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第93話:煮えたぎる豚骨と早熟の魔法符(阪和線・和歌山中華そば)

 京都の錬金ギルドが生み出した、鶏骨と野菜の『超高濃度泥状スライム(天下一品のこってり)』を胃袋に封印した私は、次なるB級魔導スープを求めて大きく南へと進軍した。

「フスッ……。商人ギルド『JR西日本』の管轄エリアを縦断する阪和線の快速魔導列車……。この先に待つのは、温暖な気候と山々の結界を持つ国、『和歌山』だ」

 この地には『和歌山ラーメン(現地では中華そばと呼ばれる)』という、全国の冒険者たちから恐れられる凶暴な魔獣スープが存在しているという情報を得ていた。

「どうやら和歌山ラーメンには、醤油ベースの『車庫前系』と、豚骨ベースの『井出系』という二つの派閥(魔法流派)があるらしい。私が選んだのは……より獣の呪力が強い後者の流派だ!」


第93話:煮えたぎる豚骨と早熟の魔法符(阪和線・和歌山中華そば・前編2)

 私は和歌山駅から歩き、目的の最強ギルド『井出商店』へと近づいていった。

「……ッ!! なんだ!?」

 まだ姿も見えないというのに、遠くから防具(衣服)を通して染み込んでくるほどの、強烈な『魔獣の匂い(豚骨臭)』が周囲の空気を完全に支配していたのだ!

「フハハハッ! なんという暴力的なまでのマナの奔流! 店外にまで溢れ出しているこの匂いは、間違いなく高位のオーク(豚骨)を限界まで煮込み、その生命力を強制抽出している証拠だ!」

 私は高まる闘争心を抑えきれず、獣のオーラが立ち込めるギルドの扉を力強く押し開けた。


 席に着き『中華そば』の詠唱オーダーを終えた私の視界に、ある奇妙なアイテムが飛び込んできた。

「……むっ? 卓上のカゴの中に、緑色の葉(結界符)で包まれた小さな塊が大量に置かれているぞ」

 これは和歌山のラーメンギルド特有のローカルシステム……『早すし(鯖の押し寿司)』ならびに『ゆで卵』という、自ら結界を解いて食べるフリー召喚魔法(有料)である。

「なるほど! 重厚な魔獣スープ(ラーメン)との戦闘が始まる前に、酸味という別属性の魔法(早すし)を胃袋に流し込むことで、HP上限を一時的に拡大させる『事前バフ魔法』というわけか!」

 私は迷わずその緑のバフアイテム(早すし)の結界を剥がし、酸味の効いた鯖と酢飯をパクリと平らげた。

「完璧だ。鯖の生臭さを酢で完全に封印し、胃袋の戦闘準備(食欲)が限界まで引き上げられたぞ!」


 そしてついに、目の前に本命の魔獣(中華そば)が姿を現した。

「おおおおっ!! これが井出系の真骨頂か!」

 器の中を満たしているのは、獣の骨のエキス(豚骨)によって激しく乳化(濁ってドロドロに)しつつも、強烈な黒魔法(醤油)と完璧に融合したドス黒く光る『茶色い魔導液(豚骨醤油スープ)』であった。

「いざ、戦闘開始ッ!」

「……ズズッ! ……ガハァッ! 濃いッ! 痛烈なまでの獣の旨味と、醤油の鋭い塩分(物理攻撃)が全く同時に舌を突き刺してくる!」

 店外まで漏れていたあの強烈な豚骨臭は、口に入れた瞬間に見事な『コク』へと反転し、臭みを完全に超越した一種のアート(魔法芸術)の領域へと達していた。


 私はすぐさま、その狂暴な豚骨醤油の海に沈んでいる細い小麦の糸(ストレート麺)を持ち上げた。

「ズルルッ!! ドムッ!」

「素晴らしい! 小麦の束縛糸が、この凶悪なスープを見事に絡め取りながら、スルスルと喉の奥へと滑り落ちていく!」

 トッピングされた薄切りの豚肉チャーシューや、花を模した装飾かまぼこも、スープの強烈な濃さを中和する見事なサポート陣形を形成している。

「しかし、やはりこのスープは強力すぎる……! 濃度の高さに、舌の感覚(味覚メーター)が徐々に麻痺しようとしている!」

 だが、今の私には最強の回復アイテムがある。

「出番だ、早すし(鯖寿司)ッ!」


 濃厚な豚骨醤油の爆発的な旨味を味わった直後に、酸味の効いた『早すし』をかじる。

「フハハハッ! 完璧なリセット魔法(状態異常回復)だ!!」

 濃いスープと、酸っぱいお寿司。

 本来なら決して交わることのない別次元の二つの魔法属性が、私の胃袋の中で奇跡的な化学反応マリアージュを起こし、ラーメン→早すし→ラーメンという恐るべき無限捕食ループを完成させてしまったのだ。

「……ふぅっ、ハァッ。恐ろしい陣形であった……」

 私はすっからかんになった丼ぶりと、幾重にも重なった早すしの緑の葉符(包み紙)を見下ろして勝利の息を吐いた。

「事前の儀式サイドメニューから完璧に計算された和歌山の豚骨醤油魔法……。見事な連携攻撃であった。だが、勇者の胃袋カロリータンクにはまだ空きがあるぞ!」

 強烈な獣のマナを補給した私は、次なるB級魔獣の気配を追い、山陽ルート(広島方面)へとその矛先を向けるのであった。


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