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第90話:無限に伸びる茶色の軟体結界(山陽本線・山口ういろう)

 紅葉の葉に完全擬態した広島のステルス魔導菓子を大量に討ち破った私が次に向かったのは、本州の最西端、商人ギルド『JR西日本』の山陽エリアにおける最終防衛ラインとも言える国……『山口』である。

「フスッ……。長州藩と呼ばれた古きサムライたちのマナ(気迫)が、今もなお色濃く残る歴史の深い大地だ」

 山陽本線の魔導列車で真っ直ぐに西へと進み、私は新山口駅周辺の静かな市街地へと降り立った。

「尾張の国(名古屋)にも同じ名を持つ有名な魔導アイテムが存在するが、この山口の地に伝わるそれは、成分からしてまるで別物(完全な別種スライム)なのだという」

 目的は、古の時代からこの地で密かに受け継がれてきたという、圧倒的な『軟体防御力』を持つ茶褐色のレンガ型スライム……『山口ういろう』の討伐である。


 私は駅前の老舗ギルド(和菓子屋)へと足を踏み入れ、竹の葉のような美しい呪符に包まれた魔導アイテムを複数個購入した。

「オーダー完了だ。さあ、その正体を見せてもらおうか!」

 私は近くのベンチに陣取り、包み紙(結界)を慎重に解いた。

「おおおっ……! なんだこれは。半透明で、ゼリーでもなく餅でもない、怪しく光る褐色の四角い塊(小豆ういろう)が現れたぞ!」

 名古屋のういろうが『米粉コメのマナ』をベースとした重装甲であるのに対し、ここ山口のういろうは『わらび粉(大地の根から抽出されるスライム成分)』をベースに錬成されている。

 そのため、私が少し手で持っただけでも、フルン、フルンッ!と、まるで生きているかのように全体が小刻みに激しく波打っていた。


「フハハハッ! とんでもない流体装甲だ! 私の指のわずかな震え(振動魔法)を完全に吸収し、自らの身体を揺らすことで威力を完全に逃がしている!」

 これほどのプルプルとした物理防御力を見せつけられては、勇者の血が騒がないはずがない。

「いざ、実食ッ!!」

 私はその褐色の巨大スライム(一口サイズのういろう)へと、直接牙(歯)を深く突き立てた。

「ガシッ……ム、ムニュウゥゥゥッ!!?」

「な、なんだッ!? 切れない! 噛みちぎろうとしているのに、この茶色い結界スライムが限界まで『ドゥルン』と無限に伸び続けて、私の歯を優しく押し返してくるぞ!」


 餅ほど凶悪な粘着力べたつきはなく、ゼリーのようにあっさりと崩壊することもない。

 わらび粉がもたらす『極限のプルンプルン食感』。それは、攻撃(咀嚼)する側の闘争心を完全に削ぎ落とす、究極の『平和的防御魔法』であった。

「フスッ……なんという優しい世界だ……」

 ついに噛み切ったういろうが口の中で踊り出した瞬間、私はその圧倒的な食感と共に訪れた『控えめな甘さ(癒やしのマナ)』に完全に精神を掌握された。

「強烈な砂糖の暴力ではない……! 小豆本来の静かな甘みと、大地(わらび粉)の滋味が、ただひたすらに私の疲れた脳髄を優しく撫で回してくる……!」

 尖った要素が何ひとつ存在しない。すべてが丸く、柔らかく、限りなく優しい魔力に満ち溢れているのだ。


 小豆のういろうによる圧倒的な癒やし魔法ヒーリングを受けた私は、次なるターゲットである『抹茶のういろう』の結界を解き放った。

「今度は深緑のスライムか! 宇治の抹茶パフェで見せたあのアグレッシブな苦味が、この平和的な軟体装甲と融合するとどうなるというのだ!」

 パクリ。ムニュゥゥゥン。

「……おおおおおっ!! 苦くないッ! 抹茶の持つ高貴な香り(バフ)だけを完全に抽出しておきながら、刺激的な苦味デバフの部分は、わらび粉の優しい魔法陣が完全に無効化キャンセルしているぞ!」

 口の中をただひたすらに上品で芳醇な緑の香りが駆け抜け、そして『ドゥルンッ』という快感と共に喉の奥へと滑らかに消えていく。

「これなら、お茶(回復ポーション)がなくても無限にHPを回復し続けることができる!」


「……ふぅっ、ハァッ。完全なる武装解除(精神的幸福)だ……」

 いつの間にか私は、数本あった外郎ういろうをすべて飲み込み、ベンチの背もたれに深く寄りかかって完全に脱力していた。

 闘争心やストレスといった負のステータス(デバフ)が、この圧倒的な『プルンプルンの食感』によって細胞レベルで浄化されてしまったのだ。

「恐るべし、山口ういろう……。力や魔法の激しさではなく、ただひたすらの『柔らかさと優しさ』で勇者を骨抜きにするとは」

 商人ギルド『JR西日本』の管轄する本州の西の果て。そこで究極の軟体スライムに癒やされた私は、次なる――そして第13部のフィナーレを飾る――最後の魔導スイーツを狩るため、北の雪国(金沢)へと大きく舵を切るのであった。


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