第92話:超高濃度の泥状防壁(京都線・天下一品こってり)
美しいご当地スイーツによる「精神支配」のループからどうにか抜け出した私は、次なる討伐目標を、より荒々しく暴力的なエネルギー……『B級グルメ(炭水化物と脂質の暴力)』へと切り替えていた。
「フスッ……。高級食材や甘味魔法も良いが、勇者の真の力を支えるのは、やはり汗まみれの野戦食だ」
私がまず向かったのは、商人ギルド『JR西日本』の東の要衝であり、本来ならば上品で繊細な薄味の国として名高い『京都』である。
だが、この古都の裏側には、公家衆の優雅さとは完全に対極にある、凄まじく野蛮で重厚な『魔導スープ(ラーメン)』を錬成する一大勢力が潜んでいるというのだ。
私は京都駅から魔導通信機のマップを頼りに、その狂気のチェーン・ギルドの『総本部(総本店)』へとやって来た。
赤い看板には眩しい文字で『天下一品』と刻まれている。
「オーダーだ! この京都の地で最も凶悪な粘度を誇るという、鶏と野菜のドロドロの錬成液……『こってりラーメン』を私の前に召喚しろッ!」
「あいよーっ! こってり一丁!」
厨房(魔導炉)では、信じられないほどの時間をかけて魔獣(鶏ガラ)と十数種類の植物(野菜群)を煮込み、完全に液状化させるという恐ろしい極大魔法陣が展開されていた。
そして数分後、私の眼前にその『泥沼の結界』が突き出された。
「……ッ!! なんだこれはぁ!!」
丼の中には『スープ』と呼ばれるべき流体は存在していなかった。
あるのは、完全に不透明で、黄土色に不気味に濁った物理的な『泥状のスライム(超高濃度の液体)』である。
「バカな……! ラーメンのスープといえば、普通は『ダシの効いた熱水』だろう! だがこれは、明らかに『個体』と『液体』の境界線を完全に踏み越えているぞ!」
恐るべき重装甲。これこそが、古都・京都が隠し持っていた裏の顔……限界まで濃縮された『こってり(泥状回復薬)』なのだ。
私は魔術スティック(レンゲ)をその泥の中へとねじ込み、強引にすくい上げて直接口へと放り込んだ。
「……ンンンッ!!! 濃いッ! なんだこの圧倒的な質量は!」
ドロリと舌にまとわりついた泥状スライムの中から、爆発的な『鶏の中枢マナ(鶏のエキス)』と『野菜の暴力的な甘さ』が同時に急襲してきた。
「フハハハッ! 見た目は狂暴な泥沼だが、決してただ脂っこい(ヘビーな)だけではない! 野菜のペースト魔法が大量に練り込まれているため、後味は驚くほど優しく、そして深いッ!」
液体そのものに強烈なバフ(旨味)が圧縮されている。
私は続いて、丼の底でこの泥沼に囚われている『小麦の束縛糸(麺)』を魔術スティック(箸)で持ち上げようとした。
しかし……。
「ズ、ズッシリ……! うおおっ、重い! 信じられんほど重いぞ!」
「ズルルルルッ!! ムッギュッ!!」
持ち上げた小麦の糸には、先ほどの泥状スライム(スープ)が、まるで巨大なヒル(物理装甲)のようにビッシリと100%の密度で張り付いていた。
「なんという絡みつき(同化能力)だ! 麺をひと啜りするたびに、丼の中にあるスープの総量が、ゴッソリと目に見えて減っていくぞ!」
麺を食べているのか、スープを食べているのか、もはや分からない状態。
炭水化物(麺)と、超絶濃度の動物性タンパク質(魔獣エキス)の一体化攻撃。
私は口の周りをドロドロの黄土色に染めながら、無我夢中でカロリーの暴力を胃袋へと叩き込み続けた。
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(大完食)だ!」
麺と共にスープも完全に消滅(吸い上げられたため)した私の丼の底には、恐るべき魔法の呪文『明日もお待ちしてます』という真っ赤な文字が浮かび上がっていた。
「フスッ……。これだけ限界までHPを強制回復させておきながら、明日も来いという無限の回復ループ(呪詛)を仕掛けてくるとは。天下一品、恐るべき錬金術ギルドだ」
全身の細胞が、鶏と野菜の泥状ポーションによって異常なほどの活気(カロリー過多)に満たされている。
「……だが、私の胃袋はまだ限界ではない! これより西日本の魔導スープ(ご当地ラーメン)を片っ端から蹂躙し、全種類のバフをコンプリートしてやるッ!」
私はギラギラとした食欲魔神の目を光らせながら、京都駅から次なるラーメン聖地である南の国(和歌山)へと向かう魔導列車に飛び乗るのであった。




