第10話:開戦、ファンシーな蹂躙
『全サーバー告知:【第一次世界大戦イベント】が勃発しました。バラム帝国、レグナム王国、両陣営、前線平原へ突撃せよ!』
システムのアナウンスが天から響き渡ると同時に、仮想世界『レグナム・ベラム』の大地が、文字通りビリビリと狂ったように震え始めた。
前線平原を埋め尽くすのは、両国合わせて数十万人規模という、このゲームの全歴史上でも類を見ない超ド級のプレイヤーの軍勢。空を覆い尽くす魔導戦艦の不気味な影と、大地を劈く重戦車の地響き。これまでの小競り合いとは次元が違う、ガチ廃人たちが国家予算を丸ごと溶かし合う地獄の総力戦だ。
その最前線、バラム帝国軍の突撃部隊のド真ん中に、一番槍を狙って陣取っていたのは──私を脅迫した最大手戦闘ギルド『鉄血の牙』の面々だった。
「お前らァ! 昨晩、あのスラムの小娘から力ずくで巻き上げた『バグ特製装備』の性能、世界中に見せつけてやれ! 今日ここで最も首を稼ぎ、俺たちが世界ランキング一位の座に君臨するんだよォォォ!」
ギルドマスターのヴォルガが、裏地に「可愛い隠し百合の刺繍」を施されているとも知らずに、トゲトゲした黒鉄のフルプレートアーマーを着込んで吠える。部下たちも、サクラピンクに可愛く塗装された特製弾薬を愛銃にギチギチと装填し、ギラついた下品な笑みを浮かべていた。
対面するレグナム王国の魔導兵団が一斉に杖を掲げ、平原の空を真っ赤に染め上げるほどの極大火炎魔法を放った。並の戦闘職ならかすっただけで灰になる、地形ごと消し飛ばす初手の面制圧攻撃。
しかし、ヴォルガは逃げるどころか不敵に大笑いした。
「ハッ、無駄だ無駄だ! 俺たちにはあの仕立て屋から奪った、魔法耐性カンストの最強防具が──」
ズドォォォォン!!!!!
「ぎゃあああああああ!?!?!? 痛い痛い痛い熱いィィィ!!」
直撃の瞬間、前線平原に響き渡ったのは、最強を自負していた男たちの、耳を疑うような無様な悲鳴だった。
私が裏地に仕込んだ【裏地改変・隠し呪詛】。敵の攻撃を初めて受けた瞬間に、魔法耐性と防御力を綺麗さっぱり消滅させ、ただの「防御力ゼロの布切れ」と化す悪魔の刺繍が完璧に発動したのだ。
ヴォルガの自慢の精鋭部隊は、一撃で綺麗さっぱり消し炭になり、次々と光の粒子へと変わってログアウトしていく。
「な、なんだってぇぇぇ!? 防御力が……一桁、だと……!? バグか!? 運営のバグなのか!?」
ヴォルガが鼻水を垂らしながらパニックになり、かろうじて生き残った背後の銃兵部隊に狂ったように怒鳴り散らす。
「撃て! 撃ちまくれ! 敵の魔術兵を狙撃して魔法を止めろ!!」
「り、了解! 死ねやァァァ!」
生き残った銃兵たちが一斉に、あのサクラピンクの特製弾薬の引き金を引いた。
──プピ〜〜〜〜〜♪
──プピピピピピピピピ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ♪
静まり返った過酷な戦場に響き渡ったのは、幼稚園児のおもちゃのラッパのような、緊張感の欠片もないトホホな間抜けの音だった。
そして銃口から放たれたのは敵を穿つ弾丸などではなく、あたり一面を真っピンクに染め上げる、お菓子のように甘ったるい匂いの超濃厚な不発煙幕。
「は!? 弾が出ねえ!? ってか煙がピンク……ぶほっ、甘い! 煙が甘くて前が全然見えねえ!」
「おい待て! なんか俺たちの頭上に、敵の自動誘導魔法のロックオンマークが、システム上限の百個くらい点灯して──」
「バカども、そこがあなたたちの特等席よ」
ピンクの甘い煙幕の向こうから、凛とした、しかし最高に楽しげな声が響いた。
煙を切り裂いて現れたのは、我が闇ギルド『白百合カルテル』の精鋭たちだった。
先頭を猛スピードで突っ走る、白銀の超美形騎士ランスロット(中身:OL)。その頭上には、私が作ったフリル付きの大きなピンクのリボンが風にひらひらと揺れている。
「うちのマスターの可愛いアトリエを荒らし、お茶会のテーブルを傷つけた罪、その安い命で一生後悔しなさい!」
ランスロットが放ったのは、戦闘職なら誰もが最初に覚えるただの下級突撃スキル。しかし、【カテゴリー:可愛いリボン】のシステムバグ補正(効果五〇〇〇%上昇)が乗った彼女の突進は、一撃で平原の地形を陥没させる、神話級の質量兵器と化していた。
ドガァァァァァン!!!!!
「ぶべらっ!?」
一振りで『鉄血の牙』の残りの戦列が数十人単位で物理的に吹き飛ぶ。
「ひっ、化け物かよ! 魔法を撃て、魔法を──」
残った魔術師が必死に杖を構えるが、今度はその頭上から、太陽の光を遮るほどの巨大な影が降ってきた。
「マスターの新作お洋服のレシピをトゲトゲで汚す悪い子はぁ……ミンチにしてあげるわぁぁぁ!!」
満面の笑みの鉄仮面をガバッと外した、二メートルの巨漢大男ゴライアス(中身乙女)だ。ピンクチェックのフリルエプロンをひらひらと巨体に揺らしながら、城門を粉砕するレベルの巨大な漆黒の大斧を笑顔でブンブンと振り回す。
彼の抱える特製『殲滅のベア(試作二号)』が次々と敵陣のド真ん中へ投げ込まれ、戦場にファンシーなサクラピンクのキノコ雲を量産していった。
「な、なんだよあいつら……! 見た目は男のトップランカーなのに、全員フリルやリボンをつけて、中身が完全に恋する乙女の叫び声じゃねえか!!」
「狂ってる……あのギルド、全員頭のネジが消し飛んでやがる!!」
『鉄血の牙』の男たちは、肉体的な恐怖だけでなく、精神的な陵辱(ピンクの地獄)にガタガタと震えながら、一方的に「お洋服の雑巾」へと変えられていった。世界ランキング一位の夢は、ログインからわずか数分で、跡形もなく消し飛んだのだ。
平原の遥か後方、絶対に攻撃の届かない安全圏の丘の上に建てた、特製パステルピンクのパラソルの下。
私は優雅に、冷たいダージリンティーを口に運んでいた。手元の魔導端末には、『鉄血の牙』が完全崩壊し、ギルドメンバーのほぼ全員がキャラデータ強制初期化寸前の極重デスペナルティを受けて戦線離脱していくシステムログが、滝のようなスピードで流れている。
「ふふ、お粗末様。戦場で可愛いドレスやぬいぐるみを舐めるとどうなるか、少しは身に染みたかしら」
力と暴力で世界を支配しようとした王者は、私の仕立てた布切れ一枚と弾薬一発で、跡形もなく自滅した。
そして戦場は今、両国の上層部すらも巻き込み、我が『白百合カルテル』の圧倒的な「可愛い(物理)暴力」によって、完全に恐怖のどん底へと叩き落とされようとしていた。
(第10話・了)




