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第88話:果実の女神が落とした琥珀の宝石箱(山陽本線・フルーツパフェ)

 異国魔導士の生み出した驚異的な黄金スライム(神戸プリン)を討ち破った私が次なるスイーツを求めて乗りこんだのは、商人ギルド『JR西日本』の大動脈、山陽本線の黄色い電車である。

「フスッ……。強烈な太陽のサン・マナがたっぷりと降り注ぐ、温暖で穏やかな気候の国……『岡山』か」

 この地は別名『フルーツ王国』と呼ばれており、自然界に存在する魔神(果実の女神)の加護を極限まで高めたレア・アイテムが多数存在するという。

「宇治の抹茶パフェや神戸のプリンは、人間の高度な錬金術を駆使して作られた人工的な魔導アイテムであった。だが、ここ岡山のスイーツは『大自然の果実が持つ純粋な火力(糖度)』で直接殴ってくるというのだ!」

 私は岡山駅を出発し、果物魔導士たちの総本山とも言える高級ギルド(フルーツパーラー)へと足を踏み入れた。


「オーダーだ! 果実の女神がこの地に落としたという最高純度の魔石の集合体……『白桃とマスカットのフルーツパフェ』を私の前に召喚しろッ!」

「はーい、季節のフルーツパフェ一丁!」

 やがて私の運ばれてきたのは、巨大なガラスの城杯グラスから今にも溢れ出んばかりに盛られた、まばゆい光を放つ宝石の山であった。

「な、なんだこの圧倒的な光属性ビジュアルは!!」

 淡いピンク色に輝く、赤子の肌のように滑らかな球体……『白桃』。

 そして、透き通るようなエメラルドグリーンに輝く、完全に球状を維持した魔法の宝玉……『マスカット・オブ・アレキサンドリア』。

「フハハハッ! クリームやアイスの魔法層など完全にオマケ(下敷き)扱いではないか! 圧倒的な果実のオーラで、視覚情報だけで私の精神力(MP)がすでに限界突破の回復を見せているぞ!」


 私は魔術スティック(パフェ用スプーン)を構え、まずはその透き通るような緑色の宝玉マスカットを一つ、丁寧にすくい上げた。

「いざ、実食ッ!」

「……パツンッ!! ジュワァァァァッ!!」

 なんという物理攻撃(食感)と魔法攻撃(果汁)の完璧な二段構え!

「薄く、しかし限界まで張力テンションを高められた皮の装甲が弾けた瞬間に、中からとんでもない量の『高貴な花の香料(マスカット特有の高貴な香り)』を帯びた、極上の甘い水竜巻が口の中に吹き荒れたぞ!」

 種すら存在しない、完全無欠のエメラルドの魔石。

 喉を通った後も、いつまでも芳醇で爽やかな花の香りが肺の奥深くから鼻腔へと抜け続け、私に永続的な深呼吸のバフ(リラックス効果)を与え続けている。


 マスカットの爽やかな先制攻撃に圧倒された私だが、すぐに次なる大物……淡いピンク色に輝く『白桃』の魔石へとスプーンを入れた。

「……ッ!! なんだこれは! 防御力(硬さ)が完全にゼロではないか!」

 スプーンは一切の抵抗を受けずに、ズブゥと果肉の中へと吸い込まれていく。

 口内へと放り込んだ白桃は、舌と上顎がわずかに触れただけで、限界まで高められた水属性のマナ(極上の果汁)へと瞬時に融解した。

「フスッ……! 甘いっ! どこまでも優しく、そして途方もなく深く甘いッ! これはもはや果実という名の固体ではない、女神が調合した『究極の甘いネクター(完全回復薬)』そのものだ!」

 噛みしめるという物理行動すら必要とさせず、ただひたすらにとろけるような甘さで精神を支配してくる、恐ろしい堕落の魔法……。


 白桃とマスカットという、果実ギルドが誇る双璧の神性を浴びた私は、さらにその下層に控える純白のスライム(生クリーム)と冷気魔法ソフトクリームへとスプーンを進めた。

「むっ……! これは、なんという下克上だ!」

 通常ならば、フルーツの甘みなど生クリームの暴力的な糖分(人工的な錬金術)の前にかき消されてしまうものだ。

 しかし、この岡山のパフェは違った。

「バカなッ! 人工的なクリームの甘さのほうが、果物の強烈な自然の甘さ(マナ)の前に完全に平伏し、単なる『引き立てサポーター』へと成り下がっているではないか!」

 生クリームの油分が、果汁の爆発的な甘さを優しく包み込み、酸味の角を消し去るための完璧な緩衝材クッションとして機能している。

 神の果実を輝かせるためだけに計算され尽くした、フルーツパーラーの圧倒的な魔導構築。


「……ふぅっ、ハァッ。完全なる魅了魔法チャームの勝利だ」

 城杯グラスの最下層に滴り落ちた数滴の果汁ペーストまでをも完璧に舐め尽くすと、私の体の中を、自然界の魔力が清々しい風となって吹き抜けていった。

「宇治の抹茶パフェとは真逆のベクトル……。あちらが人工的な階層魔法だとすれば、こちらは神の生み出した無垢の魔力をそのまま顔面にぶつけてくるような暴力的な癒やしであった」

 フルーツ王国の恐るべき豊穣の力に完全に骨抜きにされながらも、私は満面の笑みを浮かべ、さらに西の地で私を待つ次なるご当地スイーツの影を想った。

「商人ギルド『JR西日本』の管轄エリア……やはり西へ進めば進むほど、独自の魔法文化が深く根付いているな! さあ、次は紅葉の結界が張られた安芸の国(広島)だ!」

 琥珀の宝石箱フルーツのマナに満たされた私は、再び山陽本線の魔導列車へと飛び乗るのであった。


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