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第68話:狂気の木造戦車特攻戦(阪和線・岸和田だんじりとベビーカステラ)

 琵琶湖での強烈な天空爆裂魔法祭から数週間後、茹だるような狂乱の夏が終わり、季節はようやく僅かに秋の風を帯び始めていた。

 商人ギルド『JR西日本』の大動脈である大阪環状線から、紀伊半島へと真っ直ぐに南下する阪和線に乗り継ぎ、私がやってきたのは大阪の南部……『岸和田きしわだ』である。

「フスッ……。以前、京都の『祇園祭』にて、悪霊をすり潰す超巨大な木造戦車(山鉾)の威容はすでに確認済みだ」

 あれは荘厳で、ゆっくりと街を浄化して回る、いわば重装甲のディフェンダー(防衛部隊)であった。

 ここ岸和田も、同じように木で組まれた巨大な山車だしが街を練り歩く祭りであると聞き、私は完全にタカを括ってこの地を訪れたのだ。

「ふっ、防衛戦なら私だって手慣れたもの。さあ、見せてもらおうか、大阪の木造戦車だんじりの雄姿とやらをッ!」


 東岸和田駅から少し歩き、メインストリートへと出た瞬間、私の余裕を持った微笑みは一瞬で完全に消え去った。

「そーりゃ! そーりゃ!」

 腹を揺るがす地鳴りのような怒号。そして、数百人の汗まみれの屈強な戦士(荒ぶる男たち)が一斉に極太の綱を引き、猛獣のようなスピードで巨大な木造戦車だんじりが突っ込んできたのだ。

「……バ、バカなッ! 重さ4トンの巨大木造兵器が、なぜあんな異常なるオーバードライブ(ヘイスト状態)で暴走しているのだ!?」

 京都の山鉾が重装甲の防衛兵器ならば、岸和田のだんじりは完全に『防御力とブレーキを完全に捨て去った超高速の特攻兵器アタッカー』である。

 しかもその巨大な戦車の屋根の上では、一切の命綱もつけずに、一人の指揮官(大工方)が軽やかに跳ね回りながら両手で団扇(采配魔法具)を激しく振るっているではないか。

「狂っている……完全に街全体に狂化魔法バーサクが二重三重にかかっているぞ!」


 圧倒的な直進スピードに度肝を抜かれた私だったが、真の恐怖(狂気のピーク)は直後に訪れた。

 猛スピードで爆走していた戦車部隊が、交差点(直角の狭い曲がり角)に差し掛かろうとしたその瞬間。

「……なに!? まさかあの異常なスピードのまま、急な角を曲がろうというのか!?」

 数百人の戦士たちの息がピタリと合い、強引に綱を斜めへ引く。そして後方で『前梃子(前輪の操作棒)』と呼ばれる物理ブレーキが車輪にねじ込まれ、車体が轟音を立てて強引に向きを変えた。

「ガガガガーーーンッ!!」

 これこそが、岸和田だんじり祭の最大の必殺技……『やりまわし(超重武装での超高速90度ドリフト)』である!

「フハハハッ! 常軌を逸している! 民家の屋根やすれすれを4トンの戦車が猛烈な横滑りで駆け抜けていったぞ! どれほどの筋力と技術、そして命知らずの狂った精神バフを持っていれば、あんな真似ができるというのだ!」


「……ハァッ、ハァッ」

 超高速特攻戦やりまわしの風圧と、周囲に渦巻く圧倒的な狂気のオーラに押し流された私は、完全に精神的アドレナリンが枯渇し、フラフラとメインストリートから一本外れた裏路地(非戦闘エリアの安全地帯)へと退避した。

「だ、ダメだ。ただ見ているだけなのに、私のHPと精神力(サン値・正気度)が完全に吹っ飛んだ。何か……私に精神をダイレクトに安定させる回復魔法はないのか!」

 裏路地に立ち並ぶ屋台街を這うように進む私の鼻に、ふと、甘く、ふんわりとした焦げた匂い(微炭酸の優しい甘いマナ)が届いた。

 私はその匂いの元、一つの屋台の前で目を丸くした。

「……なんだあれは? たこ焼き機のような半球状の鉄板の穴に、次々と黄色いスライム液(液状の生地)が流し込まれ、蓋を閉めた一瞬にして『丸く膨らんだ茶色い極小スライム』へと変貌・無限増殖しているぞ!」


「……これだ! 今の私に必要なのは、この優しき甘味の群れだ!」

 私は屋台のオヤジに銀貨を渡し、素朴な茶色い紙袋に限界までパンパンに詰め込まれたそれを召喚した。

 祭りの屋台の永遠の友……『ベビーカステラ(玉子カステラ・鈴カステラとも呼ばれる)』である。

「フスッ、見ろこの圧倒的な群量(質より数が正義)を! たった500円(銀貨数枚)ポッチで、袋の中に何十匹もの甘い極小スライムたちがうごめいているではないか!」

 私は温かい紙袋に片手を深く突っ込み、コロンとした一口サイズのスライムを顔の前に持ち上げた。

 指先からジュワッと伝わるホカホカとした熱と、卵と小麦粉、そして蜂蜜の甘い香り(極上のヒーリング魔法の匂い)が、私の限界まで削れた精神をこれ以上なく優しく包み込む。

「いざ、いただきます!」

 ポイッ、ポイッ、と立て続けに複数の極小スライムたちを口の奥へと放り込む。


「……あまぁぁぁいッ!」

 強烈な狂化魔法(過剰なアドレナリン分泌)で焼き切れそうになっていた私の脳髄に、蜂蜜と砂糖の単純で真っ直ぐな優しい甘さ(ダイレクトな糖分バフ)が、ジュワァァッと音を立てて染み渡っていく。

「フハハハッ! 表の通りでは、屈強な戦士(男)たちが怒号を上げて巨大な木造戦車を振り回しているというのに、私は裏路地で一人、ひたすらにこのフワフワの甘いスライムを頬張っている! なんという凄まじいギャップ(高低差)だ!」

 これこそが祭りの真髄だ。

 極限の緊張と興奮(だんじり特攻)があり、そのすぐ裏には限界を超えた弛緩と甘やかし(大量のベビーカステラ)が用意されている。商人ギルド沿線の民は、恐怖と暴力の使い分けを完全に理解している。

「完全回復だ……! さあ、残る祝祭(イベント編)もあとわずか!」

 私はパンパンに膨らんだ茶色い紙袋を大事に抱え、歩きながら紙袋の中で温められたスライムを次々と胃袋へと転送させながら、意気揚々と秋の空の下を進むのであった。


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