第94話:海から飛来した背脂の隕石群(山陽本線・尾道ラーメン)
紀伊半島の地で煮えたぎる豚骨魔獣(井出商店)と酸味の結界符(早すし)を攻略した私が次に向かったのは、商人ギルド『JR西日本』の山陽ルート。
急峻な坂道とレトロな町並み、そして美しい瀬戸内海が眼前に広がる港町……『尾道』である。
「フスッ……。数多の芸術家や冒険者たちが愛したという風光明媚な魔導都市か」
だが、今の私の目は美しい海や景色には全く向けられていない。
私の鼻腔は、先ほど和歌山で味わったものとはベクトルが全く異なる、キリッとした『海鳴りのようなマナ(醤油と海産物の香り)』を正確に捉えていた。
「この澄み切った海の香りの裏側に、とんでもなく凶暴な物理的質量が隠されている気配がする……。行くぞ!」
海沿いに位置する有名なラーメンギルドへと足を踏み入れた私は、迷わずこの地域の名を冠する魔導スープ『尾道ラーメン』の召喚を要求した。
「さあ、見せてみろ! 瀬戸内の海が生み出した魔導スープの真髄を!」
どんっと荒々しく置かれた器の中身を見て、私は思わず目を見開いた。
「……ッ!! なんだこれは! 美しく透き通った濃い飴色の魔導結界(醤油スープ)の表面に、無数の『真っ白で巨大な隕石』がプカプカと浮かんでいるではないか!」
それは、ただの油の膜ではない。
物理的な質量(ゴロリとした塊)を保ったままスープの表面を覆い尽くしている、巨大な『豚の背脂のミンチ』であった。
「バカなッ! ベースとなっているスープからは、小魚などを丁寧に抽出した非常に繊細で上品な水属性魔法(出汁)の気配がしているというのに!」
透き通るような美しい海の魔法陣(いりこ出汁ベースの醤油スープ)。
しかしその天空(液面)には、凶暴な獣の脂身(背脂ミンチ)という全く相容れない別属性の物理装甲が大量に配置されているのだ。
「海と獣の完全なる矛盾! このふたつが同時に襲いかかってきた時、私のHPゲージ(味覚)はどうなってしまうというのだ!」
私は魔術スティック(レンゲ)で、スープと背脂の隕石を同時に掬い上げ、一気に喉の奥へと流し込んだ。
「……ンンンッ!! ガハァァァッ!!」
口の中に入った瞬間に爆発したのは、目にも留まらぬ速さの『あっさり(クリアな旨味)』と『こってり(脂の暴力)』の連続攻撃であった。
「フハハハッ! なんだこの恐るべき二段構えは! スッキリとした醤油スープが私の舌(装甲)を一瞬で貫通したかと思えば、直後に背脂の隕石がドリュッ!と溶け出し、圧倒的な動物性の甘み(油分)で口内を完全に制圧してくるぞ!」
背脂は決してしつこくない。上質な獣のマナだけが熱で溶け出し、あっさりとしたスープの中に見事な『コク(極上のバフ効果)』を与え続けている。
「だが、この強力な海と獣の融合魔法を受け止める『小麦の束縛糸(麺)』はどうだ!?」
私は割り箸を器の底へと沈め、一気に麺を引きずり出した。
「おおっ! これは……太さが均一ではない『平打ちの麺』か!」
ズズズッ!と音を立てて啜り上げると、その特殊な平らな形状(きしめんのような広面積)が、スープの表面に浮かぶ背脂の隕石たちを見事に絡め取り、ひとつの逃しもなく私の口内へと強制転送してきた。
「考え抜かれている……! 丸い麺では滑り落ちてしまう巨大な脂身を、この『平べったい装甲(平打ち麺)』を使って確実にターゲットの口(私)へと運ぶ物理的なシステム(ギミック)だ!」
クリアな魚介醤油のあっさりとした風味。
それに相反するような、背脂の甘みとコッテリ感。
そのすべてを絡め取る平打ちの魔法糸。
これら三位一体の連携魔法の前に、私の精神防御は完全に崩壊した。
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(大完食)だ!」
器の底に残った最後の一つの背脂隕石までをも完全に舐め尽くすと、私の体の中はとてつもない量の海と獣のマナで満杯(リキャスト完了)になっていた。
「美しい景色の中でこんな暴力的なエネルギーが精製されていたとはな。……だが、まだ足りない! 次は、さらに巨大な『別の魔獣』の骨を使った未知のエリクサーを狩りにいくぞ!」
背脂の結界魔法を突破した私は、瀬戸内を後にし、次なるラーメン聖地である北の海(山陰・鳥取エリア)へと向けて進軍を開始するのであった。




