第65話:疫病祓いの巨大戦車パレード(京都駅界隈・祇園祭と屋台メシ)
巨大幻影結界(USJ)での狂乱のジャンクな宴から数日。
私は、商人ギルド『JR西日本』が誇る最大級のターミナル、京都駅へと降り立っていた。
季節は夏。京の都は四方を山に囲まれた巨大な盆地地形であり、この時期の京都には『殺人的な灼熱の結界(フェーン現象等による凄まじい猛暑)』が容赦なく張り巡らされている。
「……フスッ、ハァッ。なんだこの纏わりつくようなネットリとした熱気は……! ただ駅前に立っているだけで、皮膚からMPがシュウシュウと蒸発していくぞ!」
私がわざわざこの過酷な炎天下のダンジョンへと足を運んだのには、明確な理由があった。
「この時期の京都では、千年以上前から続く『国を挙げた超大規模な呪術儀式』が執り行われているという……。最強の勇者を自称する私が、見届けないわけにはいかんだろう!」
都の中心部(四条通り周辺)へと進むにつれ、けたたましい魔の音律――『コンチキチン』という鐘や笛の音が空間を完全に支配し始めた。
それは、古の時代から夏の京都に蔓延ってきた恐るべき魔獣……『疫病神』を鎮めるための、大スケールの鎮魂のメロディー。
そして人混みをかき分けた先、私の視線の先には、信じられないほど巨大な物体がゆっくりと迫ってきていた。
「……おおっ! あれが噂に聞く、疫病祓いの巨大な木造戦車(山鉾)の群れかッ!」
精緻な彫刻と豪華絢爛な絨毯(西方渡来の魔法のタペストリーやゴブラン織り)で装飾された、高さ数十メートルにも及ぶ巨大な山鉾。
無骨な木製の車輪をギシギシと軋ませながら進むその姿は、目に見えぬ厄災や疫病の魔獣たちを物理的にすり潰していく、究極の重装甲兵器のパレード(山鉾巡行)であった。
「フハハハッ! 素晴らしい! ただの祭りだ、派手な神事だと思っていたが、これは町全体が一体となって見えない巨大な敵と戦う『対・大規模防衛戦』そのものではないか!」
巨大戦車の圧倒的な威容に興奮を抑えきれない私だったが、同時に私のHP(体力)は確実に限界に近づいていた。
人、人、人。数十万人に及ぶ巡礼者(観光客)たちの尋常ならざる熱気と、上空からの容赦のない太陽魔法の集中砲火。
「……くッ! 熱い……! そして猛烈に腹が減った! どこかに私にバフを与えてくれるギルドの出張所はないのか!」
周囲を見渡すと、そんな見物客たちの弱みにつけ込む簡易的な補給所……『屋台(露店)』がずらりと並んでいた。
料亭や老舗のギルド酒場のような格式高い料理(永続バフ)はここにはない。あるのは、即効性だけを強引に追求したジャンクな一撃回復アイテム(使い捨ての使い魔たち)だけだ。
「……む! あれはなんだ!」
私は、無数に並ぶうちの一つの屋台の前でピタリと足を止めた。そこでは、鉄板の上で薄く焼かれたお好み焼き(粉魔法の簡易陣形)が、割り箸を軸にして職人の手でクルクルと綺麗に巻かれていた。
関西を中心とする西日本の祭り屋台における絶対的定番装備……『箸巻き』である。
「フスッ、なるほど! 混雑する道中、歩きながらでも戦闘(食事)ができるように、お好み焼きを箸に巻きつけて『携帯用の物理兵器』に加工改造したというわけか!」
私は銀貨数枚でその熱々の武器(箸巻き)を召喚し、巨大木造戦車のパレードを眺めながらバクリと食らいついた。
「……ンンッ!! 美味いッ!」
安っぽいソースの強烈な塩分と刺激、そしてドロドロの小麦粉(強力な炭水化物バフ)。
「洗練された和の京料理とは真逆の、極めて乱暴でジャンクな回復魔法! だが、この過酷な野戦(お祭り)の最中においては、この速効性こそが最大の武器となるッ!」
箸巻き(粉とソースの簡易槍)をあっという間に腹に収め、失われた物理的スタミナを強引に回復させた私だったが、体内に蓄積し続けた熱魔法(異常な体温)の上昇はどうにもならなかった。
「……ダメだ、このままでは脳内が完全にオーバーヒートして焼き切れてしまう。素早く強力な『氷属性の強硬解呪魔法』が必要だ!」
私はふらつく足で別の屋台へと向かい、巨大な氷の塊をガリガリと削り出している氷魔術師(タオルを巻いた屋台のオヤジ)の前に銀貨を叩きつけた。
「オヤジ! 一番強力な冷却魔法……『ブルーハワイかき氷』を頼む!」
手渡されたのは、薄く削られた純白の氷の結晶の山に、どぎつい水色の液体(おそらくただの色付きの甘いシロップ)がたっぷりと掛けられた、冷気を強烈に放つ魔法の杯だ。
私は備え付けの氷の杖でザクッと青い氷をすくい、一気に口内へと放り込んだ。
「……ヒヤァァァッ!!」
強烈な冷却魔法が口から胃袋へと一直線に直通し、体内の灼熱の結界を瞬時に打ち破っていく。だが、あまりにも強力すぎる氷属性の反動(脳へのキーンという激しい痛み)が私の額を強烈に貫いた。
「ガハァッ……! これが、強力すぎる氷魔術(安いかき氷の急食い)の恐るべきデバフ(頭痛ダメージ)か……!」
だが、その鋭い痛みすらも祭りの狂乱の中では心地よいスパイスだ。
祭囃子の『コンチキチン』のリズムに乗りながら、私は青く染まった舌を見せて満足げに笑った。
「一流のギルドの料理だけがバフではない。屋台が放つチープで強引な魔法も、祭りの場においては極上の即効性霊薬となるのだな!」
巨大戦車の威風堂々たる行進を背に、私は夏の京都の熱狂(祝祭)を汗まみれになりながら存分に堪能するのであった。




