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第89話:紅葉への擬態と赤き豆の魔力(山陽本線・もみじ饅頭)

 岡山の地で女神の放つ圧倒的な果実魔法フルーツパフェに骨抜きにされた私が次に向かったのは、商人ギルド『JR西日本』の管轄する瀬戸内海エリアの要衝……『広島』である。

「フスッ……。美しい瀬戸内海と、神々の浮かべる島(宮島)が見えるな」

 私は山陽本線の魔導列車に揺られながら、これから討伐する獲物の情報を頭の中で整理していた。

「今回のターゲットは、これまでの堂々と巨大な姿(城杯)を現すパフェや、異常な膨張を見せるチーズケーキとは全く性質が異なる。なんと、大自然の風景に完全に溶け込む『高度な擬態ステルス能力』を持った魔導菓子だという」

 私は広島駅(あるいは宮島口駅周辺)の魔導工房(土産物街)へと深々と足を踏み入れた。


「見つけたぞ……! あそこだ!」

 土産物屋の店頭に並べられた無数の箱。その中には、手のひらに収まるほどの極小サイズでありながら、見事なまでに秋の落葉(もみじの葉)の形を模した茶色い物体が整然と並べられていた。

「フハハハッ! 見事な擬態カモフラージュだ! これなら、森の中に落ちていれば鳥や獣の索敵スキルから完全に逃れられるだろう!」

 これこそが、広島の錬金術師たちが生み出した銘菓……『もみじ饅頭』。

 私は迷わずその葉っぱ(魔導菓子)を大量に購入し、さっそくビニールの結界(個包装)を力ずくで引きちぎった。

「茶色く焼き上がったカステラ生地(物理装甲)。だが、この薄い装甲を破った先にこそ、真の罠(魔法)が仕掛けられているはずだ!」


第89話:紅葉への擬態と赤き豆の魔力(山陽本線・もみじ饅頭・中編1)

 私はその可愛らしいもみじの葉を、頭頂部のギザギザした部分から真っ二つに噛み割った。

「……サクッ! フワァァァッ!」

「おおっ! カステラの装甲からは、卵と蜂蜜の優しい『チャーム魔法(甘い香り)』が漂ってくる! そしてその先に隠されていたのは……!」

 装甲の奥底、葉っぱの中央部分コアにギッシリと詰め込まれていたのは、赤銅色に光るドス黒い泥のような高濃度マナ……『こしあん(赤き豆の魔力)』であった。

「日本の和菓子ギルド特有の強烈な甘味魔法(小豆の練成物)! 外側のフワフワとした防御壁が、この中の赤き魔力を強引に閉じ込めるための『封印指定装置』としての役割を果たしていたというわけか!」


 一口でカステラとこしあんの絶妙なフュージョン(融合)を楽しんだ私は、隣の箱に入っていたもう一つの『上位変異種』へと手を伸ばした。

「通常のもみじ饅頭が『焼き菓子』だとするなら、こちらは明らかに様子が違うぞ。……その名も『生もみじ』だと!?」

 手にした瞬間、通常のもみじ饅頭のカステラ生地のようなフワフワ感は無く、ペタッとした独特の湿度(水属性魔法)を帯びた重みがあった。

 私は警戒しながら、その生もみじを真っ二つに嚙みちぎろうと試みた。

「……ガリィッ! いや、むにぃぃぃぃぃッ!!?」

「な、なんだこの異常なまでの粘液防御(モチモチスライム装甲)は!!」

 私の牙(歯)が見事に食い込んだにもかかわらず、その装甲は千切れることなく、どこまでも不気味に伸び続けたのだ。


「バカな……! カステラの装甲弾を捨て、米と餅粉を用いた『完全なる生身スライムボディ』へと進化を果たしているというのか!」

 引きちぎるのに苦労するほどのモチモチとした異常な弾力。

 しかし、その強固な軟体装甲をようやく突破し、中の『こしあん』へと到達した瞬間……。

「……ッ!! ゆ、柚子ユズだ!!」

「フハハハッ! この上位種(生もみじ)、ただ装甲をスライム状に変異させただけではないッ! コアである餡の中に、清涼感の極みたる『柚子の風魔法(さわやかな香り)』を密かにエンチャント(付与)していたのか!」

 モチモチとした重い食感と甘さを、柚子の香りが一瞬にして爽やかに切り裂いていく。

 あまりにも洗練された、忍者アサシンのような奇襲攻撃だ。


「美味い……! 王道のフワフワ装甲(もみじ饅頭)と、上位種のモチモチ装甲(生もみじ)! この二つの絶妙な波状攻撃に、私の満腹中枢(防御力)は完全に破壊されたぞ!」

 日本茶(回復ポーション)で喉を潤しながら、私は箱の中に残っていた大量の「もみじ(秋の怨念)」たちを、ただひたすらに胃袋へと掃除機のように撃ち込み続けた。

「……ふぅっ、ハァッ。完全なる掃討戦であった」

 紅葉に擬態していたはずの広島の魔導菓子は、最後には私の血肉となり、全身の魔力を満タンにまで膨れ上がらせてくれた。

「和菓子の本質あんこに、特殊な装甲を持たせて魅了する……。商人ギルドの西の果てには、まだまだ私の知らない未知の装甲を持つ極甘スライムが潜んでいるに違いない!」

 私は完全にスイーツの魔力に溺れた目をして、広島を後にし、次なる未知なる軟体菓子を目指してさらに西の国(山口)へと歩みを進めるのであった。


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