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第49話:魔導特急網羅の果てに(総括・西日本魔獣総進撃弁当)

「……フスッ。終わってみれば、長いようで一瞬(数ヶ月)の戦いであったな」

 再び最も太い『光の道(山陽新幹線)』の座席コックピットへと体を沈めた私は、窓の外を矢のように流れていく景色を眺めながら、静かに息を吐いた。

 今回の辺境討伐(第7部)は、大動脈である新幹線からさらに枝分かれする『特急(上位魔導騎獣)』をメインの乗騎として駆け抜けた。

 スーパーはくと、スーパーおき、くろしお、サンダーバード……。

 これらの特急が持つ『振り子式の強烈な重力魔法』や恐るべきスピードは、かつての勇者としての闘争本能を大いに刺激してくれた。

「魔境とは、ただ遠く離れた場所にあるのではない。特急という圧倒的な移動魔法で険しい山や海を越え、結界都市から引き離された先にこそ、真に隔離された『絶品ダンジョン』が存在するのだ」


「鳥取の牛骨(白き獣の霊薬)、山口の瓦そば(灼熱の城壁陣)、和歌山のラーメンと早寿司(無限の回復コンボ)、滋賀の鮒ずし(究極の毒耐性試験)、呉の冷麺(鋼の氷刃)、そして鶴橋の焼肉(迷宮深層の業火)」

 私はゆっくりと目を閉じ、これまでの各路線で展開された一つ一つの死闘(食事)の際立った味と香りを反芻した。

 どれもこれも、一般兵士(普通に働く人々)が過酷な日常を戦い抜くための、猛烈なカロリーと旨味の極致であった。

「私のステータス(体重)は、この数々の局地的な討伐クエストにより、確実に限界を突破してアップグレード(増量)されているはずだ」

 私は自分の分厚さを増した腹(鎧のさらに下にある脂肪のマント)をさすりながら、満足げに笑った。

「だが! これほどの激戦を終え、新幹線で凱旋の途につく勇者に対する『最大の褒賞フィナーレ』がまだ一つ残っているだろう?」


 私は、新幹線に乗り込む直前にターミナル駅の巨大ギルド(駅弁屋)で入念に調達しておいた、重厚な紙の箱(宝箱)をテーブル(祭壇)へと恭しく置いた。

「見よ。これこそが、西日本の魔物たちを総動員したかのような究極の魔導弁当……『近畿・中国・肉盛り名物幕の内(仮称)』だ!」

 パカッ、と箱の結界フタを解くと、中からは恐るべき光景が飛び出してきた。

「ほう……! 一角牛(すき焼き風の牛肉)の甘辛煮、地鶏(唐揚げ)の香草揚げ、さらにはオークの厚切り肉(豚の角煮)までが、白米の大地を完全に埋め尽くしているではないか!」

 まさに、これまでの激闘を小さな箱の中に凝縮したかのような『茶色の祝祭(カロリーの暴走)』。

 野菜類の回復魔法はごく僅かな漬物(結界の端の草)のみに留められ、あとは一切の妥協なき物理攻撃力(肉)で満たされている。


 私は付属の割り箸(使い捨ての魔術スティック)を割り、真っ黒に染まった一角牛(牛肉のしぐれ煮)をすくい上げ、冷えたご飯とともに口へ運んだ。

「……ンンッ!! 美味いッ!!」

 駅弁特有の、冷めていても味が落ちないように限界まで濃く調整された『過冷却の防腐魔法(濃い味付けと油のコントロール)』が、ガツンと脳髄を殴りつける。

 温かい出来立ての飯こそ至高という声もある。だが、動く密室(新幹線)の中で、流れる車窓を眺めながら喰らうこの「濃密に冷えた肉とひんやりした米」の独特な融合は、何物にも代えがたい極上の回復薬ポーションなのだ。

「フハハハッ! そして、この濃い味の暴力的連撃を洗い流すための聖水ビールよ!」

 プシュッ!

 私は用意していた『黄金の炭酸麦汁(プレミアムな缶ビール)』の手榴弾プルタブを引き抜き、泡立つ冷たい液体を一気に喉の奥へと流し込んだ。


「……クハァァァァッ!!」

 ビールの苦味と炭酸の爆発力(ディスペル魔法)が、肉の脂と甘辛いタレを強烈に洗い流し、一瞬にして口内をリセットする。

「これだ……。どんな激戦(地方のB級グルメ)の後でも、最後はこの黄金の麦汁と駅弁のコンボで凱旋の余韻を締める。これぞ、商人ギルド『JR線』を利用する勇者の絶対的特権!」

 時速300kmの超高速(神速の移動魔法)で流れる景色を極上のツマミにしながら、私は唐揚げを噛み砕き、豚の角煮の脂をすすり、冷えた白米を喰らい、ビールで全てを胃袋ブラックホールの深層へと叩き落としていく。

「フスッ、フスススッ! 西日本の魔物どもよ、私の腹の中で永遠にそのカロリー(魔力)を燃やし続けるが良い!」

 私の箸(魔杖)は、弁当箱の四隅にこびりついたご飯粒一つすらも決して逃さない、冷酷無比なるハンターと化していた。


「……ゴハァッ!!」

 見事に特濃の弁当を平らげ、最後のビールのしずくまで飲み干した私は、深く背もたれに沈み込んだ。

完全勝利コンプリート・クリアだ」

 ふっと息を吐き出すと、そこには微かなビールと醤油の香りの中に、これまでの旅で味わった牛骨、瓦そば、和歌山ラーメン、鮒ずし、呉冷麺、鶴橋焼肉の『幻影(残り香)』が混ざり合っているような気がした。

「……商人ギルド『JR西日本』。お前たちの管轄エリアは、私が思っていたよりも遥かに深く、そして猛烈に美味かった」

 私は、窓の外の暮れゆく西の空を眺めながら、確かな満足感(満腹バフ)とともにゆっくりと瞼を閉じた。

「だが、私の胃袋(限界値)はまだ底を打っていない。次なる広大なる世界(九州や四国、あるいは北の魔境か)に封印されし未踏の魔神たちが、私に喰われる日を震えて待っているのだからッ!」

 終わりなき勇者(強欲なるグルマン)の、次なる特急乗車を誓う静かな高笑いが、新幹線の圧倒的な走行音の中に吸い込まれていった。

(第49話 了)


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