第95話:猛牛の骨髄から抽出された黄金のエリクサー(山陰本線・牛骨ラーメン)
瀬戸内海から飛来する背脂の隕石群(尾道ラーメン)を見事に食い尽くした私は、休む間もなく中国山地を越え、日本海側の大動脈……山陰本線へと足を踏み入れていた。
「フスッ……。荒れ狂う日本海の風と、雄大な大山がそびえる国、『鳥取』か」
商人ギルド『JR西日本』の管轄エリアにおいて、ラーメン(魔導スープ)のベースとなる素材は『豚』か『鶏』が一般的である。
しかし、ここ鳥取県の中部エリア(倉吉・赤碕など)にのみ、全国的にも極めて珍しい『別の魔獣』の骨を使った最強のポーションが存在するという。
「狙うは、猛牛(強装甲のミノタウロス)の骨髄から抽出されたという黄金の霊薬……『牛骨ラーメン』だ!」
私は赤碕駅周辺にある、一見するとただの大衆食堂にしか見えない年季の入ったギルド(老舗の食堂)へと潜入した。
「……むっ! なんだこの匂いは……!?」
扉の隙間から漏れてくるのは、和歌山の豚骨臭とは全く違う、どこか『甘く、焦げたような、重厚な脂の香り』であった。
「フハハハッ! 焼肉ギルド(ダンジョン)から漏れ出してくるあの至福の匂いに近い! だが、ここは間違いなく魔導麺を供するギルドのはずだ!」
私は高鳴る心臓を抑え込みながら、厨房の錬金術師に向かって「牛骨ラーメン」をオーダーした。
そして数分後、私の眼前には、黄金色に澄み渡った美しい魔導スープが召喚されたのであった。
「おおおっ……! 見事な黄金色だ!」
スープの表面には、猛牛から抽出された分厚い脂の結界(牛脂)が張られており、湯気一つ立てることなく、強烈な内部熱(火属性魔法)を完璧に閉じ込めている。
「豚や鶏のスープとは明らかに違う、王者の風格のようなものを感じるぞ!」
私は魔術スティック(レンゲ)で脂の結界をそっと破り、下から黄金のスープを掬い上げた。
「いざ、実食ッ!」
「……アッツゥゥゥッッ!!! そして……な、なんだこの怒涛の甘みは!」
牛脂の結界によって限界まで保温されていた灼熱のスープが、私の下を火傷スレスレの威力で焼き尽くす。
そして、直後に爆発したのは、獣の骨髄がもたらす『暴力的なまでの甘さと旨味(超絶バフ)』であった。
「フハハハッ! 信じられん! 砂糖など一切使っていないはずなのに、牛のエキス(魔力)が完全に液体の中で飽和し、このとてつもない『甘み』を生み出しているのか!」
豚の力強さとも、鶏のキレとも違う。
これはまさに、重戦車クラスの猛牛の突進を真っ向から受け止めた時のような、重厚でずっしりとした物理的な圧力だ。
「これに合わせる小麦の糸(麺)はどうだ!?」
ズズズッ! 私は中細の縮れ麺を一気に喉元へと運んだ。
「素晴らしい! わずかに波打つ(縮れた)麺の形状が、猛牛の重い油分(牛脂)を無駄なくキャッチし、スープと一緒に私の口内へと強制滑空してくるぞ!」
「美味い……! だが、これは……!」
私は次々と麺とスープを胃袋へと流し込みながら、自身の身体に起こっているある『異変』に気が付いた。
「重いッ! 猛牛のエネルギー(カロリー)が重すぎる!!」
京都、和歌山、広島、そして鳥取。
短期間で超高濃度のB級グルメ(魔獣スープ群)を立て続けに摂取したことにより、ついに私の胃袋(HPメーター上限)が悲鳴を上げ始めていたのだ。
「ぐぅぅっ……牛脂の甘みが、後半になればなるほど、ずっしりと腹の底に溜まっていくのがわかる! なんという暴力的な持久戦だ!」
だが、勇者たる者、目の前に出された魔獣(飯)を残すことは許されない。
「……ふぅぉぉぉっ!! 全集中・マナ吸引ッ!」
私は残された力を振り絞り、丼の底に残った最後の一滴のエリクサー(黄金スープ)までをも一気に飲み干した。
「……ガハッ。完全なる、制圧だ……」
胃袋はもはや限界ギリギリまで膨れ上がり、猛牛の圧倒的なマナに完全に支配されている。
「恐るべし鳥取の牛骨魔法……。こんなにも腹にズシリと物理的ダメージを与えてくる回復薬が存在したとはな……」
汗を拭いながら店を出た私は、いよいよこの狂気のB級グルメ(炭水化物)探訪も限界が近いことを悟った。
「次、あるいはその次あたりで、私の胃袋(HP上限)は完全に爆発するだろう……! さあ、次なる最凶の塩分結界を持つ国へと進軍だ!」
腹をさすりながら、勇者は気力を振り絞り、山陰本線からさらに北東の方向(富山方面)へと重い足取りで歩みを進めるのであった。




