第66話:赤き軍団の熱狂闘技場(山陽本線・マツダスタジアムとカープうどん)
京都での疫病祓いの大規模な熱狂(祇園祭)から数日後。
商人ギルド『JR西日本』の誇る山陽本線をさらに西へと乗り継ぎ、私が今回やってきたのは安芸の国……『広島』である。
「フスッ……。駅に降り立った瞬間から、なにやら異様なオーラを感じる。この街の空気……一体どれほどの血生臭い闘争本能が渦巻いているのだ!」
私の目に飛び込んできたのは、街の一帯に隙間なく張られた『真赤な結界(ポスターやのぼりの群れ)』と、同じく赤い装甲に身を包んだ無数の戦士たちの姿だった。
「……むう。どうやら今日この日は、この地を絶対的な根城とする巨大な戦闘戦闘ギルド(広島東洋カープ)の大規模なコロシアム戦(公式戦)が執り行われる日のようだな」
非日常の祝祭を求めて旅を続ける勇者たる私が、この巨大な熱狂の渦をただ通り過ぎるわけにはいかない。
私は、赤き戦士たち(カープファン)の群れに紛れ、広島駅から東へと真っ直ぐに伸びる赤いビクトリーロード(カープロード)を足早に歩いていた。
「フハハハッ! 見よ、この一糸乱れぬ統率の取れた軍団の行進を! 皆が同じ赤色の布の鎧を纏い、片手には謎の魔道具(応援バット)を力強く握りしめているぞ!」
そして、歩くこと十数分。突如として眼前に現れたのは、巨大な口を開けて獲物を待ち構えるような、超巨大な円形の石造コロシアム……『マツダスタジアム』であった。
「……素晴らしい。これぞまさしく、現代の日本に蘇ったローマのフル・オープンの『屋外闘技場』!」
チケット(強者の証明である通行手形)を片手に重厚なゲートをくぐり抜けると、内側には美しく手入れされた緑の戦場(天然芝のグラウンド)と、地鳴りのような咆哮を上げる数万の観衆の壁が360度広がっていた。
「パァァァンッ!!」
「ウオォォォォォォッ!!」
熱気溢れるグラウンドでは、選ばれし超人の戦士たち(プロ野球選手)が、白き魔弾(時速数百キロの硬球)と木の棍棒を用いて、文字通りの激しい肉弾戦(打撃戦)を繰り広げていた。
「……フスッ、熱い。周囲の魔力が熱すぎるぞ!」
コロシアムを包み込む応援歌やスクワット応援という名の大規模な集団詠唱(バフ魔法の一斉発動)により、ただ客席で見ているだけの私ですら、急激なHPの消耗と激しい発汗(極度の塩分喪失デバフ)を強いられていた。
「たまらん……! この赤き熱狂の渦に完全に飲み込まれる前に、私も何か『観衆用の強力な回復ポーション(名物スタジアムグルメ)』を腹に叩き込まねば!」
私はコンコースへと急ぎ、赤き軍団の胃袋を長年支え続けてきたという、歴史ある伝説の配給ポイント(名物売店)へと駆け込んだ。
そこで私が銀貨と引き換えに召喚したのは、コロシアム絶対の名物……『カープうどん(全部のせ)』である。
「フハハハッ! 見事な赤(Cマークのかまぼこ)だ! 陣形の中央に闘技場の紋章が誇らしく刻み込まれているとはな!」
手渡された熱々の丼の中には、太いスライム麺の上に、甘辛く煮込まれた肉(獣のパワー)、キツネ(防弾チョッキのような巨大な油揚げのシールド)、そしてエビ天(海魔獣の揚装甲)という、考え得る限りのすべての物理バフが山盛りに搭載されていた。
「スタジアムという完全に陸の孤島の隔離された極限空間の中で、これほどまでに豪勢なフルコンボ陣形(全部のせ)を即座に展開できるとは! 流石は西日本最大級のコロシアムだ!」
私は、グラウンドの白熱の熱戦の合間を縫いながら、熱を深々と帯びたプラスチックの丼を両手でガシリと握りしめた。
「……ズゾゾゾッ!! ンンッ!!」
スライム麺を一気に啜り上げる。
「……クハァッ! これだッ!」
観戦による大量の汗(水分とミネラル)を失った私の身体に、やや色の濃い強烈な醤油ダシ(塩分とマナの激しい奔流)が、暴力的なスピードで染み渡っていく。
「京都の洗練された薄味の出汁とは根本が違う……! これは、叫び、飛び跳ね、闘う戦士たち(ファン)の渇きを、塩分と旨味で直接的かつ無理やりに癒やすための『野戦用の塩分補給ポーション』だ!」
甘辛い牛肉の強烈な脂がダシにドロリと溶け込み、エビ天の衣が汁を限界まで吸ってブヨブヨの追加装甲へと変化していく。
「美味い……美味いぞ! この灼熱の熱狂の中で喰らう、ジャンクで強力なバフメシ(球場メシ)こそ、コロシアム観戦における最大の醍醐味(最高のスパイス)ではないか!」
私は、周囲の地鳴りのような熱狂的な詠唱(応援歌)に合わせて首を激しく揺らしながら、ズルズルとうどんを飲み下し続けた。
「……ふぅっ。見事な回復(HPと塩分のフル・チャージ)であった」
汁を一滴残らず飲み干し、私が空になった器からグラウンドへと顔を上げたその時だった。
「「「ウオォォォォォォォッ!!!」」」
スタンドを埋め尽くす何万もの赤き軍団が一斉に立ち上がり、強大な魔法発動の構えに入った。
直後、空を覆い尽くすほどの大量の『赤いジェット風船(巨大な広域魔法・ラッキーセブンの発動)』が、凄まじい風切り音とともに一斉に天空へと放たれたのだ。
「……フハハハッ! なんだあの圧倒的な光景は! 空が真っ赤な魔力で完全に埋め尽くされているぞッ!」
スタジアム全体が一つの巨大な生き物となったかのような狂乱の祝祭。
私は、スポーツという名の大掛かりな魔道バトルと、最高の野戦食の完璧なコラボレーションに完全に魅了されていた。
「商人ギルド『JR西日本』の沿線の熱狂……恐るべし!」
私は熱く火照った体を心地よい夜風に晒しながら、次なる狂乱の祭りを目指してコロシアムを後にするのであった。




