのゲームだ。ここで死ねば、数ヶ月にわたる彼らの血と汗の努力がすべて水の泡になるのだろう。


私はフリルのエプロンドレスの裾を揺らしながら、彼らの前に静かに進み出た。


「あの、お困りですか?」


「あ? なんだお前……生産職の初心者か? 悪ィが、俺たちはガチの戦闘職なんだ。小娘、気休めのポーションでもあるなら──」


「ポーションはありませんが、今作ったばかりの、最高に硬い『無敵の防具』ならありますよ。これなんですけど」


私がニコニコと営業スマイルを浮かべて差し出したのは、先ほど完成したばかりの『戦乙女の漆黒ドレス』。黒くてひらひらした、どう見てもゴスロリなお洋服だ。


敗残兵のリーダーらしき体格のいい男は、一瞬完全にフリーズし、それから顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

「ふざけるな! 俺たちは前線の重戦士だぞ!? 誰がこんな、小娘の着るようなひらひらした不届きで恥ずかしい服を──」


「まあまあ、騙されたと思ってステータス画面を見てみてくださいな」


男は忌々しげに、ドレスのシステム鑑定画面を開いた。

次の瞬間──男の目が、眼球が眼窩から飛び出そうなほどに見開かれた。


「は……? 魔法耐性……カンスト……!? 物理防御8500……!? おい、なんだよこのバグ装備は! 大国の近衛騎士団の神聖盾より硬えぞ!?」


「1着、金貨100枚でどうですか? 命には代えられないですよね?」


私は首を少し傾げ、これ以上ないほど可憐に微笑んだ。金貨100枚は、初心者には大金だが、前線の廃人戦闘職なら財布をひっくり返せばギリギリ払える絶妙な金額だ。


男たちは互いに顔を見合わせ、それから狂ったように自分のインベントリをひっくり返した。

「買う! 買うから俺の分もくれ! 頼む、そこの素材も全部やるから、俺たちのパーティー全員分を作ってくれ!!」


「まいどあり。じゃあ、材料はそこら辺に転がってる死体から剥ぎ取ったやつでいいなら、今から爆速で仕立ててあげますね」


それから私は、廃教会の中に臨時の突撃ミシン工房を立ち上げ、敗残兵たちが泣きながら差し出してきた高級素材を使って『漆黒のドレス』をガシガシと量産した。


数時間後、教会から出て行ったのは──**体格のいいむさ苦しい男の身なりでありながら、全員がフリフリのゴスロリドレスを完璧に着込んだ、異様すぎる集団**だった。彼らは「これで無敵だ!」「俺たちの魔法防御は世界一だ!」と叫びながら、戦場へと誇らしげに戻っていった。


はたから見れば、完全に狂気のカルト宗教団体である。絵面が邪悪すぎる。


ジャリン! ジャリン! ジャラジャラジャララン……!!

私の脳内で、莫大なゲーム内通貨がこれでもかと振り込まれる電子音が、心地よく響き渡る。


と同時に、私の視界のド真ん中に、見たこともない禍々しい真っ赤なシステムログが、大音量のアラートと共にポップアップした。


『ピコーン! サーバー内で大量の【破格の軍需物資(※システム判断)】を流通させ、前線の戦況に多大な影響を与えました』

生産職テーラーレベルが20に急上昇。特殊隠しクラスの解放条件を満たしました』

『おめでとうございます。固有称号──【戦争屋ウォー・モンガー】を獲得しました』


「……は? 戦争屋?」


ちょっと待って。

『【戦争屋ウォー・モンガー】の効果:

周辺の国家・ギルド間の「緊張度」を常に視覚化します。また、生産スキルの向上に伴い、国家間大戦を強制的に誘発・演出する【開戦プロデュース権限】が順次解放されます』


画面に表示された、あまりにも物騒で不穏すぎる文字列を、私は何度も何度も読み返した。


「待って待って待って! 私、ただ可愛いお洋服を作って、推しに貢ぐための活動資金を稼ぎたかっただけなんだけど! なんで世界を裏から滅ぼせそうな暗黒の称号が手に入ってんのよ……!」


教会の窓の外では、私の売ったフリルドレスを着たゴツい男たちが、敵国の最上級魔法砲撃を文字通り「無傷」で跳ね返しながら、大剣を振り回して大暴れしている姿が見えた。


私が望むと望まざるとに関わらず、この血生臭い世界に『最悪の仕立て屋』の噂が広まるのは、もう時間の問題だった。


(第3話・了)

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