第69話:山を焦がす戦略級炎魔法(奈良線・若草山焼きと焼き芋)
木造戦車の狂宴から季節は流れ、厳しい寒波(氷雪魔法)が日本列島全体を厚く覆い尽くす真冬へと完全に突入していた。
商人ギルド『JR西日本』の管轄下である大和路線(または奈良線)の快速列車に乗り、再び古都・奈良へと舞い戻った私は、改札を抜けるなりコートの分厚い襟を立てて凍える体を震わせていた。
「……フスッ、ハァッ。なんだこの尋常ではない冷気(冷属性の強烈なスリップダメージ)は! 春霞の吉野山や、夏の涼やかな三輪そうめんの時期とは打って変わって、過酷すぎるダンジョン環境ではないか」
私がなぜ、あえてこのもっとも過酷で凍える時期に大和の国を訪れたのか。
「商人ギルドの情報屋(車内の中吊り広告等)によれば……今宵、この奈良の中心地にそびえる名峰(若草山)にて、現地の神の使いと高位魔導僧兵たちが手を結び、『超・戦略級の極大炎魔法』を行使するというのだからな!」
奈良駅から真っ直ぐ東へ歩き、神の使い(鹿)たちが冬の厳しい寒さを凌ぐために身を寄せる奈良公園を力強く抜け、私は若草山の麓の広大な平野へとたどり着いた。
周囲はすでに深い暗闇に包み込まれ、何万人という見物の冒険者(ダウンジャケットを着込んだ観光客)たちが、固唾を飲んで真っ黒な山の斜面を見上げている。
「……来るぞ」
ドォーンッ!という音と共に、見事な号砲(祭儀の開始の合図となる大花火)が冬の澄み切った夜空に打ち上がり、直後、麓に待機していた魔法使いたちが一斉に松明(炎の魔術具)を掲げて山の斜面へと火を放った。
「ボワァァァァッ!!」
「……なっ!?」
私の視界を、圧倒的なオレンジ色の閃光が一瞬にして埋め尽くした。
キャンプの焚き火ではない。巨大な一軒家サイズの火柱でもない。
「フ、フハハハッ! 正気か! 文字通り、三十三ヘクタールにも及ぶ若草山という『一つの山(巨大な自然の要塞)そのもの』を、まるごと一面燃やし尽くそうというのか!」
山の斜面に広がる枯れ草を一気に飲み込み、炎の波が巨大な龍のように頂上へと向かって音を立てて這い上っていく。
パチパチ、ゴォォォォッというすさまじい燃焼音と、遠く離れた麓の観衆のところまでさえ届く明らかな『熱気(極大炎属性の余波)』。
「これが、古都・奈良が誇る新春の火の祭典『若草山焼き』……! 山の害虫を強引に焼き払い、来るべき春の豊穣を祈るための、大地に対する豪快すぎる祈祷魔法か!」
あまりのスケールの大きさに呆然と立ち尽くす私だったが、同時に私の肉体はある深刻なエラー(状態異常)を激しく訴え始めていた。
「……熱いのは目の前の山だけで、私の立っている足元は氷点下に迫る過酷な凍土地帯だ。このままでは山の魔力(熱気)に当てられて興奮する前に、私の肉体自体が完全に凍死してしまうぞ!」
私は周囲の群衆を掻き分け、温もりを与えてくれる補給拠点(屋台・路面店)を必死で探した。
そして、暗闇の中にポツンと灯る赤い提灯と、甘く香ばしい匂いの明確な発生源を発見する。
「……フスッ! 見つけたぞ、真冬の野戦における最強の携帯カイロ(物理回復アイテム)を!」
私は寒さで震える手で即座に銀貨を支払い、分厚い茶色い紙袋に入ったずっしりと重い塊……『屋台の焼き芋』を召喚した。
「見よこの大地の心地よい重みを! これはただの芋ではない。土属性のマナを限界まで蓄え、さらに長時間の熱魔法(高熱の石焼き)によって内部を完全にドロドロの魔力液(蜜)へと変成させた、究極の『大地の熱石』だ!」
私は、目前で燃え盛る若草山を正面に見据えながら、焼き芋をつかんだ両手を即席のカイロ代わりにしつつ、その外装甲(焦げた皮)をゆっくりと丁寧に剥き始めた。
薄い皮を剥いた瞬間、中から黄金色に輝くネットリとした果肉(スライム状の高純度糖質)が、白い湯気とともにホワァッと姿を現した。
「……ハフッ、ホッフッ!」
強烈な熱さに耐えながら、焦って一口大きく齧り付く。
「……ンンッ!! あまぁぁぁいッ!」
「なんだこれは! 砂糖などの錬金術(人工調味料)を一切使っていないというのに、細胞の隅々まで染み渡るような、この暴力的なまでの自然の甘さと超高熱のカロリーは!」
極寒の夜気によって完全に冷え切って機能を停止しかけていた身体のコア(胃袋)に、数百度の熱を持った大地のマナが直接ドカンと放り込まれた。
その強烈な熱エネルギーの絶対的な落差により、私の凍結状態(冷気デバフ)は一瞬にして霧散し、体内から凄まじい活力が内燃機関のように湧き上がってくるのを感じた。
「……ふぅっ。見事な熱量補給であった」
巨大な熱石(大ぶりの焼き芋)を焦げた皮ごと完全に平らげた私は、身体の内側からボカボカと湧き上がる炎属性のオーラを纏い、もはや冬の寒冷デバフなど微塵も感じていなかった。
視線を前方に戻せば、若草山のスケールのデカすぎる山焼きはピークを過ぎ、巨大な山の斜面に無数の赤い残り火が、まるで星空のように美しく、そして不気味に瞬いている。
「フハハハッ! 古の下級魔導糸(三輪そうめん)から、山を丸ごと一つ燃やす戦略級炎魔法まで……この大和の国(奈良県)のポテンシャルは底が知れないな」
私は、商人ギルド『JR西日本』沿線の地が持つ、季節ごとの圧倒的な振れ幅(祭りのバリエーションとスケール)に深い感銘を受けながら、次なる最後の祝祭……番外編『イベント・テーマパーク編』の真のフィナーレへと向けて、満足げに歩き出すのであった。




